「合理性ばかり求めると国内から技術が消える」。ファッション業界に反抗するTシャツを作った23歳のスケーター

Text: Shiori Kirigaya

Photography: Tesshun Sato unless otherwise stated.

2018.8.3

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スケーターでファッションが好きな青年が、ファッション業界やものづくりを行う工場、職人に対する思いが込められた「生きているTシャツ」プロジェクトを始めた。クラウドファンディングでの同プロジェクトの支援率は、開始後一ヶ月経たずして、すでに80%を越えている。

今回Be inspired!は、ニューヨークでファッションマーケティングを学ぶ準備のため、現地で英語を勉強している彼にメールでインタビューを行った。社会に対する思いを込めたブランドを始動させた背景には、何があったのだろうか。

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Photography: Saya Nomura

「遊びも勉強も振り切れていなくてダサい」

彼の名は佐藤徹駿(さとう てっしゅん)、23歳。基本的にどこへでも持ち歩き、移動手段として使用しているスケボーを始めたのは高校生のときだった。現在の音楽や洋服の趣味もすべて、スケートカルチャーに影響を受けているといっても過言ではないという。

そんなスケーターマインドを持つ彼だが、大学3年生までは正直なところ、あまり真面目な学生ではなくのんびり遊んでばかりだったと振り返る。

このままだと俺やばいって危機感とまわりのイケてる友達やかっこいい大人たちと自分を比べて、劣等感をめちゃくちゃ感じていました。遊びも勉強も振り切れてなくてダサいなって自覚がありました。

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しかし大学4年生になった年、経営学を中心に学んでいた大学に加え、編集者/ファッション・クリエイティブ・ディレクターの軍地彩弓(ぐんじ さゆみ)氏らがメンターを務めるファッション専門スクール「Tokyo Fashion Technology Lab(TFL)」に通う、いわゆるダブルスクールを始めた。同校の一期生として、ファッションの基礎知識を学ぶとともに、常に新しい事業やブランドの企画を練っては発表していた。そこで評価を得たのが、今回紹介するプロジェクトの原案だったのだ。

課題はめちゃくちゃ多かったんですけど、好きなことだけに向き合えるのでとにかく楽しくて、たくさん刺激を受けました。そこで評価してもらった企画がこの『生きているTシャツ』プロジェクトの元になっています。

まるで“生きている”ようなTシャツとは

「生きているTシャツ」は、まるで生きているかのように暑いときは涼しく寒いときには暖かいという性質を帯びたTシャツだ。100%ウール(羊毛)を使用しており、動物が生きていくための機能が素材の性質として“生きている”。そして縫い目がなく、着用時に地肌にかかるストレスが最小限に抑えられているのも一つの特徴。また、ウールは水に濡れにくく乾きやすい素材であるため、蒸れて汗ばむこともなく臭いにくい。それでいて、洗っても縮みにくいウォッシャブル加工が施されており、洗濯機で洗える優れもの。

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そんな温度・湿度の調整機能を持つTシャツがどこで作られているかというと、彼の父親が4代目として営む工場だ。徹駿氏の実家は100年近い歴史を持つニット工場で、「生きているTシャツ」は、そこで培われた職人の長年の経験と技術を生かした製法で編まれる。

セーターを作るには、原料から糸にする行程をはじめ、染色や成型、編み機の調整とプログラミング、寸法通りに形を整えるまでの一定の工程が必要で、彼の実家の工場はそのすべてを行っているという。しかし、日本全国で紡績や染色を行っている工場は、ほんのわずかしか残っていないのが現状なのだ。

23歳の自分にできる、最大の反抗

自身のブランドにつけた名前は「rebel-23」*1。現在23歳の彼が、今のファッション業界やものづくりを行う工場、職人たちを取り巻く環境に対して訴えることができる最大限の思いを込めたという意味合いだ。

日本のニット工場を取り巻く現状についていえば、効率よく利益を得ることを追求してきたために、人件費の安い国へ生産拠点を移し続けられた。その影響を受け、30年前には国内マーケットで販売されているセーターのうち50%以上が日本で作られていたところが、現在ではわずか0.5%しか生産されなくなっている。その事実を目の当たりにして感じた「このまま合理性ばかり求めていくと国内から技術が消えてしまう」という危機感について徹駿氏は、クラウドファンディングページにこう綴っている。

10年後、20年後、私たち若い世代が「自分たちが作りたいもの」を作り続けるために、今の日本のものづくりを守り続けないといけない。

(*1)rebelには反抗という意味がある

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そして現在のファッション業界に関していえば、洋服のデザイナーがニットとそれ以外の素材の違いを詳しく知らない場合も少なくないという。「生きているTシャツ」のプロジェクトを通して彼が伝えたいのは、多くの人に「ニットのものづくり」というものについて知ってもらうことなのだ。

ちょっと高くても絶対に調子のいい一枚

彼のプロジェクトの着想源はやはり、趣味のスケボーと関連する。大好きなスケボーしているときを含む日常生活で、彼は必ずといっていいほどTシャツに身を包む。

そうしているうちに100枚以上のTシャツを所有していたが、「5000円のTシャツを100枚持っていることより、ちょっと高くても絶対に調子のいい一枚が欲しい」と徹駿氏は考えるようになる。たくさん枚数があっても、結局いつもの気に入ったTシャツしか着ない、そんな状況にある人は彼だけではないだろう。彼の思いに少しでも共感したならぜひ一度、プロジェクトページを覗いてみてほしい。

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パトロンとなった際に得られるリターンは「生きているTシャツ」や「工場見学ツアー参加券」だけではなく、「徹駿と一緒にスケートボードをする権利」や「徹駿と飲みに行く権利」といったユニークなものも選べる。もしかすると、どこからとなく感じられる彼のユーモアが支援する人を惹きつけているのかもしれない。それらをリターンに入れた理由について、インタビューでは以下のように答えている。

強いて言えば、他のプロジェクトのリターンなどで「講演会に呼ぶ権利」みたいなやつをよく見かけるのですが、自分はそんなことができるほど、ためになるいい話は何もできないし、人前で話すのとかは苦手で、でももし何かできることがあるとしたら、新しく何かを始めたいと思っている人や私の話をききたいなっていう人に対して、自分が一番熱くなれて、楽しくなれて、そして仲良くもなりやすい環境でお話ができるリターンを作ろうと思ったのが狙いです。あと、クスってなってくれればいいかなって感じです。

Tesshun Sato(佐藤徹駿)

TwitterInstagram

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『生きているTシャツプロジェクト』

クラウドファンディングページ

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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