肯定もせず、否定もしない。現代社会の日常を“ありのまま”表現する南アのアーティストの存在意義<ダダ・カニサ>|南アフリカ、ネットグローバル時代におけるアイデンティティの模索 #004

Text: マキ

Photography: ©Dada Khanyisa

2019.3.28

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南アフリカにスポットライトを当て、現地で活躍する若手アーティストの紹介を通じて、アイデンティティの向き合い方を考える本連載、「南アフリカ、ネットグローバル時代におけるアイデンティティの模索」。第4回目の今回紹介するのは、アーティストのDada Khanyisa(ダダ・カニサ)。

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ダダ・カニサ

ヨハネスブルグ出身で、現在はケープタウンを拠点に活躍する若手ヴィジュアル・アーティストのダダ・カニサ。南アフリカの人々の日常の観察から生まれる、彫刻的な立体ポートレイト作品が彼女の作品の特徴です。「様々な問題や懸念点もあるけれど、南アフリカが自分がインスピレーションを得る場所であり、自分を支えてくれる場所」と語るダダ。強い芸術的なコンセプトや難解な題材でなく、まわりに溢れた日常の記録をもとに作品を作るというアプローチと、親しみやすいキャラクター的な人々が中心となった作風が、彼女の作品が愛され、注目される理由かもしれません。

自分の身近にあるものがインスピレーション

ダダのアーティストの原点は8歳ぐらいの時とのこと。その時はあまり意識はしていなかったけれど、絵を描くことをし続けたいと思ったと彼女はいいます。職業としてのアーティストを志すようになったのは、高校卒業するくらいの時で、まずはアニメーションを学ぶために美術学科に進学したそうです。

「9年間ぐらいアーティストをしているけど、自分にあっている職業だと思う」とダダ。

アーティストやライターにとって作品を生み出し続けることは簡単ではなく、いわゆるアーティスト・ブロック(インスピレーションが尽きて創造できなくなっていまう状況)に陥ることも珍しくありません。ただ、彼女はアーティスト・ブロックを感じることなくやってこれているそう。その理由について、自分の身近にあるものを題材にすることが、ある意味一番手っ取り早いし、インスピレーションに尽きてしまうこともないからだと彼女は分析しています。

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彼女の作品はフィギュラティブ(具象的)で、立体的。表情や形状を少し誇張したような人物の描写が、カリカチュア・アート(風刺画などに使われる誇張されたような作風のアート)のようにも見えなくはありませんが、ダダにはその意図はないようです。

「まずは登場人物(キャラクター)をデザインして、それらの人物を中心に作品を展開すること。それが自分のシグネチャー・スタイルなんです」と彼女は説明しています。キャンバスに絵を描く平面的なスタイルではなく、木彫りなど彫刻的な要素が加わった3D作品は、どれもライブ感があり、印象的。

ダダが言うに「高校時代、昔の画家が描いたものを見たり、模写していた時があります。その当時の様子が描かれているのがよかった。絵画には想像に任せる部分があるので、写真とは違うフィクショナルな要素があって、だからこそ意味があると思う」。

変化している時代だからこそ、「今」の記録に意味がある

これは『無題(親密性)』という作品。複数の親密な関係が描かれたこの作品をダダに解説してもらいました。

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「この作品は、ケープタウンでの親密性(intimacy)を表現しています。南アフリカだけのことか、グローバルな潮流なのかどうかは定かではありませんが、ケープタウンの都心は多くの人がポリアモリー的(それぞれ合意のもと複数を同時に愛すること)でした。皆、複数の関係を持ち、セクシャリティに関してもオープンでした」とダダはケープタウンの様子を話してくれました。

この作品をじっくりと眺めると、それぞれが複数の人と繋がっていて、全体で全員がそれぞれに親密に繋がっている状態であることがわかります。ダダの作品のアプローチは、それに対して何か批判的な見方や風刺的な要素があるのではなく、ただその現場で起こっていることの描写であり、結果として多様性のありのままを受け入れるというメッセージがあるように感じられます。

「今いろいろなものが、早いスピードで変化しています。未来は変わっていきます。だからこそ日常の描写が意味を持つ」とダダは言います。

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正当に評価されきれていない「アート」に対する想い

ダダは自分の作品のインスピレーションだけではなく、「アート」という分野そのものに対しても日常的なものへの眼差しを持っています。

「自分が尊敬するのは、実用的なものを作っている人たち。例えば(南アフリカによくある)ビーズワークの作品とか、クラフト・マーケットで販売されているような工芸品といったようなものとか。とにかくモノを作っている人に惹かれます」と彼女。

アートや芸術というと、強いコンセプトがあることやギャラリーで作品が展示されることといったように、狭くて限定的な世界になりがち。一方、ダダの考えはアートはもっと広義なものであり、実用的なものを作っている人も含めて、彼女にとっては尊敬に値する「アーティスト」という存在なのです。

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Photography: マキ

ダダにとっての南アフリカ

コサ族の生まれで、ズールー族に囲まれて育ったダダ。南アフリカの中でも特に多様な文化と民族に溢れるヨハネスブルグで育ち、様々な文化の影響を受けていると言います。自分は多様な文化が入り混じったフュージョンだという認識を持ちつつ、「南アフリカ人」としてのアイデンティティを持つという彼女。

「南アフリカには、問題もいろいろあって懸念点もあるけれど、自分にとってはベストの場所。いまは課題もたくさんありますが、南アフリカに対してもアフリカ全体に対しても楽観的な思いを持っています」とダダ。

シンプルな日常の様子を描くダダが、南アフリカに対して楽観的な視点を持てる背景には、彼女の題材である人々やそこに暮らす人々の日常の豊かさを実感できているからかもしれません。そこに生活する人々に、アーティスティックなインスピレーションを見出すという彼女の作品からは、そこに描かれた多様な人間性を垣間見ることができます。

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わたしたちは、日々の生活と自分のあり方、つまりアイデンティティと向き合うということを切り離して考えがちです。しかし、日常生活そのものが、もしかしたら自分のあり方なのかもしれません。

ダダの作品のように、人々の多様な日常をフィーチャーすること、そしてそうした作品と向き合うことは、もしかしたら社会における多様なアイデンティティと自分自身のあり方を見つめ直すきっかけになるかもしれません。

Dada Khanyisa(ダダ・カニサ)

WebsiteInstagram

1991年生まれのビジュアル・アーティスト。南アフリカにおける「ブラック・エクスペリエンス(黒人としての経験」を絵画、スカルプチャー、壁画などの様々な媒体で表現する若手アーティスト。人物やスニーカーなど、南アフリカのストリートをドキュメントした作品が特徴的。日々の生活で見落とされがちだったり、人々があった当然と思うような出来事が作品の背景になっている。

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マキ

Maki & Mpho LLC代表。同社は、南アフリカ人デザイナー・ムポのオリジナル柄を使ったインテリアとファッション雑貨のブランド事業と、オルタナティブな視点を届けるメディア・コンテンツ事業を手がける。オルタナティブな視点の提供とは、その多様な在り方がまだあまり知られていない「アフリカ」の文脈における人、価値観、事象に焦点を当てることで、次世代につなぐ創造性や革新性の種を撒くことである。

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