家族とは血の繋がりではなく築くもの。アメリカの養子制度における人種差別的な制度の“すき間 ”を暴く『ブルー・バイユー』|GOOD CINEMA PICKS #029

Text: Moe Nakata

2022.2.1

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 2021年カンヌ国際映画祭の「ある視点部門」に出品され、8分間におよぶスタンディングオベーションで喝采を浴びた『ブルー・バイユー』。2022年2月11日から日本でも公開される本作品の予告では、「家族と共に暮らしたい。ただ、それだけ。」というメッセージが流れる。本作は家族愛に満ちた物語であると同時に、想像もしなかった制度のはざまで理不尽な扱いを受ける人々が描き出されていた。
 監督・脚本・主演は韓国系アメリカ人で『トワイライト』シリーズで知られ、監督としても数々の賞を受賞している俳優のジャスティン・チョン。そして『リリーのすべて』でアカデミー賞助演女優賞を受賞したアリシア・ヴィキャンデルが主人公の妻を演じた。

予告編

※動画が見られない方はこちら

 主人公は3歳で韓国からアメリカに養子として出されたアントニオ。妻のキャシーと義理の娘のジェシーとともに経済的には苦労しながらも、何気ない幸せな日々を送っていた。しかし警官であるジェシーの父親の同僚に嫌がらせを受け、書類の不備により市民権を持っていないことが明らかになったアントニオは、強制送還の危機に瀕する。不器用ながら愛する家族を失わないために奮闘するアントニオ、彼を大きな愛で支えようとする妻のキャシー、義理の父と離れることに不安を抱える娘のジェシー。家族3人の心情は絶えず揺れ動く。

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 この映画では韓国系アメリカ人のアントニオが日常的に受けている人種差別が垣間見える。冒頭のアントニオが仕事を探しているシーンでは面接をしている白人男性にアジア系の名前ではないため「アントニオ・ルブラン?この苗字は?」と聞かれ、「出身は?」と聞かれてアメリカの地域を答えると「生まれ故郷は?」と聞かれる。アントニオは人生のほとんど全てをアメリカで過ごしているため、生まれた国である韓国に帰る家はなく、言語を話すこともできなければ、記憶もわずかしか残っていない。

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 幼い頃に本人の意思とは関係なくアメリカに連れて来られ、生まれ育ったアントニオになぜ市民権がないのか。それは、アメリカの制度の問題にある。アメリカでは2000年頃まで養子に市民権を付与する制度が存在しなかった。そのため、2000年以前に養子としてアメリカにきた子どもたちには市民権が与えられておらず、2000年以降に適切な手続きをする必要があった。しかし、多くの養父母はこの手続きを行わなかったため、たくさんの養子が市民権を持たないまま成長した。時代と法律のはざまに落とされ、アメリカ国籍を持つことができなかった人々は今日もアメリカのどこかで強制送還されている。

 ジャスティン・チョンはWebマガジンのインタビューで、この映画を作る際の原動力について話している。

『ブルー・バイユー』は、養子縁組のコミュニティという、十分にメディアなどで取り上げられていない人々についての映画です。実際に国外追放に直面している人たちもいるので、彼らを失望させたくないという思いがあります。これはフィクションではなく、実在の人物についての映画です。「おい、いいか、お前が中途半端なことをしたら、あるいはインチキをしたのなら、彼らに答えなければならないぞ」と自分にいつも言い聞かせています。それが大きな原動力になっていると思います。

 国際養子として育った人たちの多くは生まれた国でも育った国でも「外国人」として扱われる。育った国で幸せな生活を送っていても、アメリカだと自分が知る由もない制度の問題でその国から追い出される可能性がある。強制送還された場合、家族とは離れ離れにならざるを得ない。またアメリカに戻りたかったら、今までの生活はなかったことになり、一から外国人としてビザを申請する必要があるのだ。これは決して昔に起こった問題ではない。現在も存在している問題だからこそ、この物語は私たちの心に強く突き刺さる。

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 「ブルー・バイユー」とは日本語で「青い入り江」を指す。タイトルの通り、この映画にはたびたび「ブルー・バイユー(青い入り江)」が登場するのだが、それは神秘的で、何か他の意味を持つように聞こえる。妻のキャシーがパーティーでロイ・オービソンの「ブルー・バイユー」を歌うシーンも印象的だ。この曲はアントニオには韓国とアメリカを繋ぐ曲、キャシーには家族の曲として聞こえる。

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 アメリカの養子縁組のシステムの問題を少しでも多くの人に届けようと作られた本作だが、何よりも印象に残るのは家族の絆だった。アントニオと義理の娘のジェシーは実際に血は繋がっていないもののお互いを深く信頼しており、彼女は実の父親よりもアントニオのことを慕っている。同じ血は繋がっていない家族でも、アントニオと養子養父・養母の関係と、アントニオとジェシーの関係は対照的だ。家族にとって重要なことは血縁ではないと気付かされる。この映画を見て確信したのは、家族とは、お互いで築いていくものなのだということだった。

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『ブルー・バイユー』

公式サイトTwitter

アメリカの司法制度に翻弄される家族を描いた、心揺さぶる物語
2021年カンヌ国際映画祭に出品され 、8分間におよぶスタンディングオベーションで喝采を 浴びた、愛と感動の物語『 ブル ー・バイユー』。監督・ 脚本・主演を務めたのは、映画『トワイライト』シリーズで俳優として知られ、監督としても数々の賞を受賞している韓国系アメリカ人、ジャスティン・チョン。共演は、2015年『リリーのすべて』でアカデミー賞®助演女優賞を受賞したアリシア・ヴィキャンデル。韓国で生まれ、わずか3歳で遠くアメリカに養子に出された青年が、自身は知る由もない養父母の30年以上前の書類の不備で国外追放命令を受け、二度と戻れない危機に瀕したらどうするか? アメリカの移民政策で生じた法律の“すき間 ”に落とされてしまった彼は、愛する家族との暮らしを守れるのか。不器用な生き方しかできない男、大きな愛で支えようとする女、義父を失う不安を抱える少女。家族を襲う不幸に揺れ動く3 人を美しい映像と共に力強く描いた傑作がいよいよ日本で公開される。

監督・脚本・主演:ジャスティン・チョン/出演:アリシア・ヴィキャンデル、マーク・オブライエン、リン・ダン・ファム、エモリー・コーエン
2021年/アメリカ/原題:Blue Bayou/配給:パルコ ユニバーサル映画 ©2021 Focus Features, LLC.

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