「3千億キロ」という数字を聞いて、一体何のことを指しているのか、あなたはピンとくるだろうか。正解は2つ。1つ目は、地球に住むすべての人間の体重の総合計で、2つ目は、1年間に世界中で生産されるプラスチックの総重量だ。前者が76億人ともいわれる、年々増え続ける人口を全部ひっくるめた数字なのに対して、後者はたった1年間のあいだ、しかもその大半がゴミとなる物質の生産量。両者が同じということに、異常さを感じないだろうか。
大量廃棄されたプラスチックは、自然に分解されたり消滅することなく、やがて海へと流れ着く。このままいけば2050年には、海に漂うプラスチックゴミが、海に住む魚たちの重量を上回るという研究結果も出ている。今からたった30年後の未来だ。
今回は、この現状を変えようと立ち上がったベルギーのサングラスメーカー「w.r.yuma(ウィー・アー・ユマ)」を、世界の社会派な企業を紹介していく新シリーズ「世界のGOOD COMPANY」で紹介しよう。米アリゾナ州「ユマ」市という、世界一日照量が多い地にちなみ名付けられたスタートアップが、暗雲ただよう未来にどのような明るい光を差してくれるのかに注目だ。
世界初、「廃棄プラスチック100%」で作るサングラス
彼らが作るのは、とてもシンプルでスタイリッシュなサングラス。一見すると普通のお洒落アイテムだが、その材料と作り方に秘密がある。
材料はいらなくなったプラスチック、組み立ては3Dプリンターで行う。車のダッシュボードやソーダのボトル、冷蔵庫に至るまで、さまざまな廃棄プラスチックを集めて細かく砕き、プリンター用のインクを作る。3Dプリンターは型紙通りにそっくりそのまま作れる特徴があるので、製作過程における材料の無駄はゼロ。アクセサリーのサステイナビリティにも着目し、メガネケースには再利用コルクを、メガネふきには廃棄プラスチックを100%使用している。更に、商品在庫は一切持たず、注文を受けてから1つずつ製作するので、ここでも無駄はゼロだ。つまり、すべてにおいてゼロウェイストな工程を経てウィー・アー・ユマのサングラスは生み出される。
“無駄やゴミを出さない”ポリシーの徹底は、これだけに留まらない。同社のビジネスモデルの根幹を成す、「使用済サングラスの返還システム」を紹介しよう。
あなたがウィー・アー・ユマのサングラスを購入したとする。たくさん使っているうちに壊れてしまった、もしくは新しいデザインのものが欲しくなった、なんていうときは、そのサングラスを同社に「返還」すればいい。そうすれば、新しいサングラスの購入に使える割引クーポンがもらえる仕組みになっている(サングラスの使用期間が長ければ長いほど、割引額が大きくなるので、大切に使うことを後押ししている)。返還されたサングラスはというと、分解されて、また新しいサングラスへと生まれ変わるのだ。
リサイクルだけでは不十分。「循環型ビジネスモデル」を作る意義
ファウンダーのSebastiaan de Neubourg(セバスチャン・ルーブール)氏の前職はビジネス・コンサルタント。そこで数々の起業家たちと出会い、彼らのビジネスモデルに刺激を受けたという彼。
サステイナビリティやゼロウェイストに着目した起業家たちのインスパイアリングなアイデアに触れたことがきっかけで、2015年にウィー・アー・ユマを立上げました
リサイクルだけでは不十分だと考える彼が提唱するのは、“循環型ビジネスモデル”だ。
リサイクルというと聞こえはいいですが、それだけだと、単にゴミを捨てる時期を先延ばしにしているだけにすぎません。そうではなくて、そもそも“捨てる”という概念が存在しない、それが“循環型”ビジネスなのです
使い終わったプラスチックから新しい製品を作り、それをまた別のものへと作り変える。すべてをあますことなく使い切り、形を変え、循環させる。今後の目標は、サングラスのみならず、ファッションアイテム全般へのレパートリー拡大と、ミュージックフェスなどとのコラボレーションだという。
青空の下、大好きな音楽を聞きながらビールを楽しみ、飲み終わったカップでオリジナルサングラスを作る、なんてブースがあったら最高じゃないか。
私たちは、日ごろ何気なく買ったり使ったりしているモノがどこから来て、使用後はどこに行くのか、ということに真剣に目を向ける必要があるとルーブール氏は語る。「使い終わったら捨てる=ゴミになる」という、もはや“当たり前”とも思えてしまう方程式が、そもそも正しいのか?と疑うところから始めるべきなのだろう。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。