私たちの生活に欠かせない衣服。寒さや暑さから身を守るだけでなく、時に気分を上げ、時に自分に自信を持たせてくれる存在だ。しかし、地球で最も環境に悪い産業の一つと言われていることも事実だ。毎年、千億もの服が作られ、その5分の3が、購入した年に捨てられる。またファッション業界を国に例えるとその二酸化炭素の排出量は、中国、アメリカに次いで世界第3位にもなる。(映画本編より)そんなファッション業界の変革に挑む、あるデザイナーを追った希望と発見に満ちたドキュメンタリー映画が誕生した。
2017年4⽉、英国ファッション協議会とVOGUEが選ぶ英国最優秀新⼈デザイナーに選ばれた「Mother of Pearl」のクリエイティブディレクター、Amy Powney(エイミー・パウニー)は10万ポンドの賞⾦を得て、環境活動家の両親のもとで育った⾃⾝のルーツに繋がるサステナブルなブランドへの移⾏を決意する。
コレクション名は、「飾りは要らない」を意味する「No Frills」。ロンドン・ファッションウィーク開催までの18ヶ月という短期間でコレクションの準備をすることになったエイミーと彼女のチームが、さまざまな困難に立ち向かいながらも理想の素材を求めてペルーやウルグアイ、オーストリアと地球を旅し、コレクション完成までの道のりを追うファッションロードムービーだ。
1年に4回の発表が一般的なコレクションを、2シーズンに減らすことを決め、業界のビジネスモデルを変えていくなど「No Frills」は、ファッション業界に新しい価値観を提⽰して注⽬を浴び、業界の変化を加速させた。その注⽬はマスコミだけに留まらない。当時、皇太⼦だったチャールズ英国王が企画した「キャンペーン・フォー・ウール」の10周年記念スカーフのデザインを依頼されるまでに発展する。「Mother of Pearl」は、サステナブルなハイファッションブランドとして瞬く間にその名を世界に知らしめた。
監督を務めたのは、ファッションやカルチャーの短編映画の制作に携わり、アートにおけるジェンダーギャップをテーマにした「Painting Her Story(原題)」シリーズを制作したBecky Hutner (ベッキー・ハトナー)。3年もの間エイミーに密着し、計5年間の撮影編集期間を要した本作は、ハトナー初の長編映画作品となった。
現在でこそ、サステナブルな取り組みが意識化されつつあるファッション業界だが、エイミーが新人賞を受賞した2017年は、大量消費を促すファッション業界にとってサステナビリティはファッションと相反するものだというイメージが根付いていた。また、世界中から⾼品質で安い原材料を集め、製造過程も複雑であるファッション業界において、これまでにない独自の供給網を築き上げるのは極めて難しかった。そんななか、業界の常識に抵抗しながらエイミーは、オーガニックでトレーサブル(追跡可能)な原料を使用することや、動物愛護に努めること、最小限の水と化学物質を使用すること、そして最小限の地域で生産することを追求し、突き進んだ。
全ての工程を明らかにしてサプライチェーンを繋ぐエイミーの旅は、ファッション好きだけでなく、服を着る全ての人や、既存の当たり前に疑問を持っている人みんなに見てほしい作品だ。
『ファッション・リイマジン』
9月22日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
<ストーリー>
ファッション業界における環境問題への対応状況に危機感を覚えたエイミー。環境活動家の両親のもとで育った彼⼥は、ファッションブランド《Mothe of Pearl》を、新⼈賞受賞で獲得した賞⾦の10万ポンドをもとに、原材料から製造過程まで、すべてにおいてサステナブルなブランドに変⾰することを決意。新コレクションのデビューまで18ヶ⽉というタイムリミットの中、彼⼥とチームはさまざまな困難に遭遇。しかし「地球を壊さず、常識を壊す」信念を貫くために、エイミーたちは仲間達と共に地球の裏側まで⾜を運び、⽴ち向かっていく。
監督:ベッキー・ハトナー出演:エイミー・パウニー(Mother of Pearlデザイナー)、クロエ・マークス、ペドロ・オテギ
2022年/イギリス/英語/カラー/ヴィスタサイズ/1時間40分/日本語字幕:古田由紀子