「セックス」の話をしよう。あなたのソレはどんなふうに始まった? 思い出してほしい。それぞれ悲喜こもごもあっただろうが、初めての実践は何かと気を使っただろう。ちなみに筆者は、「なんで先生は人間の身体について雄しべだの雌しべだのと遠回しに教えるんだ」なんて憤慨した口だ。詳しくは聞かないで。
あなたが受けた性教育も、多くは同じように曖昧なものだっただろう。だからこそ、本稿で紹介する試みには驚かされた。ノルウェーの国営放送「NRK」が、ネットにあふれているポルノとは違う、「ありのままのセックス」を放映したのだ。
ターゲットは性知識に乏しい子どもたち。「間違った知識をネットのポルノで身につけがちな若者の現状」に、NRKはこのようなかたちで一石を投じた。この社会実験に対し、SNSでは賛否両論が巻き起こっている。今回はこの試みをなぞりつつ、日本の性教育の問題点に触れ、私たちにいま何ができるのかを考えていきたい。
性教育の革新派ノルウェー、ついに国営放送で「一般人のセックス」を放映
ノルウェーに波紋を呼び込んだ番組の名は、『Line fikser kroppen』(リーネが身体を整える)。ざっくり説明すると、現地の人気タレントLine Elvsåshagen(リーネ・エルヴスサシェーゲン)さんが、さまざまな性の悩み(乳房・性器の形についても含む)の解決に体当たりで挑んでいく、といった内容だ。まあ百聞は一見にしかずということで、こちらから番組をご確認いただきたい(全話フリーで視聴可能)。ちなみに対象年齢は9歳以上。
特に話題を集めたのが放送4回目。番組冒頭でリーネが発した、「初めてポルノを見たとき私は『マジで! このセックスは本物なの!?』と思ったわ。だから誰かありのままのセックスを見せてくれない?」という問いかけに応えた一般人の、「ありのままのセックス」を放映した回だ。
Photo by @linefikserkroppen
出演したアクセルとイングリは学生同士のカップル。「私たちが若者のために何か役に立てれば」と同意のうえで出演した。彼らは終始笑顔でことに及び、インタビューで出演した感想を聞くと、「ぼくたちは楽しいひとときを過ごしたよ。イングリとのセックスは快楽以上のものなんだ」とアクセル。イングリは「彼が笑っていることが何よりの喜びなの」と答えた。
さて、全6回の放送が先日最終回を迎えた同番組に対し、視聴者が毎週SNSで議論を行なっていたのだが、ここではその一部を見ていこう。
Speaking the truth 🙏🏻 Dette oppsummerer programmet bra! 👊🏼 #LineFikserKroppen pic.twitter.com/b6xbDniUJH
— Marita Solheim (@solhe1m) November 7, 2017
Etter å ha sett dei fyste 4 episodane i dag, vil eg berre sjå dei to neste av «Line fikser kroppen»! @NRKno #linefikserkroppen
— Senterbipolaristen (@Dorthea_SUL) November 28, 2017
#linefikserkroppen så er det store spørsmålet om man får bedre selvbilde av å vise seg frem i trusen?
— Ingrid Thornes (@lilleDings) November 1, 2017
しかし、もともと性教育の革新派だったNRKとはいえ、一般人のセックスの様子を、しかも国営機関が放送してしまうのだから驚きだ。彼らは過去にも女性器や生理について、モザイクを一切使わない映像で説明した番組を放送しているが、さすがに今回は賛否両論が巻き起こった。
NRKのFacebookの投稿のコメント欄には、「この2人は本当に勇敢で、セックスがどういうものなのかを教えてくれる」「アクセルとイングリの2人に救われている人は絶対にいると思うよ!」なんて肯定派から、「セックスのやり方は人それぞれじゃない? 国が決めることじゃないでしょう」「これをテレビでやるのはさすがになあ…」という否定派まで、多くの主張で溢れたのだ。
ともかく、こうした場を作るNRKに、文字通り身体を張ったアクセルとイングリ、真剣に議論する人々。多くの人が性に対して真正面から向き合っている姿には、清々しさすら覚える。
性教育の保守派日本、「具体的な性表現」を避け、教育現場は疲弊
ひるがえって日本の性教育はどうだろう。2002年の性教育に関する図書回収騒動をはじめとする性教育への批評を発端に、具体的な事例や表現が明記されない教科書が一般的になった。ノルウェーが革新派なら日本は保守派だが、ここで必要なのは、どちらがいいかという議論ではない。日本の問題は、具体的に教えないという点にある。
また、日本の問題は教育現場の疲弊と相まって、そう単純な問題ではなくなってきているらしい。「モンスターペアレント」という言葉が一般化して久しいが、年々教職員の労働環境は悪化しており、休みは週に一回あればいいほう。部活動の顧問を担当する場合はほぼ休みなしで働いているのが現状だ。
そんな環境下で、身体の発達や性に関する知識を教える保健の時間は、国語や数学といった一般教科に比べると著しく少ない(保健の授業は体育との割合比で考えると半分以下になることが多い)。加えて保健で学ぶ知識は「受験では役に立たない」と、生徒から敬遠されるケースも少なくない。(参照元:Yahoo!ニュース, 現代ビジネス, NHK, 文部科学省)
さらに既述のように教科書の内容も具体的でないため、裁量権を(無理やり)与えられた教員が、「どこまで踏み込んで教えていいものか」悩んでしまうのは珍しくないのだ。というわけで、教育現場も努力はしているが、今のところ他のことで手一杯なのである。
変わりつつある性産業界。改革を先導する「ポルノ」の数々。
NRKがリーネと番組を始めた理由に、「現実的でないポルノ」の存在を挙げたが、セックス産業界が改革の動きを見せている。
たとえば、演技のないオーガニックなポルノ。それからポルノの製作を「性の多様性を広める」という社会貢献につなげたプロダクションがあれば、“正しい性教育”を発信する大人のオモチャメーカーもあり、「無理やり」など使い古された業界の常識を真正面から壊しにかかっている。各国で業界に対する自浄作用が機能しだしている印象だ。
教育現場も、働き方改革により労働環境改善に動き出しているが、それでは今の子どもたちがとりこぼされてしまう。性教育に対する世間の潮流が大きく変わるまでは、私たち大人が導き手にならなければならない。
リーネが初めて見たポルノに対して疑問を抱いたように、社会に溢れた“性のあり方”に疑問を持ち、まず「互いに同意を得る」「相手の嫌がることはしない」という基本原則を徹底しよう。変化の時代を生きる私たちが、次代の手本となるために、今一度「性」を学び直し、性教育改革を起こすときが来ているのかもしれない。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。