こんにちは。赤澤 えるです。
思い出の服を持ち寄る連載『記憶の一着』、第4回です。
たくさんの服が捨てられる世の中で、残る服って何だろう。それはどうして残るのだろう。それを手放す時ってどんな時…?
服の価値、服の未来、
ゲストのお話をヒントに考えていく連載です。
▶︎赤澤えるのインタビュー記事はこちら
本日のゲストはミュージシャン・永原真夏さん。人気バンド「SEBASTIAN X」の活動休止後すぐにソロ活動をスタートさせ、今年3月には初のソロアルバムをリリースしたばかり。顔立ちからは想像のつかない力強い歌声と圧倒的な歌唱力を持つ彼女が選ぶ、「記憶の一着」とは?
9年前に古着屋の友人から貰った『記憶の一着』とは
赤澤 える(以下、える):『記憶の一着』について聞かせてください。
永原真夏(以下、真夏):このライダースです。これは自分で買ったものじゃなくて8、9年前に古着屋の友人から貰いました。人から貰ったというだけで自分にとってはスペシャルだったのでずっと大事にしています。正装ですね。これは小さいサイズで腕も丈も短いけど、それが自分の体にぴったりハマって。
える: SEBASTIAN X(セバスチャン エックス)を結成して1、2年くらいの時ですね。
真夏:そう、出たての頃。CD出した直後とかかな。バンドをやっている中で「自分で買うのはなんだか気恥ずかしい」という印象があったり、ピカピカのライダースを着るのは嫌だと思っていたのもあり、自分では持っていないものでした。何処にでも持っていくので、エピソードはキリがないです。このインタビューのオファーを受けた時も迷わずこれって思いました。これ以外考えられない。
える:真夏さんに黒の印象がなかったのですが、お好きなのですか?
真夏:白の方が好きです。黒は白を引き立たせる色。女の子の正装って色々あるけど、自分にとってはこれが一番ベーシックなんです。暑いからこれを着てライブをすることはないけどね(笑)
このライダースが“正装”
真夏:このライダースはいつも着ているから、思い出を挙げようとしたらもうありすぎるんだけど…着ていて楽しかったなって思い出すのは、サンフランシスコに行った時のこと。夜は少し寒かったからこれを着ていたんですけど、昼は暑かったからつばの広い麦わら帽子をかぶっていたんです。ライダースと麦わら帽子を組み合わせている私を見て、街ゆく人が「最高の組み合わせだね!」って次々言ってくれたんです。雑な組み合わせになっちゃったと思っていたけど意外と関係ないのか!って、1つ自分のスタイルになったかもしれない。でももう、このライダースとの思い出はそれだけじゃなく色々あります。
える:真夏さんにとってはトレードマーク的な存在ですかね。
真夏:そうですね、定番です。寒かったら着る。私にとってはこれが正装でもあります。それを着るまでは何を着ていたかは…あれ、なんだろう、分からない…
える:それだけこのライダースが自分にしっくりきて着続けているんですね。
真夏:あ、でもその前の服が1つある!私、中学生の時に着ていたピーコートを20代になっても着ていました。多分、気に入ると延々と着るタイプなんです。好きなものがずっと変わらない。困ったなぁってくらい。
える:物持ちが良いだけでなく、自分の定番を作るのが上手なんですね。
真夏:でも、リリースの度にビジュアルや印象で変化を表現したい気持ちはあるんです。けど、自分の趣味が変わらないからもう仕方ないなって最近思い始めました。
える:それってすごい良いところですよね。変えちゃいけないって思っていたり、誰かから指示されているわけじゃないんですもんね。
真夏:好きなものが変わらないっていうのと不精な性格が合わさっているだけなんですけどね。これより好きなものがないっていうシンプルな気持ち。私はこれなんだ!っていう気持ちよりも、ただただこれより気に入るものが見つからないんだっていうだけ。
える:おばあちゃんになっても着てるんだろうな。
真夏:そうですね。でもこれ小さいから太らないようにしないと。ちょっと太ったらパツパツになっちゃうから(笑)でもね、この小ささが可愛くて。もしかしたら新しいのに出会えるかもしれないって思って探したこともあるんですけど、大きすぎたり長すぎたり、仲がボロボロだったり革の臭いが気になったり。結局これなんだなって思っています。もう自分に馴染んでる。最高の一着ですね。
える:この服をもし手放すとしたらどんな時ですか?
真夏:えー!手放さないです。最後まで自分の元が良いです。自分の子どもでも「自分で買いな」って言います。自分のスペシャルは自分で探してほしい。だからあげたりはしないかな。
何者かになる・ならないの二極論をやめたい
える:この服が音楽活動に影響していることって、何かありますか?
真夏:私の真髄としてはパンクミュージックやヒップホップから音楽に触れ合っていっているので、そういう初期衝動みたいなものはどんな音楽をやってどう見られていても、根本にあるんだなって思うんです。表面的な音楽性ではなく、自分のスタイルの表現なので。それが服にも現れている気がする。
える:この容姿からは想像がつかない歌声を出す人だなって前から思っていて、服装にもそのコントラストというかそこに近いギャップを感じました。お顔の可愛らしさと歌の強さ、中に着ている服の可愛らしさとライダースの強さ、両端ものを合わせているのに絶妙にマッチする形で表現しているというか。それができているのって真夏さんの大きな魅力だなって思います。ご自身としては意識されているのでしょうか。
真夏:意識しているかは分からないですけど、多少アンバランスな方が好きです。ちょっとはずしたいというか。服装は、好きなものを合わせて着たらこうなったという感じ。何と言うか、私は何者かになる・ならないの二極論を早くやめた方が良くなると思うんです。自分の中で100%何者かになるんだ!っていう思想じゃなくて、私は65%何かになりたい!とかで良いと思うんですよ。
える:可愛いだけでも、かっこいいだけでも、選べなければどっちもやればいい!ってイメージですかね。
真夏:うん。それは素晴らしいことに繋がっていると思う。例えば私は本が好きだっていう人がいたとして、じゃあ小説家になるか編集者になるかどちらかしかないのかっていうとそんなことないじゃないですか。会社員、学生、関係ない仕事をしていても、今はZINEの文化だって盛んだし。自分の中で20%納得がいく、でも80%は何者でもないですよっていう、これで良いと思うんです。
える:私もそういう思いがずっとあります。実際、私は1つの肩書きで仕事や活動していたことが学生時代からほぼ無いです。やりたいことが1つの肩書きじゃおさまらない。でもそれを否定する声も大きく聞こえてくる。だから今の真夏さんの発言って、私の気持ちを丸ごと肯定してもらっているような気持ちです。私はその中でも全てに100%だって言いたいし言えるように頑張りたくなる性格なんですけど。でも時々100%じゃ壊れるって時が必ずあって、その時は100%だった今までよりも今の一瞬100%じゃないことに対して袋叩きにあってしまう。今のこの一瞬くらい80%じゃだめですか、何がだめだったんですか、今だけ80%というだけで何か変わるんですか…って言いたくなることが山ほどあった気がする。
真夏:うんうん。それを認めた方が良い世界になる気がする。ジェンダーもそうだと思う。7:3でも良いじゃんっていうことはたくさんある。80%できてるって感覚で力を合わせられた方が広がる気がします。できてるかって聞かれると全然まだまだなんだけどね!ってことは多分あるじゃないですか。それを言い訳みたいな会話にするんじゃなくて、30%良いことしてます!今日は70%やれた!って胸張って良いと思う。できなかったってことで傷つくことはすごくあると思うから、まぁそういうこともあるじゃん!こっち来て飲もうよ!って言える場所を私は作りたいな。
ひとりぼっちで聴いてほしい
える:あたたかいコミュニティですね。場所を作りたいっていうのはライブも含むと思うんですけど、真夏さんは自分の楽曲をどういう風に聴いてほしいですか?
真夏:うーん、ひとりぼっちで聴いてほしいかな。自分の音楽の向き合い方がそうだったので。ライブハウスでは楽しんでほしいから自分も盛り上げたり煽ったりはするんですけど、自分がお客さんだったらその輪の中には入らないです。バーカウンターのところでじっとしているタイプ。ステージから盛り上げるのは大好きなんですけどね。私はみんなと盛り上げるのが好きなキャラクターだと思われがちなんです。歌がパワフルだと言われるからなのか、人見知りしないと思われているからなのか。そういう“パブリックイメージと実際の自分はイコールではない”っていうことにはもう慣れちゃったんですけど。
える:ギャップがあるというのは散々言われてきたんですね。
真夏:うん。そういうわけで、基本的にはひとりで聴くってことしか知らない。私はイヤホンやヘッドホンで聴いていたい。レコードやスピーカーでも、ひとりで。そうやって音楽に向き合ってきたから。だからライブを観に行っても盛り上がりたいって思ったことはないです。そういう場所で友達を作りたいって思ったこともない。むしろ誰とも友達になりたくないし、友達は少ない方が良いと思っています。でも、それでも友達になった人たちがいる。私がライブをするライブハウスってそういうところ。でもライブハウスに来る人たちって、実は誰も友達を作りたいと思って来ていないんじゃないかな…って思います。誰とでも仲良くなれてコミュニケーションが取れる人たちじゃなくて、誰もわかってくれなくていいやって思ってるんだと思う。それで「お前も誰もわかってくれないよな〜!」っていう出会いをする。わかってくれよ!っていうのが内心にあるとは思う。やっぱりはぐれた人たちが来るところだから。
える:真夏さんの歌声を聴いている時に孤独を感じたことってなかったから、改めてひとりでじっくり聴いてみたい。精神的にひとりぼっちの時、どう聴こえるか感じたい。
真夏:うんうん。そういう時とか、帰り道とかで聴いてほしい。
【編集後記】
初のソロアルバムのコメントに「これは、まごうことなきわたしのパンクです」や「孤独な君を、この音楽でぜったいに孤立させないぞ。 君の孤独のためだけに鳴らします」という言葉がありました。真夏さんのパンクな部分が見え隠れしたこのインタビューを終えてからそのコメントを改めて読むと「なるほどな」と思いますし、真夏さんの正装としてライダースの存在が在り続けるのもわかる気がしています。今日の帰り道、ひとりで聴いてみよう。instant GALAのステージも楽しみです。
MANATSU NAGAHARA(永原真夏)
2015年7月よりソロプロジェクト「永原真夏+SUPER GOOD BAND」を始動。 SEBASTIAN Xのヴォーカリスト、ピアノユニット音沙汰としても活動中。作詞 作曲はもちろん、グッズなども本人が手がけている。 ソロとして1stEP『青い空』(2015年7月)、1st Mini Album『バイオロジー』(2016年3月)、2nd EP『オーロラの国』(2016年11月)、3rd EP「みえないちから」(2017年3月)、10年分の写真を納めたフォトブック『Fortissimo』(2017年7月)、4th EP「HAPPY GO LUCKY」(2017年11月)をリリース。 2018年2月14日には同年3月にリリースされるアルバムより先行発売で、7inchアナログ「あそんでいきよう / フォルテシモ」をリリース。 そして3月7日にソロ初となる1st Full Album「GREAT HUNGRY」をリリースすることが決定している。
《アルバム INFO》
永原真夏「GREAT HUNGRY」
【初回限定盤】
品番:DDCB-94018
POS:4543034047338
税込価格¥3,000 税抜価格¥2,778
発売日:2018年3月7日(水)
ライブ音源5曲入りCD付き
〈収録曲〉
[LIVE REC]
1.リトルタイガー
2.応答しな!ハートブレイカー
3.ホームレス銀河
4.青い空
5.オーロラの国
[本編]
01. ダンサー・イン・ザ・ポエトリー
02. 僕の怒り 君の光
03. あそんでいきよう
04. オーロラの国
05. HAPPY GO LUCKY
06. うさぎ春日
07. 原チャリで荒野を行くのだ
08. Quatz Waltz
09. FIRE
10. フォルテシモ
11. SUPER GOOD
【通常盤】
品番:DDCB-14058
POS:4543034047345
税込価格¥2,500 税抜価格¥2,315
発売日:2018年3月7日(水)
〈収録曲〉
01. ダンサー・イン・ザ・ポエトリー
02. 僕の怒り 君の光
03. あそんでいきよう
04. オーロラの国
05. HAPPY GO LUCKY
06. うさぎ春日
07. 原チャリで荒野を行くのだ
08. Quatz Waltz
09. FIRE
10. フォルテシモ
11. SUPER GOOD
Eru Akazawa(赤澤 える)
LEBECCA boutiqueブランド総合ディレクターをはじめ、様々な分野でマルチに活動。
特にエシカルファッションに強い興味・関心を寄せ、自分なりの解釈を織り交ぜたアプローチを続けている。
また、参加者全員が「思い出の服」をドレスコードとして身につけ、新しいファッションカルチャーを発信する、世界初の服フェス『instant GALA(インスタント・ガラ)』のクリエイティブディレクターに就任。
instant GALA
あの日、あの時、あの場所で、あなたは何を着ていましたか?「載せたら終わり」の新時代、載せても終わらないものは何ですか?服への愛着・愛情を喚起し、ソーシャルグッドなファッションのあり方を発信する、思い出の服の祭典。
4月22日(日)渋谷WWW Xにて初開催です。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。