こんにちは!EVERY DENIMの山脇です。EVERY DENIMは僕と実の弟2人で立ち上げたデニムブランドで、3年間店舗を持たず全国各地でイベント販売を重ねてきました。 2018年4月からは、毎月キャンピングカーで日本中を旅しながらデニムを届け、衣食住にまつわるたくさんの生産者さんに出会い、仕事や生き方に対する想いを聞いています。
本連載ではそんな旅の中で出会う「心を満たす生産や消費のあり方」を地域で実践している人々を紹介していきます。
今回ご紹介したいのは、逗子にある、 土曜日だけの珈琲店「アンドサタデー 珈琲と編集と」を営む庄司夫妻の妻・庄司真帆(しょうじ まほ)さん。
2017年に逗子へ移住し、会社勤めを続けながら「アンドサタデー」をオープンした庄司夫妻。場づくりやデザイン、イラストの仕事をする夫婦の編集ユニットとして活動する2人がこの場所に込めた想いとは、そしてこの春新たな変化を迎えるアンドサタデーの次の形について、お話を伺いました。
街の編集室としての珈琲店
電車で約1時間。都内とほどよい距離感を持つ逗子には、豊かな自然を大切に、落ちついた暮らしを大切にするたくさんの人たちが住んでいる。JR横須賀線の始発駅というアクセスの良さから、庄司夫妻を始め都内に勤務先を持つ方も多い。
庄司さんたちがこの地に引っ越してきたのは2017年春のこと。結婚してしばらくは都内に住んでいたが、仕事で慌ただしい毎日の中での暮らし方を見つめ直そうと、柔らかな空気が流れる逗子の街を住まいに選んだのだった。
東京在住時から、週末になれば珈琲で一息つく時間を過ごしていた2人。せっかく逗子に引っ越したのだから、土日はゆったりと時間を過ごしたいと考えていた。だが当時は逗子駅に珈琲のお店がほとんどなく、駅前のスターバックスしか思い浮かばないほど。
「ないのなら、自分たちでつくろう」と、週末にだけ開く珈琲屋さんの構想を練り始める。夢を描けば形になるのは早いもので、移住後からよく通っていたバーのオーナーから「店が閉まっている昼間の時間なら使ってもいい」という提案をもらった。二つ返事で快諾し、急いで準備を開始。7月に土曜日だけの珈琲店「アンドサタデー」をオープンさせた。
3月に逗子に移り住んでから、7月にはお店を持つことに。もともと2人でいつか人が集まる場所を持ちたいという話はしていたので、願ってもないタイミングでした。小さくても自分たちが心地よく過ごせる場所をすぐに持てたのは嬉しかったです。
アンドサタデーは「土曜日を楽しくする、街の編集室としての珈琲店」としてスタート。土曜日を楽しくするために、珈琲店を街の編集室として捉え、雑誌の特集を組むかのように珈琲に合わせた体験の提案を行っている。
これまでには「音楽」や「本」「神社」「カレー」などさまざまな特集を通じて人が出会うきっかけをつくってきた。特集ごとに迎えているゲストは逗子に関わりのある人が中心。
例えば平日は都内で正社員として働きながら、週末は出店を中心にオリジナルのカレーをつくっている「やんちゃカリー」の齊藤礼(さいとう れい)さんなどだ。
暮らす人も訪れる人も心地いい場所
アンドサタデーは人が集まるきっかけの場所になる上で意識していることが2つある。
1つは「逗子に暮らしている人たち」が居心地良くいられる存在であることだ。
庄司夫妻を始め、逗子には都内から引っ越してきた人がたくさんいる。「住まいは逗子、仕事は東京」というスタイルの人たちも多い。しかし、彼らが普段東京で出会う機会はめったににないし、そもそもきっかけがない。
「逗子というこの土地を暮らしの場所として選んでいる」そういった理由も一つの共通する価値観なのだし、繋がればきっと意気投合できるはず。
アンドサタデーはそんな想いを大切に、これまで場所を開いてきた。その結果、自分たちと同じような価値観を持ったユニークな人が徐々に集まってくれるようになったという。
うちに集まってくれるお客さんと話すと、面白い仕事や活動をしている人たちが逗子にたくさんいることに気づいたんです。この場所がなければそもそも彼らと出会い仲良くなることことなんてなかったかもしれないし、東京で出会っていたらまた違った関係になっていたかもしれない。
もう1つは「逗子を初めて訪れた人にも気軽に来てもらえる場所であること」だ。店がある土地に暮らす、日常的に来てくれるお客さんを大事にするのはもちろん大切。でもそれと同じくらい、土地への来訪者にも暖かい店であることをアンドサタデーは忘れない。
そんな想いでやっているからこそ、アンドサタデーに集うお客さん自身が逗子の顔となり、印象となり、景色の一部となる。訪れた人はそんな雰囲気を感じ取って逗子の魅力をイメージする。実際にアンドサタデーに来たことがきっかけで逗子のことを好きになり、移住してきた人たちもいるそうだ。
すでに暮らす人にとっても、初めて訪れた人にとっても心地良い場所。そんな場所は地域を問わず求められているのかもしれないと真帆さんはお客さんと接していて感じるという。
最近お客さんに「私の街にもアンドサタデーみたいな場所があったらいいのに」って言ってもらえたことがあって。それは素直にとっても嬉しいし、いろんな地域にひとつあったら面白いような、ワクワクする場所であれたらいいなあと思うんです。
自分たちの「欲しい」を延長していく
逗子の暮らしを好きになるきっかけとして、1年半に渡り場所を開いてきたアンドサタデーはこの4月から新たな展開を迎える。土曜日のみだった営業が平日も行うことになったのだ。
これまでの珈琲店に加え、野菜たっぷり体に優しい夜ごはんを食べられる「深夜食堂」。平日の昼下りにママが子どもとゆっくり時間を過ごせる「親子茶論」。お店を開きたい人の背中を押してあげられる場所「日曜商店」。同じ場所で曜日によって機能を変える構成となる。
どれもが突飛な思いつきではなく、アンドサタデーを開いていく中で感じた「この街に、もっとこういう場所があったら良いのに」という願いを形にしたものだ。
これまで逗子には夜遅くまでやっている飲食店が少なく、都内から帰ってきた人が気軽に美味しい夜ごはんを食べられる場所がほとんどありませんでした。同じく、平日の昼にママさんが子どもと遊んだり、ママ同士で交流できる場所がなかった。
これからやっていくことは、これまでの自然な延長線上にあって、逗子に暮らす私たち自身がほしいと思える場所なんです。
よりアップデートされたアンドサタデーが新たに掲げたコンセプトは “Everyday like Saturday”。「誰かの毎日に、土曜日のような瞬間を、 そっともたらすお店になりますように」という想いが込められている。
新たにスタートを切る上で実施したクラウドファンディングで、真帆さんは最後の言葉としてこう締めくくっていた。
「アンドサタデー」の、編集であり挑戦。 小さな海街である逗子で、 時間と曜日で変わる毎日のお店を作ります。 2019年4月中旬オープン予定です。 “Everyday like Saturday”今回のクラウドファンディングをきっかけに 私たちの活動を知っていただき、 ぜひお店づくり、居心地の良い場づくりを 一緒にお手伝いいただけたら、嬉しいです。 どうぞよろしくお願いいたします。
これまでも街の編集室として、アンドサタデーはお客さんの声を聞きながら、自分たちを捉え直し、役割を考え、場所をつくってきた。
「この場所自体が私たちのポートフォリオなんです」と話す真帆さんは、いち編集者として、アンドサタデーという切り口から逗子の暮らしをワクワクさせようと企んでいる。
好きな人たちのことを好きに伝えようとするとき、ものすごい幸福感に包まれることがあります。今回の庄司夫妻への取材を通じて、まさにそんな感覚でずっと文字を書いていました。
だから取材は「させてもらう」ものだしお話しは「聞かせてもらう」ものなんだ。改めてそんなことに気付かされた学び多き時間だったと思います。
僕が2人のことを素敵に思い、人に広めたいと思うように、彼らもまた逗子のこと、逗子に集う人のことを素敵に広めていきたいと思っておられるのでしょう。
これまでも逗子で暮らす人たちはいました。これからも逗子で暮らす人たちはいます。どちらの暮らしが楽しいか。アンドサタデーのこれからに期待がやみませんでした。
庄司 真帆 / Maho Shoji
「アンドサタデー」共同編集長。主にイラスト、場づくりを担当。ベネッセにて編集業に従事したのち、食の空間を運営・プロデュースする株式会社WATに所属。数々の店舗の立ち上げや運営、コミュニティ施策に携わる。島好きが集まるコミュニティ、リトウ部の副部長としても活動中。
アンドサタデー
2017年、逗子への引っ越しをきっかけに、平日都内通勤の傍ら夫婦で「土曜日だけの珈琲店」として活動をスタート。珈琲店の運営のほか、デザインやイラスト、執筆を中心とした編集の仕事も行う。2019年4月、アンドサタデーの毎日のお店をオープンさせるべく準備中。(現在は土曜日のみ営業中)