2019年5月17日はアジアにとって輝かしい歴史的な一日だったといえるだろう。台湾で同性婚が合法化されたのである。アジアで同性婚が認められるのはこれが初めて。
80年代の民主化運動にともない、台湾では性的マイノリティの権利獲得運動も盛り上がりをみせた。1986年にはゲイの祁家威(チー・ジアウェイ)氏が同性婚を求めたのが同性婚法制化への道のりの大きな第一歩だったといえる。(参照元:fair)
それから31年後の2017年5月、憲法裁判所に当たる司法院大法官会議が、同性婚を認めない現行の民法は違憲だとの解釈を発表し、2年以内の立法措置を求めたことで急展開をみせた。しかし、2018年にネガティブキャンペーンではないかと批判を受けた同性婚に関する国民投票*1で、半数以上が反対の意を示し、台湾の同性婚の合法化は遠ざかってしまったのである。
その結果に失望し、心を痛めた台湾の音楽プロデューサーSonia Calico(ソニア・カリコ)はこれに対して、同世代の若手クリエイターJasmin Lin(ジャスミン・リン)、Ash Lin(アッシュ・リン)、Yinyin Lu(インイン・ルー)、Byron Duvel(バイロン・デュヴェル)と共に意思表示のために作品を制作していた。
(*1)同性婚反対派が提出した国民投票案は3つ。「民法で定める婚姻は男女間に限るべき」「同性婚は別の法律で規定すべき」、そして「義務教育でLGBTについての教育は行うべきでない」という内容だった。
「差別や偏見から自己を勇敢に解放し、全ての人が平等であることを認め、全ての人に愛と尊敬を持つことができる時、混乱からも抜け出し、自由を見つけられるのである」と語るソニア率いるそんな5人の集大成『Clutter Confines』は、「怒り」「深い悲しみ」「対話」「祝福」の4つのセクションにわかれた映像作品である。アーティストたちが国民投票の結果と折り合いをつけるまでの段階を視覚と音を使って表現した。
『Clutter Confines』
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社会の問題にアートを使って挑むこの5人のうち、ソニア、アッシュ、バイロンから今回NEUTは話を聞くことができた。制作当時それぞれのクリエーションの立場から作品に込めた思い、そして現在同性婚の合法化を経て「今何を感じているのか」を聞いた。
常に心を強く持ち、闘い続けなければならない。
Sonia Calico(ソニア・カリコ)
コンポーザー/プロデューサー/ディレクター/エディター
ー自身のクリエーションの立場から作品に込めた思いを教えてください。
去年の国民投票の悲しい結末のトラウマを癒すというのが自分にとっての作品の出発点だった。当時、社会も私たちの心も引き裂かれていた。暗い日々だった…。友人たちとそのことについて色々議論していく中で、みんなでコラボレーションをしてプロジェクトを始めることでコミュニティの美しさや強さを表現しようっていう話になった。作品を作るプロセスは、癒しになるとも思って。
同性結婚が合法化された今となっては、常にインスピレーションとなってくれたクィアの友人たちと、今もなおセクシュアリティを理由に苦しんでいる人々にこのプロジェクトを捧げたい。全ての人が気持ちを強く持って、自分たちを信じられるような世界になって欲しい。
ー同性婚の合法化を経て、今何を感じていますか?
合法化は平等な世界への一歩であることは間違いない。でも、異性婚と全く同じ権利を得るためには、まだまだ取り組むべきことがあるのも事実。例えば、養子縁組とか。
台湾の外をみれば、毎日のように基本的人権を侵害するようなできことが色々なところで起こっている。香港の離婚法や、スーダンの軍隊で女性のアクティビストへの対応、アラバマ州の中絶に関する法律も…。台湾で活動することで世界で起こっていることへの関心も増えた。常に心を強く持ち、闘い続けなければならない。いつの日か、全ての差別や不平等がなくなることを祈って…。
クリエイティブなゲイの友人たちのクレイジーな結婚式が楽しみ。
Ash Lin(アッシュ・リン)
カメラ/プロデューサー/監督/カラーリスト
ー自身のクリエーションの立場から作品に込めた思いを教えてください。
撮影前・途中・後に起こったことは、全て即興だったといえる。全てのコラボレーターの美学やプロフェッショナルさを信じていたから。みんなで協力しあってた感じ。ソニアが曲のムードやストーリーをみんなと共有して、それにダンサーや役者が表現で応えていった。自分はビジュアル面で彼らの動きや音楽に自分の視点を入れながら表現した。コンセプトの中心となったのがみんなの個人的な感情やコミュニティとして経験した困難だったから、自分の役目は、それを記録して伝えることだった。(「それ」とは怒り、強烈な痛み、理解、そして愛への緩やかな移り変わりだった)全ては結局愛の問題。ゲイの友人への愛、よりよい世界への愛。
それに、宗教的な権力者が合法化を遅らせたという事実を踏まえて、個人的に作品の中に込めたかったメッセージがある。初めて写真について学んだのが教会だったキリスト教徒として、自分は神からの贈り物を愛と共に、マイノリティを助け、平等を実現するために使っていきたい。
ー同性婚の合法化を経て、今何を感じていますか?
クリエイティブなゲイの友人たちのクレイジーな結婚式が楽しみ。でも、いうまでもなく同性婚が合法化したからといって、差別が完璧になくなったわけじゃない。世界中にはまだまだ恐ろしい法律が存在している。自分一人の力で全てをすぐに変えることはできないけど、どうにか正しい側として声を出し続けていきたい。
今こそコミュニティが一丸となる時だとも感じてる。
Byron Duvel(バイロン・デュヴェル)
シンガー(part2)
ー自身のクリエーションの立場から作品に込めた思いを教えてください。
パーソナルな作品を作ることが目的だった。だって作品は観る人によって解釈がどうせ変わるし、そうあるべきだから。だから、自分は自分らしくいることが大切だった。誰にとってもできることって、自分らしくいることだと思ってる。
ー同性婚の合法化を経て、今何を感じていますか?
台湾が平等な国になるための大きな第一歩となったことは間違いない。それは確か。でも、今こそコミュニティが一丸となる時だとも感じてる。こういうことって実際にコミュニティの利益にならないと意味がないから。現状はマジョリティが時代の流れにのっているだけで、本質的な取り組みから離れちゃっている部分もあると思う。今後の行方に実際に左右されるのは自分たちなんだから、当事者みんなが変化に備えなきゃいけない。
『Clutter Confines』