「皆がそうなり得るのかもしれない」無期懲役確定後に“万歳三唱”をしてしまう彼を生み出した社会をどう考えればいいのか|清水文太の「なんでも」 #006

Text: Bunta Shimizu

Photography: 雨夜 unless otherwise stated.

2019.12.27

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ウールのコートを身に纏わないとこごえる程度に寒くなった東京駅で、友人を送った後、家へ帰る電車を待つ時間があったので、おもむろに携帯を開いた。

そうしたら、インパクトのある字面が目に入る。
「無期懲役、被告、万歳三唱」

散々メディアのキャッチコピーやわかりやすさについてコラムや文章などで色々書いていたからか、普段見出しに釣られることなんてないのだけど、こればっかりは見逃せなかった。

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清水文太
インタビュー記事はこちら

記事を読み進めていると、父親の事が書かれていた。
「生物学上では父親です」

その記事は、普段であれば僕が読まない某週刊誌の、とても“いやらしい”書き方をしているものだったのだけれど、そこから、沢山の記事などを調べた。

でも、いくらこの事件のことを読み漁ったって、怪我した方の心の傷が癒えるわけじゃないし、亡くなった方が戻ってくるわけでもない。ただ、自分の生活から遠い話ではないと感じたのだ。

この大きいようで小さな社会にいる、彼が、歯車を狂わせ、とんでもないことをしてしまった。
彼は一人の人間として大きな罪を犯してしまったのだ。もう取り返しのつかない大きな罪を。

僕らが皆、彼のようになり得るかもしれない

それでも、これをきっかけに僕が考えたのは
“僕らがみんな、彼のようになり得る”ということだ。
それは、僕自身がそうなっていたのかもしれない。と感じたからだ。
決して他人事では無い。

僕自身、彼みたいに、とは言わないが複雑な環境で生きてきた。

小学生の頃に「どうして生きているのだろう?」と思って、それに答えてくれそうな本を読み漁った。それでも、どうして生きているのかわからなくて苦しんでた。そして、環境も悪くなって、自分を傷つけてしまったり、落ち込んでしまう時期もあった。

その、負のスパイラルというものが、外側に向いてしまっていたら。そう考えてしまうと、身体が震える思いだ。

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それでも、世の中のほとんどは彼を「化け物」のような存在で見る。

それは当たり前なことかもしれない。僕だって、自分が刑務所に入りたいがために人を殺めてしまった人間に恐怖を感じる。とてもクレイジーだ。

もしかしたら、僕も殺されるかもしれないとも思う。

でも、皆がそうなり得るのかもしれないのだ。
それを忘れてはならない。だからこそ、人間同士助け合い、生きていかなければならないのだ。

他の誰でもなく、社会が生み出してしまった

「生物学上の」と父に言われ、社会でうまく順応できず、どこに気持ちを爆発させたらいいのか、わからなかったと思う。そんなことだって、実際に話したことがないし、そもそも“メディア”からの情報だから、彼が本当にどんなことを思っているのかなんて、わからない。

ただ、人を殺めて逃げてしまいたいほどに、彼は荒んでいたのだ。この世界に絶望していたはずだ。もう、どうだっていいと感じたはずだ。

何度もいうが、彼は許されるようなことは一切していない。とても自分勝手で、到底許されることではない。

誰かにとって、大切な人を殺めてしまったのだ。一生を持って償うべきだ。被害者遺族の方の気持ちを思うと胸が張り裂けそうな気持ちになる。

だけど、

そんな身勝手な「万歳三唱」を裁判所でしてしまう彼を生み出してしまったのは、他の誰でもない、この社会なのだ。

だからこそ、児童相談所や行政、学校がきちんとしなければならない。

僕自身の体験だが、15歳の頃に児童相談所に行ったことがある。そのときは、絵に描いたような門前払いをされた。「15歳にやれることなんてない」と。

その時の僕は絶望した。全部なくなってしまえばいいと思った。だけど、そこで助けてくれた大人や、優しい保護してくれた家族がいた。

運が良かった。

でも、世の中にそんなに運が転がっているわけではない。

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運を使うのは、ゲームや自分の好きなことだけでいい。悲しいことを乗り切るために運を使うような世の中ではとても辛い。だからこそ、伝えていくしかない。

世の中を、少しでも良くするしかない。チンケな言葉に聞こえるかもしれないが、それが一番大事なのだ。

皆が孤独にならないことが重要だ

人と人が助け合えば、なんとかなることって本当にあると思うのだ。こんな悲しい事件を風化させずに、忘れずに、伝えていき、皆が孤独にならないことが重要なのだ。

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それでも、殺された方のことを思うととても悔しい。
自分の大切な人が、殺されてしまったら。僕が殺されてしまったら。恨んでも恨みきれない。だからこそ、こんなことがもう二度と起こってはいけない。

この記事を書くことによって、様々な意見がくるだろう。もしかしたら、何かあるかもしれない。

だけど、それでも頭が悪いなりの僕の言葉を発信し続けることが、僕自身のやることだと感じる。 言葉を発信せず、隠してしまったら、なにもできなくなってしまうから。

実は、あとこの連載今回で最後なんです。一年やれてよかったと思っている。また、なにかやれたらいいけどなあ(それはNEUT編集部にかかっているが。笑)

それじゃあ、またね。ばいばい!

文太

Bunta Shimizu(清水文太)

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スタイリストとして、水曜日のカンパネラや千葉雄大といった著名人の他、資生堂広告のスタイリングやベネトンのアートディレクションも手がける。コラムニストとして雑誌「装苑」の連載などに寄稿。88rising所属JojiとAirasiaのタイアップMVにも出演。RedbullMusicFesでのDJ・ライブ出演など音楽活動にも精力的に活動を始めており、アーティスト・クリエイター・スタイリストとして多岐にわたる活躍を見せている。

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