VR(仮想現実)やAI(人口知能)などの言葉をニュースで頻繁に聞くようになってしばらく経つ。VRで「よりゲームをリアルに体感できる」とか、AIが将来「人間の職を奪っていく」などと言われているが、最先端の技術が実際のところ、どんなものか把握しきれていない人も多いかもしれない。
そんな話題の最先端の技術や、広く普及してきたスマートフォンを題材に、わかりやすくも深い皮肉を込めた作品を作るアーティストがいる。ニューヨークを拠点にするTom Galle(トム・ガレ)だ。
若い社会派アーティストを紹介するBe inspired!の連載「GOOD ART GALLERY」。今回は、現代社会に対する鋭い視点とユーモアセンスを持ち合わせた彼の言葉や作品から、彼の現代社会との付き合い方を見ていくことにする。
VR用ゴーグルを使えば仮想現実でヌードも見られる
セルフィースティックのパソコン版
ーあなたは誰?
僕の名前はTom Galle(トム・ガレ)、ニューヨークを拠点とするインターネットアーティストで、デジタルクリエイター。
ーどんなアートを作っているの?
インターネットカルチャー、ミームアート*1、テクノロジー、そして新興メディアをテーマに、コンセプトを重視したアートを作っている。これまでには、プロや個人とエージェンシーを通じて仕事をしたり、テクノロジー系のスタートアップとか世界のアーティストと何か作ったりしてきた。
(*1)ミーム(インターネット・ミーム)とは、人から人へ広がっていく情報や行動、コンセプト、メディアを指す言葉
資本主義の象徴の一つといえる、アップル社のスマートフォンの箱をバッグに
ーどうして今作っているようなアートを始めたの?
僕はインターネットの発信プラットホームや、そこで広がっていくミームなど、インターネット文化全般を素晴らしいものだと思っている。そして、このようなものが人々の行動をどう変えるのかに非常に興味があるんだ。
例えば、数年前は受け入れられていなかった出会い系アプリのTinder(ティンダー)は、現在では普通に使われるようになっている。だから、皮肉を込めてVRを使ったティンダーを作ろうって思った。
VRを使ったティンダーで、相手が好みかどうか仮想現実でスワイプしているところ
同作品は、写真に映った人の反応を見る限り、実用化されてもすぐには受け入れられなそうだ。だが、普及していくとともに次第に市民権を得ていくのだろう。彼は、そんな人間のテクノロジーに対する考えの移り変わりの単純さに、きっとおかしさを見出している。
パソコンやスマートフォンが人に及ぼした影響が皮肉を込めて表現されているのは、次に紹介する作品『Tech Tape Series』(テック・テープ・シリーズ)。現代人は画面ばかり見ているし、何があっても端末から手を離そうとはしない、そんな状態を客観的に見せられているようだ。
その人間の滑稽さに気づかされるだけでなく、彼がテクノロジーから感じている「美しさ」の表れがまた、さらに私たちの内なる笑いを誘ってくる。
ーアートを作るうえで気をつけていることは?
鑑賞者の想像力や好奇心をかきたてるため、作品で描いているものの想像の余地を残しておくことかな。例えば、VR用のゴーグルを覗いているときに、ゴーグルに何が映っているのかまでは描かないとかね。
彼のアートは、現代社会に生きる人なら誰にでも多少なりとも響いてくるものではないだろうか。それは当たり前となった現代社会を取り巻くテクノロジーの存在を、いつもとは違った視点から見せてくれるからかもしれない。
そうやってテクノロジーをうまく活用しているかに見える彼も、あらゆる形態のテクノロジーをどう駆使してどう新たな風刺表現を試みようか考え、疲れてしまうことも少なくないそうだ。
それに技術革新とは逆行して、アナログ志向となっている人も現に存在している。つまり現代人の誰もが進化の一途を遂げるテクノロジーに完璧に追いつけるわけではない。したがって、そのことであまりプレッシャーを感じる必要はないのだ。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。