豊満な肉体をもつ裸のキャラクターが互いにからまり合い、キャンパスいっぱいに描かれている。トロント在住のNess Lee(ネス・リー)の描く絵画には、見るものを惹きつける強さを感じる。
カナダ人であるネスのルーツは客家人(中国の漢民族)にある。客家人という自身のルーツを追い求める彼女のアートは多民族国家であるカナダやアメリカで高く評価され、トロントのクイーン・アンド・ショー通りとチャーチ・アンド・ダンダス通りに描かれた壁画はNetflixの人気ドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』と提携し制作したそう。また、ネスの作品のなかで、相撲や寿司など、日本的な要素を取り入れた作品も多く見られる。新進気鋭のアーティストである彼女は一体どんな思いで作品を作っているのか、そして日本をどう見ているのだろうか?溢れ出す疑問を彼女にぶつけてみた。
ーこんにちは!まず、Ness自身について教えてください!
こんにちは!私はネス・リー。トロント在住のアーティストで、自分の思いや、心と体の精神的な経験を元に、絵を描いたり、陶磁器を作ったりしています。
ー具体的にどんな作品を作っているのですか?
私の作品は、自叙伝的で個人的なものです。 様々な形式で作品を実験的に作り、最適な形を模索しています。よく作るのは、水墨画や絵画、陶磁器そして壁画です。
ー様々な手法で実践的に自分を表現してるけど、作品を作り始めたきっかけは何だったんでしょうか?
思い返せば、自分にとってアートは幼い頃からコミュニケーションのツールであり、自己表現の方法でした。自分の話す言語や文化的なアイデンティティが複雑だったため、常にアートで表現してきたのです。
ー作品に共通するテーマはなんでしょうか?
私のつくるアートの一貫したテーマは、自分の感情や個人的な経験を視覚的な形式に変換することです。どの程度の質量や次元を持つのか、表現方法や外観、発想に応じてどんなものを語るのかは、芸術の形式や空間と照らし合わせながら考えています。
ー以前のインタビューで、ネスは客家(漢民族の一支流で独自の言語や文化を持つ)系カナダ人として強いアイデンティティを持って作品を作っていると語っていましたよね。そうした民族意識は作品にどのような影響を与えているのでしょうか?
大人へと成長する過程で民族意識が育たなかったからこそ、客家人のアイデンティティが私の作品に大きな影響を与えたのだと思います。文化的、性的、身体的に客家人としての自覚を持ったり、自信を持てたことがなかったんです。創作活動を行うなかで、私は客家人としての自分自身に触れ、そのための空間を心の中に作りました。客家人のアイデンティティを表現することで、私は客家人としての自分を取り戻し、自分の価値を見いだすことができたのです。
ーネスの絵に描かれている女性の体は、力に溢れとても美しいです。あなたは、相撲をモチーフに作品を描くことが多いとうかがいました。なぜ、相撲をベースに裸の女性を描こうと思ったのですか?
ありがとう!けれど、訂正させてください。私は、女性の体と力士を結びつけたいんじゃないのです。これから、私が描いた相撲と身体の関係、そしてジェンダーに対する姿勢について説明させてください。
まず、私が作中で頻繁に相撲をモチーフに扱っていたのは、純粋に相撲という競技や相撲にまつわるすべてが好きという理由からでした。相撲に関する作品を作っていた頃、私はまだ、自分自身の内観を得ていませんでした。だからこそ、初期の作品は、相撲とその文化を愛する気持ちを表現したに過ぎないのです。
また、私が人物を描くとき、特定の性別に結びつけたりしたことはありません。確かに、私の描く人物の持つ体型は、ある性別をほのめかしているかもしれません。けれど、私は性別について考えずに彼らを描いています。私が描く体は感情を表現しています。結果的に女性的、あるいは男性的になってしまっているかもしれませんが、それは意図的に表現したものではないのです。私が描くキャラクターは、多くの場合同じような外見をしていますが、それは彼らが私にとって感情表現や日記としての役割を担っているから。
さらに、彼らがしばしば豊満な体型を持つのは、私の気持ちの大きさと彼らの体型の大きさが結びついているからです。たいていの場合、私は彼らの体型に重点を置かず、彼らがどのように空間を占有し、どのように感情を語るのか、という点に集中して創作しています。
ー以前、日本文化に影響を受けていると語っていましたが、日本文化のどのようなところに惹かれたのですか?
鑑賞する側として、日本のエロチカアートである春画が大好きです。線画の時代から、スケッチ、絵画まで、美しい流れがあって素晴らしい。以前、相撲にまつわる絵を書いていたことも、こうした日本文化への関心が影響しています。日本には何度か行ったことがあって、そこで過ごした時間もとても愛しく感じています。
ーネスの絵には日本文化的なモチーフが多いですが、なぜですか?
私は自分の書いた絵を日本文化的だとは思っていません。もちろん、春画のエロチックな描写や線画は大好きです。春画で使われるシンプルで緻密で豊かな表現技法に非常に影響を受けていて、日本文化には感謝しています。一方で、私は日本文化的なものを中心に描いているわけではないのです。日本に訪れた時、客家人やアジア人として自分に距離を持っていたからこそ、日本の文化や生活様式を探求し、つながりを感じましたが、それが自分の作品にどう影響しているかについては、うまく説明できません。もちろん作品と日本文化の関連については否定できませんし、もしかしたら自分でもまだ気づいていないだけかもしれませんが、今のところアジア人だという点以外、日本が私の作品にどう影響しているかはわかりません。私の絵にあらわれるキャラクターたちに特定のアジア人の特徴があるように見えるかもしれませんが、それは私の意図ではありません。
意識的に、自分の民族意識やジェンダーを決めるのではなく、様々な表現技法でありのままの自分を描くなかで、表象される自分を探求する、という彼女の作品は、強烈なイメージを持ちながらも、自然で、心にしっくりと馴染む。それは、彼女自身が、様々な型にはまっていないからなのかもしれない。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。