“東京生まれ、無農薬育ちの野菜”を育てる「Ome Farm」代表の太田太(おおた ふとし)さん。
もともと国内外のアパレルブランドや会社で海外営業/PRとして働いていたファッション畑出身の彼が、“本物の畑”で作る野菜はいま方々で話題を呼び、都内人気飲食店を中心に提供されている。
ファッション×農業という視点から飛び出すアイデアで業界を変えていこうとするそんな太田さんが、同じく複数の分野をまたいで活躍する先輩たちに会いに行き話を聞く連載、「Ome Farm太田太の『僕が会いたい、アレもコレもな先駆者たち』」。
第二回目のゲストは、千葉県・鴨川市を拠点に、半農半歌手として活動するYaeさん。
シンガーソングライターの加藤登紀子を母に持ち、自身も2001年に歌手デビュー。その傍ら、父親の故・藤本敏夫が鴨川市に残した自然豊かな里山『鴨川自然王国』を運営している。
月に二度ほど地方へ遠征しライブ、週の半分は収穫作業や地域の行事に参加するなど忙しい毎日を送りながら、農家と歌手を横断している。
今回は、太田さんがそんな”尊敬する先輩”に話を聞いた。
二人の久しぶりの再会はイノシシの親子が走り回る山の奥
Yae:太田さんお久しぶりです、自然王国まで来ていただいてありがとうございます!
太田太(以下、太田):今日はよろしくお願いします! それにしてもすごいですね、思った以上に山の奥でした。
Yae:でしょう(笑)。よくここには小学校の時から遊びに来ていて、どんなに大声出しても怒られないしいいんですよ。
太田:来る途中に動物の標識を見たんですけど、サル・イノシシ・シカ、全部出るんですか?
Yae:全部出ますよ。だから昨年狩猟免許と有害駆除員の資格を取りました。もうここね、昼間でもイノシシの親子がわーっと走り回っていたから、これはまずいなと思って(笑)。
太田:いやあ、本当に凄いところに来たなあ(笑)。
自給自足で日本の経済システムから一時離脱する
太田:ここではどんなものを作ってるんですか?
Yae:にんじんやたまねぎといったよく見るものから、このあたり特有の房州ニンニクまでいろいろです。でもね、房州ニンニクをこのあたりの方は逆に知らなくて。昔は作ってたんでしょうけど、時間が経つ内に消えてしまったんでしょうね。
太田:そういう昔ながらの野菜はどこも消えつつありますね。
Yae:日本はもともと多品種を有機農法で育てて、家で食べる野菜を自分たちで作ってたんです。でも戦後、大量生産に切り替えて、農薬を使うようになって変わっていって。今現役のおじいちゃんたちもそこからしか知らないから、有機農法のやり方を知らないんですよ。私らが手で雑草を取ってるのを見てびっくりされたり。
太田:除草剤を使わないのはびっくりされます、うちも。
Yae:自分たちで食べ物を自給しておくと相手とトレードした時にいい感じに食材が揃うし、私、究極的には物々交換で生きたいんです。このやり取りには税金もかからないから、完全ではないけれど、一部日本の経済システムから離脱できる。
太田:なるほど。この連載ではいろんな選択肢を届けたいと思っていて。日本の経済システムというと、今後、「資本主義っておかしくない?」って言い出す子が増えると思ってます。あとは今、年金問題が騒がれてるじゃないですか。国への信頼も揺らいでる。
Yae:単純な計算を大人ができてないんですもんね。むしろマイナスになってるし。不信感は募りますよね。
太田:物心がついた子どもたちに「税金払う意味あるの?」って言われた時に、払わないという選択肢もあるよと伝えたい。ぼくは払ってるけど、あなたが大人になった時はどうするか自分で考えてみなさいって。
Yae:「Small Family Farming(スモール・ファミリー・ファーミング)」という考え方が最近国際的に議論されていて。これは世界の食料自給の8割が小規模・家族農業で生産されていると国連が発表したところから始まっています。
太田:小さな農家が世界の食を支えている。
Yae:そう。少なくとも自分たちで食べる分の食料は自給できるんですよね。だから私はこの土地を、子どもたちの一つの選択肢として残すために継続していきたいですね。
太田:極論ですけど、周りの友人たちが日本の先行きを考えて国籍を変えようかなと言ってて。そういう人がいるということもことも伝えていきたい。対して、外国人の移住者も増えている現状もあって。国籍も含めて本当にいろんな選択肢があるんですよね、今は。
歌手と農家、二足のわらじを履く生き方
太田:Yaeさんは歌手として活動されながら農業をするという選択をしていますが、歌手活動について何か突っ込まれたりしないんですか?
Yae:いや、みんなすごく応援してくれているというか。私は地域の活動にも参加して、PTAの役員もやったりして、自然と地元の人と接しているので身近に感じてもらえていて。「テレビで歌ってるの見たよ、頑張ってるねえ」とか、すごく応援してもらってます。
太田:そうなると「〇〇で歌ってくれませんか?」なんてことにも?
Yae:あります。町内会の祭りとかね。それで「いいよ歌うよ」って言って歌うんです。そうすると町の方も声をかけてくれるようになって。面白いですね、歌が繋いでくれる。農家って孤立しがちだから繋がりを作るのがすごく重要。そういう意味では農業と歌手業ってバランスもすごくいい。
太田:それこそまさに多様性を自分の中に持つ生き方だなと思います。
Yae:そうそう、別に職業を一つに決める必要ないと思う。
太田:歌と農業がクロスオーバーするときはありますか? Yaeさんの歌を聞いていると、農業からインスパイアされたのかなという単語が歌詞にも出てくるじゃないですか。
Yae:音楽って少なからず農業の現場で生まれてると思うんです。ずっと草取りしてて腰が辛い時に、リズムをつけてみんなで歌いながら作業するための曲とかもたくさんあるんだなってことは、農業を始めてつくづく実感してます。
太田:僕たちのファームも音楽好きの集まりで、だから大音量で流しながら作業してるんですけど、ちょっとやばいイベントやってると思われてる(笑)。でも葉物だけで何十キロとかあるから、音楽でも聞いて歌って、リズムよくやらないとやっていけない。だからその気持ちは分かります。
Yae:あとはローカルなお祭の祭囃子や神事の時に歌ったりする曲とかね。だからその土地の音楽を聴いていると、国ごとの文化が音楽から伝わってきます。だからそうですね、歌手をやる上で、農業からのインスピレーションは多々受けています。
選択肢は広く、引き出しはいっぱいに
太田:二足のわらじを履いていると大変なときもありませんか?
Yae:私ってやりたがりなんです。とにかくやってみて、楽しかったら続けるタイプで、逆に楽しくなければすぱっとやめちゃいます。狩猟免許は獣害に困ってたのはありますけど、だったら自分で狩ればいいじゃん?って。
太田:やるからにはやり通せみたいな価値観もあるじゃないですか。そこに引っ張られて、そもそも始めることへのハードルが高い人もいる。
Yae:そこに縛られない方が絶対いい。とにかく選択肢は広く、引き出しはいっぱいあったほうがいい。途中でやめたとしても後々すべて活きてくるから。結局やってみないとわからないことが多いですし。だから10代や20代の子が「まだそれは早いんじゃないか?」とか考えなくてもいいと思います。
太田:まずやってみろと。
Yae:そう。学生でビジネスやったって今は普通のことだし、何かとらわられないで生きてほしいなとは思いますね。逆に40代や50代の人が「もう遅いんじゃないか?」と思う必要もない。私もユンボの免許は40代になった後に取りましたから。
太田:じゃあお子さんの夢を今どんな形でサポートしてますか?
Yae:情報はネットから得られるんだろうけど、リアルを体験することって画面越しの体験とは全然違う意味を持つと思うんです。だからリアルな体験をたくさんしてほしい。それに子どもって面白くて、息子に「なんで戦争するんだろうね?」とかぎくっとするような質問をされるんです。人によって答えが全然違う質問を。だから私は常にいろんなことを勉強して自分の考えを伝えられるようになりたい。
太田:子どもって本当面白いですよね。
Yae:そう。あと最近感じるのは、今の若い人たちっていつも強制的に判断を迫られてきてるんですよね。欧米型の文化が入ってきたあとから、「イエスかノーか、どっち?」みたいな。でも日本人ってどっちでもないグレーを選べる人種だと思うんです。
太田:グレーゾーン。
Yae:そうそうグレーゾーン。悪い意味で使われることが多いんですけど。ジャッジしない。だって反対する人も賛成する人もいるから。両方ともいいんじゃないか、という文化が昔はあったのに、今じゃそれを多数決で決めますねってことになってて。白黒つけないっていう選択が今の若い人たちにもっとあってもいいんじゃないかなと思ってます。
太田:例えば卒業後すぐに就職を決めなくていいとか。
Yae:うん、決めなくていい。私も狩猟免許取るまで、こんなに罠をかけるのが楽しいなんて知らなかったですから。(笑)
隠す日本と隠さない欧米
Yae:そういえば話は変わりますけど、最近すごく面白い考え方に出会って。「大衆ってなんだ?」という問いに、「大衆は根無し草、大量の人々、個性のない、何者でもない群衆」と定義して、対して「庶民ってなんだ?」という問いに、「土地に根ざしてコミュニティ文化を作り出す、役割も作り出す」と定義する。で、現代は大衆ばかりだって考え方で。だから庶民になろうと。
太田:思考能力が停止してますもんね。
Yae:そういう人たちを国が生産してきたんですよね。
太田:本当そうなんですよ。終身雇用とかね、何も考えないでも済む社会システムを作ってきたから。でもそれが崩壊しつつあって。
Yae:考えないというと、日本って隠す体質の国じゃないですか。対してアメリカは表に出せちゃう国で、だから強国であり続けてきたんじゃないかと言ってる方がいて。
太田:と言うと?
Yae:アメリカはいわゆるカウンターカルチャーの歴史がある。権力にカルチャーで反抗する人がアメリカには必ずいて。例えばベトナム戦争の帰還兵が痛手を負っていますという事実を題材に映画を作って、エンタメにして周知するんです。アメリカには反体制の人たちの居場所がある。それを国もちゃんと認めていて、それを世界に向けても見せちゃう。
太田:シルヴェスター・スタローンで有名な『ランボー』シリーズとかがそうですよね。
Yae:そうそう。で、隠さない国の人たちは、昔自分の国がどんなに悪いことをしたのかを若い人たちも知っている。ちゃんと見せることによって、批判に耐えうる強さと論理を身につけてるから強いんだ、って。
太田:批判を受けるからこそ強いと。
Yae:だって臭いものをいくら梱包して押入れの奥にしまったとしても、それはいつか強烈な腐敗臭を漂わせて、耐えられない臭いを放って出てくるんですよ。だから隠すんじゃなくて、日が当たる風通しのいいところにそれを晒しなさい、そうすれば腐敗しないじゃないですか、もしかしたら発酵するかもしれない…とまあそういう風にたとえているんです。
太田:いい考え方ですね。隠してもどうせ腐るなら晒してしまえと。
Yae:もちろん人間ってものすごく強欲だし、パーフェクトじゃない。だから、絶対間違うし、揺れ動くもの。だから間違ったら修正すればいいし、それをみんな許せばいいと思うんです。
歌手と農家、どちらに対してもまっすぐ真剣に、ほどよくリラックスした姿勢で取り組んでいる姿が印象的なYaeさん。
彼女は、「もっとグレーな選択をしてもいいのではないか」と言う。
新卒で就職しなければいけない、やり始めたらやり抜かなければいけない、仕事は一つのことに集中しなければいけない…そういった旧来の常識を、Yaeさんは軽やかに飛び越えてみせる。
彼女はその生き方で、半農半歌手という肩書きが伊達ではないことを教えてくれる。
「選択肢は広く、引き出しはいっぱいに」
今すぐでなくてもいいから、やりたいことを引き出しに入れ始めてみよう。自分の可能性を狭めるのは、いつだってまだ早いのだから。
太田さんからのお知らせ
27日に東京・青山の国連大学前で開かれるファーマーズマーケットに出店している青梅ファームのブースに、参院選の投票所でもらえる「投票済み証明書」を持っていくと、青梅ファーム産の野菜かハーブをプレゼントします(一日に出せる数には限りあり!)。
子ども達の生きる未来に選択肢を残す、という点では今回の選挙もとても大切な選択です。
21日の参院選に投票したあとは、ぜひ27日のファーマーズマーケットへもお越しください!
Yae
東京生まれ。故藤本敏夫・歌手加藤登紀子の次女。2001年歌手デビュー。
現在は家族とともに自然豊かな里山「鴨川自然王国」で、
農を取り入れたスローライフを送り、半農半歌手として活動中。
2018年より環境省「つなげよう!支えよう!森里川海プロジェクト」アンバサダー。
渋谷のラジオ「Yaeと並河部長のサラヤ渋谷支社ソーシャルデザイン部」
を毎週水曜日18:30~から配信中。
Yae en Live with CHORO CLUB
開催日:2019年9月13日(金)
開場:17:30
開演:19:00
会場:東京麻布「天現寺本堂」(港区南麻布4-2-35 『天現寺』)
料金:前売り4,000円/当日4,500円
主催:〜En〜アートフェスティバル実行委員会
お問い合わせ:info@yaenet.com/tel.03-3352-3875