「悲劇ではなく希望を描く」。不条理な世界を、強く美しく生きる70年代の若きカップルに現代人が学ぶこと。『ビール・ストリートの恋人たち』|GOOD CINEMA PICKS #020

Text: Noemi Minami

2019.2.21

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2017年のアカデミー賞で作品賞、脚色賞、そして助演男優賞を受賞した作品『ムーンライト』。派手やかなイメージが強い米・マイアミの、語られることが少ない貧困地域を舞台に、同性愛者の黒人青年の成長を描いた同作の功績は社会的に大きな意味を持った。というのも、キャスト全員が黒人の映画、かつセクシュアルマイノリティを扱った映画としては初のアカデミー作品賞だったのである。

そして『ムーンライト』の成功後、映画界に期待される若手監督バリー・ジェンキンスの最新作となる『ビール・ストリートの恋人たち』が今月、2月22日(金)に公開を控えている。

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米黒人文学を代表する作家ジェイムズ・ボールドウィンの、70年代のニューヨークを舞台にした小説を映画化した今作。

物語は、人種差別の犠牲となりながらも、強く美しく生きる若き黒人カップル、ティッシュとファニーの愛を描く。身に覚えのない罪で投獄されたファニーを訪ねに刑務所に通うティッシュ。家族の協力を得ながら恋人を救おうと奮闘する彼女の姿と、ファニーが投獄されるまでの二人の物語が交互に映し出され、映画は進んでいく。

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不条理、としかいいようのない二人を待ち受ける悲劇とは対照的に、幼馴染の彼らが育んでいく愛は非常に純粋で、詩的である。ある種劇的な、一つひとつのセリフに重きが置かれた演出が古典的な映画のニュアンスを持ちながらも、同作のメッセージは普遍的だと感じられる。現に、ジェンキンスは悲劇ではなく、希望を描いているという批評が多い。それは悲劇だけでなく、小さな幸せに溢れる二人の日常の生活が丁寧に描かれているからかもしれない。そして、二人の愛の強さに触れ、人間の絆の強さとその力に多くの人が希望を感じてしまうのは、不思議なことではない。

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もともと、原作の大ファンだったというジェンキンスは、原作が持つ時代を越えたメッセージ性について以下のように話している。

この小説は1974年に出版されているが、現代に起きていることにもとても通じているんだ。そのため、脚本は70年代初頭が舞台になっていて、その時代を妥協なく描くことが私たちのボールドウィンへの敬意を表すことになると考えた。ボールドウィンは、彼が生きた時代を超えて生きる作家だ。彼は人間の条件について書き、地球上に人間が存在する限り、彼が立ち向かった問題は現代社会とつながりを持つだろう。

過酷な状況で希望を忘れないこと、それはいつの時代にも普遍的なことは間違いないが、トランプ大統領や英国のEU離脱、安倍政権に象徴されるように右傾化していく現代社会に不安を感じる人々に特に強く響くであろう。

予告編

※動画が見られない方はこちら

『ビール・ストリートの恋人たち』

Website

監督・脚本:バリー・ジェンキンス 原作:ジェイムズ・ボールドウィン「ビール・ストリートの恋人たち」(早川書房刊)
出演:キキ・レイン、ステファン・ジェームス、レジ―ナ・キング他
2018年/アメリカ/英語/119分/アメリカンビスタ/カラー/原題:If Beale Street Could Talk/日本語字幕:古田由紀子
提供:バップ、ロングライド 配給:ロングライド
(c)2018 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

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