「ファストファッションって、ファッションじゃない」れもんらいふ千原徹也の『記憶の一着』|赤澤えると『記憶の一着』 #002

Text: ERU AKAZAWA

Photography: ULYSSES AOKI unless otherwise stated.

2018.2.13

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こんにちは。赤澤 えるです。思い出の服を持ち寄る連載『記憶の一着』第2回です。たくさんの服が捨てられる世の中で、残る服って何だろう。それはどうして残るのだろう。それを手放す時ってどんな時…?

服の価値、服の未来、ゲストのお話をヒントに考えていく連載です。

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左:赤澤える 右:れもんらいふ代表・千原徹也さん

▶︎赤澤えるのインタビュー記事はこちら

本日のゲストはれもんらいふ代表・千原徹也さん。金髪に大きな眼鏡がトレードマークの彼は、今や東京カルチャーを語る上で外すことのできない人物。名実ともに東京を代表するアートディレクターです。ファッション誌の表紙デザインや、数々の有名ミュージシャンのCDジャケット、各界の有名人とのコラボレーションでもおなじみの彼が選ぶ、「記憶の一着」とは?

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運命の出会いを生んだ、千原徹也の『記憶の一着』とは

赤澤 える(以下、える):『記憶の一着』について聞かせてください。

千原 徹也(以下、千原):「nakEd bunch(ネイキド バンチ)」のニット。28歳くらいの時、まだ京都に住んでた頃に代官山で買ったの。イラストレーターのエドツワキさんが昔10年やってたブランドでね。僕は単純にエドさんのファンで、京都から代官山に毎シーズンわざわざ買いに行ってたんです。いつも好きな服を買うだけのために東京に行ってた。

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える:記憶の一着としてこれを選んだ理由は何ですか?

千原:たまたまこれを買った時のことをよく覚えているんです。エドさんは当時シトロエンというお洒落な車に乗ってて。その車、今井美樹さんの「PRIDE」って曲のPVで実際に出てるんですよ。しかもエドさん本人が運転してるの。そういうのも含めてすごいお洒落な人。イラストもかっこいいしファンだった。お店に行ったらね、お店の前にその車が停まってたんですよ。「うわ…エドツワキさんいるわ…」って思った。

える:念願のご対面ですね。

千原:でもね、結局そこにはいなくて。まぁでもこのニットを買って、その日の夕方に京都に帰ったんですよ。京都でクリエイティブディレクターの佐藤可士和さんの講演があって予約してて。一回家に帰ってこれを着て、その講演にちょっと遅れて行ったんです。そしたら会場がパンパンで席が無くて。後ろの方にパイプ椅子が追加されてたからそこに座ったんですよ。そしたら隣の席がちょっと可愛らしい若い女の子だったんですけど、その人が「その服めっちゃかわいいですね」って褒めてくれたんです。それが初めて会話した、僕の奥さん。

える:え!すごい!

千原:その後そこにいたメンバー何人かで飲みに行って。僕はその時もう東京に引っ越すって決まってたんです。まだ大学生だった今の奥さんにその話をしたら「来年東京に就職しようと思ってる」って言われて連絡先を交換して、付き合ったのはそこから5〜6年経ってからですが、それがきっかけでした。奥さんもこの話を覚えてますよ。隣の席の人に服のことなんて滅多に言わないでしょ。笑 まさか10年後に結婚してるなんてね。エドさんにもこの話をしたら「そのきっかけを作っただけでもこのブランドやってた意味があった」って言ってくれた。これはね、今でもたまに着てます。だいぶヨレヨレだけど、もう14年も着てるからね。思い出深い。今はエドツワキさんともきちんと出会ってお友達であるっていうのも、nakEd bunchというブランドが好きだったからだと思うし。本当に記憶の一着。

える:本当ですね。ぎゅっと詰まってる。

千原:これね、なんとなく捨てられなかったわけでもなくて、すごく気に入ってたから長く着てただけなんだよね。絶対捨てないって決めてたわけじゃないです。でも今でも残っていて持ってるっていうのが、なんかおもしろい。

える:当時はどうやってファッションの情報を仕入れてたんですか?

千原:雑誌ですね。その頃はインターネットが無いから。nakEd bunchは“relax(リラックス)”って雑誌に載ってたり、小泉今日子さんとか色々な著名人が着ていてお洒落だったんです。当時はolive(オリーブ)を見て古着屋さんとか、東京にしかない店をまわってたんですよ。その時に買いました。

える:時代のワードがいっぱい出ますね。

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みんなが買っているものは買わない

える:この服をもし手放すとしたらどんな時ですか?

千原:もうボロボロだから、人にあげるにしてもねぇ。14年も着てるから、もはや他の人が着れるのかっていう…。でも自分の子どもが欲しいって言ったらあげるかな。そしたらアレンジとかしてもらっても良いね。

える:モノを大切にされるんですね。物持ちが良いと言うか、結構どれも長く持ってますよね?

千原:そんなことないよ。着ないやつはサラッとあげちゃってる。いっぱいあっても同じ服しか着ないんだよね。

える:千原さんって、いつも個性的な服を選ぶイメージ。

千原:着るモノで個性というか、性格が分かるよね。えるちゃんは赤ばっかり着てるからこだわりが強い人なんだろうなとか、ちゃんとそういうのを整理できて決められる人なのかなとか、ちょっと大変な人かもなとか。笑 赤い服ばっかり着てるっていうだけでどういう人か想像ができる。服って自分に対して一番見られてるものじゃない?だからみんな常に自分の性格とか好きなものとか考えて買うと良いと思う。

える:確かにそうですね。私の場合は色と大体のシルエットで覚えてもらえていることが多いかも。私にとってこのスタイルは正装のようなものです。一番好きな色とアイテムと髪型が変わらないから変える必要も今はない。これ以上の好きなものがないんです。

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千原:ファッションって頑張るのも格好悪いみたいなところあるじゃない。ちゃんとしてても「いつも全身ヴィトンだね」とか言われるのも恥ずかしい。とはいえ普通の格好してたら何も思われない。相手に見透かされる部分でもある。やっぱり一番自分の恥ずかしい面が出ると思うんです。本当は自分らしさを一番持てる部分なんだけど。世の中の人って若い人もみんな同じ格好するじゃん。あれ何なんですかね、ジャンルがキレイに分かれるよね。関西のギャルってこういうことだなとか、OLってこういうことだなとか、ママってこうだなとかさ。スタイルがあるでしょ。本当はそこを崩すっていうことが一番重要で、本当の自分はそこを揃えることじゃなかったりすると思うんです。僕はそれを逆に意識してる。誰も着ない服を着ようとか。えるちゃんは?

える:確かに、ママだからこれは着れないとかよく聞きますよね。私はそういうの、自分ではもう分からない。好きなものは好きだからあまり気にしたことがないかも。赤が好き、ワンピースが好き、髪型はボブが好き、以上!ってかんじ。いつ飽きるのかも分からない。誰かに変なのって笑われても、その人に合わせる必要なんてない。合わせたところに自分の納得や幸せは絶対に無い。これは言い切れます。周りにどう思われるかっていうことよりも、自分が好きなファッションとか、ファッションを好きな自分の方が優先順位が圧倒的に高いです。千原さんもそうですよねきっと。

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千原:そうそう。1個で良いからこれは誰も着ないだろうとか買わないだろうっていうもの、その人の気持ちで買ったものがあれば。思い切ったやつが1個でも。それで自然に他のものもコーディネートされていくと思う。これ誰が買うの?ってものをじゃあ僕が買う!ってなるものがやっぱり1つは無いと。

僕は最近デカすぎる帽子を買いました。デカすぎて中が余ります。笑 試着しながらお店の人に「これサイズ変ですよね?」って言ったら「そうなんですよ、だから誰も買わないんです」って言うから、…じゃあ僕が買おうって。でもやっぱりデカすぎて中が空洞になるから、この前は小銭入れをここに。笑

える:ははは。笑

千原:服を作ってる側もヒントになると思うんですよ、みんなが買っているものは買わないっていうことが。これ売れてるんですっていうものは絶対買いたくない。

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ファストファッションって、ファッションじゃないんだよ

える:そういえば千原さんって、ファストファッションのアイテムを持っているイメージが無いです。

千原:僕は買わないね。みんな同じ服になっちゃうっていうのは、チョイスするべきものになっていないというか、そこが何となく“良い”って言いづらい。安いってことも僕はあまり良いと思ってない。ファストファッションのおかげでみんな服を買わなくなったよね、良い服をね。良い服っていうのは質が良いとか値段が高いって意味じゃなくて、個性のあるもの。そういうものが必要なくなったかんじ。みんなお金使わないじゃん。服どころか何にも使わないよね。もっとうまくお金を使って良い服着ようってなってほしい。

える:「個性のある服=良い服」。千原さんらしい。

千原:ファストファッションがうまいブランド戦略をできてしまっているから、みんなの気分が何となくそれで良いってなってるよ。安くてそれなりの気分を味わえるなら、買わざるを得ないんだよ。もうちょっと他のブランドがパワー出していかないといけないんだけどね。高くても欲しいって思わせるっていうか。ファストファッションって、ファッションじゃないんだよ。パーツじゃん。部品。ファッションってそういうことじゃない。もっと全体のこと。

える:千原さんってファストファッションブランドで買い物したこと自体がないですか?

千原:ユニクロのスターウォーズくらいかな。僕ヒートテックも買ったことない。あ、でも僕American Apparel(アメリカンアパレル)ではよく買ってたよ。ハイソックスを。

える:あそこはファストファッションの中でも個性というか多様性を感じたような気がします。私は買ったことないけど。

千原:ハイソックスって今どこにもかわいいのがないんだよなぁ。どこで買えばいいの?僕好きなんだけど。

える:千原さんが作るのはどうですか?私も靴下作りたいって思ってるんです。

千原:いいね。一緒にやりましょうか。

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千原さんにとってファッションとは、個性そのものなのだと思います。彼らしい服装というものが確かに存在していることが何よりの証。千原さんは私にも同じことを言ってくれました。それは強い武器だよ、とも。

大切な人と自分を繋ぐものが自分という個性をつくっているなんて、とても素敵。千原さんのニットのように、未来の自分への贈り物になるようなものが今1つでも選べていたら良いなと思います。これから迎え入れるものをより丁寧に選びたくなる時間でした。

Tetsuya Chihara(千原 徹也)

Twitter | Instagram

れもんらいふ公式サイト

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ERU AKAZAWA

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LEBECCA boutiqueブランド総合ディレクターをはじめ、様々な分野でマルチに活動。
特にエシカルファッションに強い興味・関心を寄せ、自分なりの解釈を織り交ぜたアプローチを続けている。
また、参加者全員が「思い出の服」をドレスコードとして身につけ、
新しいファッションカルチャーを発信する世界初の服フェス
『instant GALA(インスタント・ガラ)』のクリエイティブディレクターに就任。
イベントの公式ウェブサイトは2月中旬にオープン予定。
最新情報は赤澤えるのSNSをチェック。

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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