「芸術の秋」といわれる季節がやってきた。アート展といえば、アートを学んだ人にしか理解できないような見るからに難解な絵が並んでいるものというイメージを持つ人もいるかもしれない。だが昨年開催された「日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS 企画展 ミュージアム・オブ・トゥギャザー」(以下、企画展 ミュージアム・オブ・トゥギャザー)、参加する作家の多様性だけでなく、あらゆる来場者が楽しめるように包括性を追求している。
本記事では、9月13日より開催される企画展「日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS 2020 ミュージアム・オブ・トゥギャザー サーカス」(以下、ミュージアム・オブ・トゥギャザー サーカス)を前に、改めて同企画の魅力と今年の見どころを紹介したい。
先入観を持たせないアート展
多様性や包括性への革新的なアプローチを仕掛ける「日本財団DIVERSITY IN THE ARTS(ダイバーシティ・イン・ジ・アーツ)」による「企画展 ミュージアム・オブ・トゥギャザー」は、2017年10月に表参道のスパイラルガーデンで19日間にわたって開催された。作品数は500点におよび、展示されていた作品は無名の作家のものから、元SMAPの香取慎吾のような有名人によるものまでさまざま。
もともとは障がいのあるアーティストによる作品を中心に展示する企画であった同展示で特徴的だったのが、作家の名前や障がいの有無を会場で配るハンドブックに載せることをせず、障がいのあるアーティストの作品を「障がい者アート」というカテゴリーに当てはめることもしないなど、観る人に先入観をなるべく持たせない工夫をしていた点だ。
あらゆる人に配慮したスペース
また「誰でも楽しく、居心地よく過ごせる環境」を目指すため、企画チームをキュレーター、建築家、デザイナー、編集者、美術館職員、障がいがある人、福祉関係者など多領域の人々で構成。双方向にコミュニケーションを重ねることで互いに学び合い、準備を行ったという。
そこで取り入れられたのが、あらゆるニーズに応じて展示会やサービスの案内をする総合受付「ウェルカム・ポイント」や、鑑賞中に休憩を必要とする人が静かに過ごせる「クワイエット・ルーム」、音声を通じて作品を知ることのできる「オーディオ・ディスクリプション」、会場周辺のバリアフリー情報が得られるアプリ「Bmaps(ビーマップ)」。さらに会場となった施設の階段にスロープを設けるなど、徹底してバリアフリー化に努めており、今回の展示にも生かされている。
トークセッション多数。今年の見どころ
今年開催される「ミュージアム・オブ・トゥギャザー サーカス」の見どころは、より近くでアートに触れられること、作家による切り絵の公開制作、そして複数の切り口からゲストを招いたトークセッションの大きく三つだ。
筆者が特に注目しているのが、「アートのもつ可能性や多様な社会のあり方」について話されるトークセッション。その一部は「DIVE DIVERSITY SESSION(ダイブ・ダイバーシティ・セッション)」と名付けられ、日本財団が主催するSOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA(ソーシャル・イノベーション・ウィーク・シブヤ)の一環として有識者をゲストに迎えて行われるもの。それぞれの専門分野の「本質的な価値・意味」と向き合うことで、登壇者の日々の活動の根源に迫り、イノベーションを起こすトップランナーのアクションの意義や可能性を考えるものとなるという。ゲストは芥川賞を受賞した作家の小野正嗣(おの まさつぐ)氏や建築家の藤本壮介(ふじもと そうすけ)氏、女優の奥貫薫(おくぬき かおる)氏などの面々で、トピックは「言葉の本質」「多様性の本質」「参加の本質」などだ。
「日本のダイバーシティ」を引っ張る存在
障壁をなくすという意味の「バリアフリー」という言葉は1993年の「障害者対策に関する新長期計画」に「バリアフリー社会の構築を目指すこと」が盛り込まれたことで話題になった。またそれに関連した言葉で、障がいや能力に関わらず誰もが使えるようにデザインされたものをさす「ユニバーサルデザイン」という言葉が日本で流行語化したのが、グッドデザイン賞に「ユニバーサルデザイン賞」が加えられた1997年。それから20年以上の歳月が経ったが、まだ日本社会ではそれらへのアプローチが不足している。
「日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS」が多様性や包括性を高めるために継続して行っている取り組みであるアート展に参加することで、どうすればあらゆる人にとって、物理的だけでなく心理的に暮らしやすい社会が実現できるのかを考える機会にしてみてほしい。
日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS 2020 ミュージアム・オブ・トゥギャザー サーカス
日時:2018年9月13日(木)〜 17日(月/祝)11:00~20:00
場所:渋谷ヒカリエ 8/COURT(〒150-8510 東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ8階)
入場料:無料
主催:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS
特別協力:渋谷区
後援:一般社団法人渋谷未来デザイン・一般財団法人渋谷区観光協会
監修:NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]
【ミュージアム・オブ・トゥギャザー トーク】
日時: 9月15日(土)〜17日(月/祝)
会場:渋谷ヒカリエ8/COURT
入場料:無料/全席自由席
情報保障:全セッション手話通訳、文字通訳あり
複数の切り口からゲストの方々をお招きし、本展関係者と、アートのもつ可能性、多様な社会のあり 方について語り合います。また、本展と連携したDIVE DIVERSITY SESSION(ダイブ・ダイバーシティ・セッション)では3名のゲストをお迎えします。昨秋開催した展覧会は、企画段階からラーニング(双方向の学び)とアクセシビリティ(参加の可能性)を企画の軸とし、“アート”、“アーキテクチャー”、“アクセス・アート・プログラム”の3つの側面から、立場を越えて議論や検証を重ね、開幕を迎えました。今回もひとつの展覧会づくりの姿を基に、新しいアートを提示する挑戦や、あらゆる場づくり、身近な関係性の再構築など、未来につなぐヒントを一緒に探しましょう。
●『DIVE DIVERSITY SESSION 言葉の本質』
日時:9月15日(土)14:00〜15:10(定員 60名)
ゲスト:小野正嗣/作家、立教大学文学部教授 出演:ロジャー・マクドナルド、塩見有子/[AIT/エイト]
芥川賞作家であり、NHKEテレ「日曜美術館」の司会も務める小野正嗣さんを招き、本展のキュレーターと、アートやその人らしさを言葉で伝えることの魅力や醍醐味などを通して、この先に繋がるヒントや可能性について語り合います。
●『建築とメンバーシップ』
日時:9月15日(土)15:30〜17:00(定員60名)
ゲスト:藤本壮介/建築家
出演:塚本由晴、貝島桃代/アトリエ・ワン
建築家の藤本壮介さんを招き、アトリエ・ワンの塚本由晴さんと貝島桃代さんと共に、建築の視点から人をとりまく空間の受容性や居場所について考えます。また、建築とさまざまな社会課題との接点について探ることで、デザインや建築に対するヒント、そして可能性について語り合います。
●『アートと寛容性』
日時:9月15日(土)17:30〜19:00(定員60名)
ゲスト:小澤慶介/アートト代表、インディペンデント・キュレーター 出演:塩見有子、ロジャー・マクドナルド/[AIT/エイト]
2017年に開催した「日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS 企画展ミュージアム・オブ・トゥギャザー」を牽引したキュレーターと、2020年開催予定の展覧 会に向けてバトンを受け取る小澤慶介さんによるトーク。展覧会をつくる3人が、新たなアートに出合い、それを構築することの課題と実験、考え方や鑑賞について語り合います。
●『DIVE DIVERSITY SESSION 多様性の本質』
日時:9月16日(日)14:00〜15:10(定員60名)ゲスト:奥貫薫/女優 出演:赤荻徹/アトリエ・エー主宰
渋谷区内で2003年から活動する絵の教室 アトリエ・エーには、ダウン症や自閉症の人を中心にいろいろな方が集まり、豊かな時間が流れています。女優 奥貫薫さんも当初からその場に集うひとり。主宰者である赤荻徹さんと共に“アトリエ・エーにある多様性”をスタート地点として、そこから育まれる関係性や創造の可能性について語り合います。
●『作品制作について』
日時:9月16日(日)16:00〜17:10(定員20名)ゲスト:渡邊義紘/本展展示作家、切り絵作家、渡邊仁子/渡邊義紘母 出演:塩見有子、ロジャー・マクドナルド/[AIT/エイト]
本展の展示作家であり、秀逸な木の葉の動物作品や切り絵作品で国内外に多くのファンを持つ渡邊義紘さん。今回は渡邊さんのお母様もお招きし、作品制作にまつわる様々なエピソードを本展キュレーターが解きほぐします。
●『DIVE DIVERSITY SESSION 参加の本質』
日時:9月17日(月/祝)14:00〜15:10(定員60名)
ゲスト:逢坂恵理子(横浜美術館館長)
出演:柴崎由美子/NPO法人エイブル・アート・ジャパン代表理事近日公開
●『ミュージアム・オブ・トゥギャザーから見えたこと』
日時:9月17日(月/祝)16:00〜17:10(定員60名)
ゲスト:上田昂輝/会社員、小寺美卯/大学生、ホンジウン/大学生
出演:柴崎由美子/NPO 法人エイブル・アート・ジャパン代表
2017年に開催した「日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS 企画展ミュージアム・オブ・トゥギャザー」で、ボランティアスタッフとして活躍した三人と、本展のラーニングプログラムに協力するエイブル・アート・ジャパンの柴崎由美子さんによるトーク。展覧会を通して得たことや気づき、また、さまざまな立場や世代からみた、ラーニングの展望を語り合います。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。