「環境活動=まじめ=つまらない」。そんなイメージを吹き飛ばす環境NGOが日本に存在する。それが「国際環境NGO 350.org Japan (以下、350)」だ。
年齢、職業、性別、人種もとにかく多様。下は6歳の子供から上は70代のおばあちゃんまで。また、シングルマザーや障がいを持った人、外国人もメンバーにいる。そこで主体的に動いているのは主にミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭までに生まれた世代)の若者たち。上も下もないフラットな組織である350は、気候の公平性と訳される「*1クライメート・ジャスティス」の角度から、お金と気候変動にまつわる問題を楽しく広めていく活動に取り組んでいる。
少しでも多くの人に、楽しみながら環境活動ができることを知ってもらいたい!その一心で、今月からBe inspired!では、以前本誌でも紹介した350のフィールド・オーガナイザー イアン氏が、350の活動に関わる人をインタビューする連載をお届けする。その名も『「世界は気候変動で繋がっている」。若き環境アクティビストのリアルな声。by 350.org』。
▶︎350.org Japan フィールド・オーガナイザー イアン氏のインタビュー記事はこちらから『「日本の銀行が環境破壊に加担する事実」を知らない日本人へ。25歳のアクティビストが提案する解決策とは』
(*1)クライメート・ジャスティス:「気候の公平性」と訳されるこの言葉は、先進国に暮らす私たちが、石油や石炭などの化石燃料を大量消費してきたことで引き起こした温暖化への責任を果たし、すべての人々の暮らしと生態系の尊さを重視した取り組みによって、温暖化を解決しようとするコンセプト。
実は350 Japanのボランティアにはモデルもサーファーもいます。
今回話を聞いたのは、札幌でも自然豊かな地域で育ったモデルの小野りりあん。りりあんは、6歳の時にアマゾンの森林が切られている動画を観て、子ども心にとても傷ついたことや、周りの大人がそういった問題について話していたことが環境に関心を持ったきっかけになったと話す。
もう一人はサーフィンが大好きな大学4年生のいずみ。生まれも育ちも鎌倉で、遊びに行くなら海か山。自然に囲まれて育ったことやクリスチャンだった親の教えもあり、貧しい人を救うことが使命だと子供のころから感じていた。大学生の時に、*2セルジュラトゥーシュの「脱成長のとき」の本に出会い、今いる環境で自分にできることをやらなければいけないと気づいたことが環境活動に関わるきっかけになったそう。
(*2)セルジュラトゥーシュの「脱成長のとき」:本当の豊かさとは何かを追い求め、経済成長を続ける現代社会からの決別について書かれた本。発展途上国は発展していき、先進国は便利さを手放すことで、同じ生活水準を目指すべきだと説いている。
「自分が住んでいるところや周りの人だけ幸せになるのは違うと思った」
イアン:まずはちょっと過去へ遡ってみます。350の活動に参加するまでの経緯について教えてください!
りりあん:15歳の時にモデル事務所にスカウトされて、東京と札幌を行き来する生活をし始めたんだよね。でも22歳の時にモデルじゃない人生を生きてみたい、冒険したいって思ったの。結果的に3年後にまたモデル復帰したんだけど、やってなかった間は、世界中あちこち行ってたよ。環境活動に繋がるところだけ抜粋すると…ほぼ無人島みたいなカナダのハンソン島に行って、自給自足する仙人のところで生活したり、パーマカルチャーを学んだりした。あとはデンマークのIPCっていう学校で、37ヵ国から生徒が集まって世界の問題についてディスカッションする授業を受けてたり、北海道のNGO ezorockでリサイクル啓発の活動にも参加したり。
でも、自分が住んでいるところや周りの人だけ幸せになるのは違うと思ったの。環境問題は世界規模の問題だし、もっとそういった世界の人と繋がっている実感が湧くような活動をしたいと思うようになったんだ。そこで初めて勇気を出して、2015年にあったCOP21(気候変動枠組条約締約国会議)の気候変動マーチに参加して、イアン扮するアースマン(地球のコスチュームをきた人で、350のマスコット的な存在)に出会ったんだよね。なんだか面白い人がいるって思って、話を聞いたことが活動に参加したきっかけ。(笑)
イアン:あ、同じハーフがいるって思ったのを今でも鮮明に覚えてる(笑)一人でサステナブルな暮らしをするより、もっとたくさんの人と一緒にグローバルな問題を解決したいと思ったんだね。
「オーストラリアの環境活動は夜に電気を消して、野原でギターを弾いて、環境の話したり。カッコ良いものばかりだった」
イアン:いずみが350の活動に参加した経緯はなんだっけ?
いずみ:オーストラリアのクイーンズランド大学に留学した時に、Fossil Free(化石燃料廃止)の*3ダイベストメントキャンペーンで、大学生たちがキャンパスで大きな環境デモを楽しみながらやってて。日本では信条とか政治の考えとかあまり外に出すことがないから、すごく印象的だったな。夜に電気を消して、野原でギターを弾いて、環境の話したり。カッコ良いものばかりだった。こういうのを日本でやっていたのが、350だったんだよね。
イアンとは大学時代から友達で、オーストラリアから帰ってきた頃にはもう350で働いてて、ちょうどイベントに向けて準備してた時にボランティアに参加したことが最初だったな。
イアン:たしか昨年の2月頃の就活でめっちゃ忙しい時期に350にジョインしたよね。初めて参加してくれたミーティングで、いずみのスーツ姿見て思わず笑っちゃった(笑)
(*3)ダイベストメント:「投資撤退」と訳されるこの言葉は、近年、気候変動や二酸化炭素排出量の削減など環境課題への関心が高まる欧米を中心に急成長する、企業や学校、個人を含む誰もが「気候変動に加担する事業・企業への資金提供を中止します!」と公に宣言できるアクションの一つ。
真面目にふざけて、楽しく真面目なことをする。それが350流。
イアン:そしたら、これまで350でどんな活動に参加してきたか教えてくださーい!
いずみ:350のマスコットキャラクターのアースマンを着て、フリーハグをしながら原宿とかを徘徊して、人を呼び込むゆるい活動から、メガバンクが実際どんな投資をしているのかっていう環境レポートを投資家さんに配るガッツリ系の活動までいろいろやってきたかな。
でも、基本は雰囲気担当。(笑)アースマン(一応アースガールかな?)をやっているといろんな人に出会えるから好き。顔を青塗りしているから、子供にびびられたり、フリーハグをしてくれない人がいると落ち込むけど、もっと子供にも、大人にも愛されるアースガールを目指したいな!
りりあん:最初は、なんでもやってみたい!って姿勢で、イアンに誘われるまま200人くらいの前でイアンと司会をやるっていう無茶なことしたりしたな…笑 本格的に関わり始めたのは「MY BANK MY FUTURE(地球にやさしい銀行選択する、誰でも参加できるキャンペーン)」のロゴデザインを考えるチームに加わった時。ファッションとかアートとかの畑出身だから、そういう形で力になれるのが好きみたい。あと、たまにやるオフ会も大好き!
イアン:なんかホッコリするなあ。(笑)
ほとんどの日本人が知らない「ATMに預けたお金の行方」。
イアン:活動の中で学んだことって何かある?
りりあん:お金の流れが自然を壊す原因になっているってこと。とても遠いように見えて、実は深い関わりがあるんだよ。だからね、ここを変えていくにはどうすれば良いかを、もっとみんなで考えていきたいな。
イアン:そうだよね。ATMに預けたお金がどこにいってるかなんて、ほとんどの人が普段考えないことだよね。
りりあん:うん。特に*4三菱東京UFJ銀行やみずほ銀行などのメガバンクが化石燃料を掘り出すことにたくさん融資してるから、自分のお金を銀行に預けてるだけで知らない間に間接的に加担していたり、応援していることになってるんだよね。私も初めて聞いた時びっくりだったよー!
いずみ:ダコタアクセスパイプラインのことで、自分ごとになった人も多かったよね。ここにもみずほ銀行とか三菱東京UFJ銀行がたくさんお金を融資してたのは衝撃だった。
日本の銀行って、良い面をアピールして良くない面は見せないように隠してる。こういう問題に無関心でいられる日本人ってある意味幸せな人たちだな〜って思うけど、気候変動が悪化すると海面が上昇したり空気が汚染されて、巡り巡って自分たちに戻ってくるのに、なんで気づかないんだろう?って思う。
(*4)メガバンク:350.org Japan が行った調査により、三菱東京UFJ銀行やみずほ銀行などの日本の銀行の多くが地球環境を危険にさらす化石燃料や原子力に関わる企業にお金を流していることがわかっている。
「預けたお金の向こう側に、苦しんでいる人の顔があるのを知った」
イアン:そういえば、いずみは今年8月に台湾であった「East Asia Climate Leadership Camp<気候変動リーダーズキャンプ>(以下、EACLC)」に参加したよね。
いずみ:そうそう。東アジア中から気候変動に関わってる人が集まってて、めちゃ刺激的だった!参加者の中に日本のメガバンクが融資してる火力発電所の被害を受けている地域の住民のとかもいてさ。
実際に台湾の台中ってところにある石炭火力発電所にも行って、その辺りは空気が本当に汚かったし、近くの木の葉っぱを触ったら手に付くくらい灰が付いてた。プラントの冷却のための水を大量にしかも温かいまま海に流していて、見たことない色ですんごい臭いだった。近くに人が住んでいるのに、なんで放置できるの?って感じたな。一緒に参加していたフィリピンの人も、自然を奪われるって言って怒ってた。
イアン:預けたお金の向こう側に、苦しんでいる人の顔があるのを知ったって日本の参加者が言ってたのが印象的だったな。
環境活動に正解はない。
イアン:それでは最後に、今どういうことを進めているか教えてください!!
いずみ:もっといろんな地域でダイベストメントを広げるために、まず自分の地元の「song de cafe」さんっていうナイスなカフェを借りて、イベントを企画中。これが成功したら、他の地域のカフェでもダイベストメントを伝えていきたいな。
りりあん:*5 レッツ・ダイベストキャンペーンに向けて、それぞれチームに別れて活動してる。りりあんは、Tシャツをデザインして作ったり、東京にいる関心持った人たちが実際に銀行を移すアクションに繋がるイベント企画したり、あとはインスタグラムを活発化させるために戦略を考えてるよ。
イアン:どんな人たちに、どんな感じで活動に加わってもらいたいですか?
りりあん:面白いものを作りたい人にきてほしい!みんなの頭の中の「環境活動」っていうイメージに当てはまらないものを一緒にもっと作っていきたいな。もちろん、当てはまるような事をしたい人もカモンだよ。(笑) ただ、350の活動には、“これが正しい”とか、“こういう風にやらなきゃいけない”っていうのがないんだよね。自由なアイディア大歓迎なの。もっと色んな可能性を広げて自分が持っているものを生かしながら一緒に作っていきたいな。
いずみ:やっちゃう?っていうノリで楽しくできるのも350の魅力。縦の関係性もないのが良いよね。
りりあん:気候変動とか、地球温暖化って大きな問題すぎて、自分にはできることがないって思っている人が多いと思うけど、個人レベルで活動できるのが350だよね。
いずみ:みんな忙しい中でも、できる範囲で活動してる。10%でも5%でもスキマ時間で参加するのでも良いしさ。ランチミーティングにご飯食べに来て、話すだけでも良いから来て欲しい。あとやっぱり色んな人と一緒にアースガールやりたい!
(*5)レッツ・ダイベストキャンペーン:気候変動問題を悪化させる化石燃料やリスクの高い原発にお金を流していない「地球にやさしい銀行」にメインの預け先を乗り換えるダイベストメント・キャンペーン
「未来の世代の生活」のために、今あなたがとれる“アクション”。
350は今、気候変動を悪化させている銀行から「地球にやさしい銀行」へと口座を乗り換えることを促すキャンペーン「レッツ・ダイベスト月間」に向けて、ボランティアと一丸となり準備を進めている。キャンペーンは11月6日ローンチ予定だ。
気候変動は一見遠い話のようだが、あなたの生活と繋がっている。銀行の融資先の話にあったように、私たちのお金の先には、先住民部族や途上国の人々の生活、そして未来の世代の生活がある。350では、活動をともにするボランティアを募集している。少しでもビビッとくるものがあったなら、ぜひ参加してみてほしい。
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350.org
ボランティアに参加する / 署名する / 銀行を変える / 銀行に声を届ける
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。