財政破綻によって42人に1人がホームレスという、アメリカ南東部に位置するデトロイト市。今ではアメリカで一番治安が悪いと言われ、街中に家を失った人が悲しみとともに溢れかえっている。そんな彼らの力になるため行動したのは、一人の女子大生だ。しかし彼女に待ち受けていたのはホームレスからの“思わぬお叱り”であった…。
「ホームレスの存在感」は、コートが示す
自動車産業の衰退によって2013年に財政破綻したアメリカ・デトロイト市。これまで活気づいていたこの街の気配は一気に消え、街中には家をなくしホームレスが増え続けた。真冬のデトロイト市の平均気温はマイナス6度。とても外で寝られる状態ではない。
そんなホームレスたちのために立ち上がったのは一人の女子美大生、ベロニカだ。彼女は通っている大学で「社会が実際に必要とする製品を生み出す」という課題を与えられていたということもあり、5カ月間ホームレスたちと過ごして彼らが必要とするものを探し続けた。
そうして出た答えは「機能的なコート」だった。寒さを防ぐことができて、防水にもなる。そして時には寝袋や枕の代わりにもなるコートがあれば少しは生活が快適になるのではと思ったそうだ。(参照元:OPRAH.COM)
「ホームレスは存在しているにも関わらず、デトロイトの景観の中に消えていってしまいそうだったわ。だから彼らの存在を示すためにもこのコートが必要だったの」と当時の気持ちをベロニカは話す。(参照元:CNN)
「あなたがやっているのは全く意味のないことよ」
それからというもの、ベロニカはコートを作ってはホームレスたちに無償で渡し続けていた。当然、多くのホームレスが感謝を示し、ベロニカ自身も心地よく感じていただろう。しかし、本当の意味で彼らを救うことはできていなかったのだと気づく時がくる。
ある日のこと、ベロニカはいつものように出来上がったコートをホームレスたちの元へと届けた。すると一人の女性ホームレスが、怒りの表情を浮かべてベロニカにこう言った。
あなたは自分がやっていることについてどう思うの?これは全く意味のないことよ。私たちにコートは必要ない。必要なのは“仕事”なの
(引用元:HUFFPOST)
この時、ベロニカはハッとした。自分の善意はもしかしたら自己満足であったのかもしれない。これをきっかけに彼女は“コートを作ること”ではなく、“コートを作る会社を作ること”にシフトチェンジ。大学卒業後にNPO活動団体『The Empowerment Plan』を組織し、ホームレスを雇ってコート作り事業を開始した。
「ホームレス」という言葉は定義づけられない
今では事業も軌道に乗りはじめ、現在34人のホームレスを雇用している。従業員のほとんどは2~3人の子を持つ親で、ホームレスだけではなくその家族も救うことができるとベロニカは考える。
ホームレスはずっと存在しているものではないんです。だから彼らをホームレスという言葉で定義づけてしまうのは違うと思いました
(引用元:dailymail)
その言葉通り、以前までホームレスとしてシェルターハウスで暮らしていた“元ホームレス”のスミスさんはこう胸を張る。
今私は独立しているんだ。国はもう頼っていない
(引用元:dailymail)
今でもホームレスに無料でコートを配り続け、その数は総計15000枚にも及ぶそう。しかし同時に企業や市民団体、個人からはこの機能的なコートの購入注文殺到し利益も上げることができている。今後事業はさらに拡大する見込みだ。
身なりを整えるだけでは生まれない“誇り”
雇用主として大切なことは、社員が会社の利益ではなく社会のために必要だと示すことなんです
(引用元:CNN)
そうベロニカは語る。最初にコートを配っていた時には「身なりを整えることでホームレスたちに誇りを持って欲しい」と思っていたそうだが、実際に彼らが誇りを持ち始めたのは仕事を手にしてからであった。
ホームレスの人たちは、自分自身に誇りを持つために独立を望んでいるんです。彼らは自分の幸せのために誰かに頼らざるをえないという状況は、決して望んでいません
(引用元:HUFFPOST)
人が生き生きと生活するために必要なものは、お金や名誉ではなく社会に必要とされることなのだ。これはホームレスだけではなく、人間だれにでも言えることであろう。もしあなたが今の仕事にどこか物足りなさを感じているのであれば、お金の他に「社会との繋がり」という視点で仕事を捉えてみるといいだろう。きっと何か新しい気づきが生まれるはずだ。
The Empowerment Plan
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。