“お嬢様学校”というと、お堅そうだから自分は入りたくないと否定的に感じる人もいれば、反対に「清楚さ」への好感や上品さへの憧れのイメージを抱く人もいるだろう。
今回Be inspired!がインタビューしたのは、ある“お嬢様学校”に通った経験があり、そこで感じた「違和感」を原動力に、「21世紀を生きる女性の多様な生き方に寄り添い、サポートする事業」を行なうSHE株式会社を起業した26歳の中山紗彩(なかやま さあや)氏。
彼女は学校という「狭いコミュニティ」の危険性や、人が自分の人生を生きるのに必要な「自己肯定感」を感じられ、自分の価値を発揮できる場所の必要性など、普遍的な問題について改めて考えさせてくれた。
“お嬢様学校”で、彼女が初日から感じていた「違和感」
「髪が肩についたら二つ結びをする、胸上についたら三つ編みにする、ポニーテールはだらしないから禁止とか、そんな感じでした」。彼女が小学校から高校まで通ったのは、そんな一風変わった校則が存在する、「お嬢様学校」と称されるような私立の女子校だった。
彼女は入学した日から学校に対して何かしらの違和感を感じていたそうだ。だから、ある意味で彼女は学校生活を通して「異端児」だったといえるのかもしれない。
波乱万丈目な中高生活でした。部活のなかに理不尽な先輩がいたり、顧問の先生も「ルールだし、もう決まっていることなので」と一方的に言ってきたりするような感じでした。そのように明らかに理不尽なことを言われても同期の子は歯向かわず「はい、わかりました」って従順で。でも私は納得できなくて、理解できるまで向き合ってほしいとお願いしても聞いてもらえなかったので、だとしたらほかの指標で打ち勝つしかない、と外部の人が点数で評価する個人戦(新体操)で勝てるよう必死に練習して先輩に勝ち、その結果理不尽なことをされることが減ったこともあります。
そんな経験もあり、順風満帆だったとはいえない学校生活ではあったが、同校の校訓の「従順、勤勉、愛徳」は、現在でも彼女の生き方を構成している。
校訓についてもいろんな解釈の方法があると思っていて、従順は「心の赴くままに」のように心の叫びに従順に生きるという解釈だったらいいし、私は今勝手にそう考えています。勤勉も「自分の夢を達成するために地道に努力しよう」とか「つらいことでも耐え忍ぼう」とかなら納得できますし、「愛徳」は人に愛を持って接しましょうというので違和感はないです。
しかし学校が「伝統的」にしてきた校訓の解釈は彼女のものとは異なる。例えば「従順」なら、先生とか目上の人が言うことや伝統は絶対でそこに従うべきとか、そんな解釈がされている雰囲気があったのだ。
また、直接促されることはなかったが、女性は「結婚して家に入るもの」という前提で人生を捉えている生徒が多いように思えたという。
中3から就活開始。両親のサポートを受け、自分で切り開き始めた、将来への道
「先生に聞けばなんだってわかる」と思っていたのにそうではなかった、幼い頃にそんな経験はないだろうか。彼女もそれを悟り、それだから将来のためには学校に頼らず、両親に相談しながら自発的に動くことにした。
校外の人との関わりが日常的にほぼなく、学校で教えられることがそのときの自分たちの「価値観のすべて」となりがちでした、と彼女は小中時代を振り返る。学校という狭いコミュニティに留まらざるをえない、でもその年代だからこそ、もっと多くの選択肢や価値観に触れられる機会があったらよかっただろう。
だが中学生だった彼女の人生が開けたのは、『サプリ』という広告会社で働く女性が主人公のテレビドラマに出会ったこと。そこで描かれていたような「女性が男性と同等に働ける環境」があることに驚いた彼女は、舞台となっていた広告業界に関心を持った。
両親や塾のチューターに紹介してもらい、なんと中学3年生にしてOB・OG訪問を始め、クリエイティブな仕事のできる広告業界に強い早稲田大学を目指すようになったのだ。
自分の中に有り余るエネルギーがあったけど、どこに向けたらいいかわからなくて。でもそのドラマが希望の光のように感じて。そのときは、なんとなく引け空かない環境にいたけれど、自分が力を発揮したり輝いたりできるアジール*1のような場所がこの世にあるのだなと思えたのです。
(*1)侵されることのない聖域や避難所、自由領域
将来やりたいことから大学を選ぶ友人は少なかったが、彼女はそれに流されず目標だった早稲田大学入学する。卒業後は、よく考えた末に広告代理店ではなくリクルートに入社。
その後はリクルートを離れて起業しているが、未だ「ブランド」が物を言う社会では、彼女のエリートコースと呼べるような経歴が、ジレンマながら信頼を得るためには役立った。だが、彼女自身はそんな社会を変えていく立場にありたいという。
現在も納得するまで話し合いたい性格なのは変わらないが、自分の会社があって守るべきものがあるからということもあり以前と比べて落ち着いたという彼女。
だが会社員時代にも、上司に結果だけ伝えられ、その理由やプロセスを伝えてもらえないシーンや、「これ決まったことだから」とか「そういうものだから」という接し方には「納得がいかないので、申し訳ないけれどしっかりお話いただきたい」と突っかかりがちだった。そのように感じてきた「違和感」は彼女の原動力の一つとなってきている。
現状に満足していない人へ、自分らしい生き方を追求できる「アジールコミュニティ」を
彼女の人生において重要な動きだったのは、人目にこだわらず、常に自分らしい生き方のできる、自分にあうコミュニティを探して生きてきたことかもしれない。
「特定のコミュニティに留まることの危険性」について聞いてみると、多くの人がやりたいことをできずにいる理由が見えてきた。所属するコミュニティの価値観は、自分自身の価値観の基準値となってしまいがちだからその影響力はかなりのもの。
私の場合は、たまたま両親が「あなたを信じているし責任とるべきところではとるから好きな方向に生きなさい」という指針でアジール的な居場所を作ってくれていたので、自由奔放に人目を気にせず生きてこられました。ですが、家庭や職場や同級生などの限られたコミュニティーが自分の居場所のすべてとなり、そういうコミュニティー内の評価を意識しすぎるがために、そのなかの価値観に迎合し自我を抑圧して生きている知人が多い印象です。それってすごくもったいないし、それで自分らしい生き方を実践できずにいる人をなくしたいと思っています。
先ほどの部活の話と重なるが、例えば一般的には理不尽なことを先輩にされても何もできないのは、何かするとそのコミュニティに居づらくなるからで、自分の本音をぶつけることと、居場所がなくなることを天秤にかけたときに、前者はそれほど重要ではないという結論に至りがちだ。
彼女が経営する会員制のレッスンクラブ「SHElikes(シーライクス)」とコワーキングスペース「SHEworks(シーワークス)」を通して目指していることの一つには、社会的な異端児や自分の輝ける場所を模索している人のための選択肢として、「自分らしさに回帰できて自分らしい人生を送ることのできるアジール」を提供することだ。
実際にSHE事業ではフリーランスのライターや広報、デザイナーなどを講師に招いた自由なキャリア形成をサポートするレッスンを開いたり業務斡旋や事業支援をしている。
それだけでなく、世の中の目を気にせず自分らしい生き方を追求して何かを成し遂げようとする会社員、フリーランス、起業家などが多いコミュニティを作り、自分の人生を生きようと前向きに考えている人の後押しを行なっている。
もし現状に満足していないなら、「一般的な世の中の評価」とか「見え方」とかを気にせず、心の赴くままに踏み出したほうがいいと思います。実際に、まわりの方々からそういった相談をされる機会は多くあります。そういうときにはやっぱり、一度きりの人生だからこれまで気にしてきたものを一旦捨てて、納得感のある自分らしい人生を歩んだほうがいいと思うよ、ってお話ししますね。
彼女はただ口でアドバイスするよりも、相談してきた人の具体的な次のアクションにつながりうる選択肢を作るほうが、多くの人の可能性を広げることに貢献できると考え、SHEを作った。女性だけに特化した内容にしている背景には、彼女自身が女子校生活で感じた課題と、SHEのチームにしかない価値で、気持ちのよくわかる同世代の女性たちに対して新しい生き方や働き方のサポートで貢献したいという思いがある。
SHEは「女性だからこう」というしがらみから女性を解放し、自由に自分らしい生き方を追求できるアジールとして役割を果たしていくようだ。
「自己肯定感」の先で得られるものとは
インタビュー中、彼女は何度も「なんか難しいよね」という言葉を口に出していた。それは、今までしてきた「まわりの価値観や常識を気にする」生き方をいきなり打ち破ることが恐くて踏み出せないような人の意識を変えるのが、決してたやすいことではないからであろう。
彼女が作る空間は、女性向けファッション誌から出てきたようなデザインで人を惹きつけそうだが、その背景には彼女が感じた違和感と、自分が閉塞感のなかで生きづらさを感じていた経験がある。また、自分らしい生き方の追求に、一歩を踏み出せない女性たちの味方で後押しになるアジール的な存在になりたいという強い願いが詰まっている。
そして、彼女が繰り返し強調していたのが「自己肯定感」という言葉だった。彼女いわく、人が自分の人生をポジティブに生きるのに大切なのはまず「自己肯定感」。自分を認め、自分の居場所があってこそ進める道があり、その先にあるのが「自分が本当にやりたいこと」への挑戦ではないだろうか。
いかに自分にしかない価値を人や社会に対して発揮できないかと考えているとき、きっとすでに自分自身を肯定できている。それを行動に移す原動力となるのは、自分の人生のどこかで感じた、あの「もやもや」や「違和感」、あるいは「怒り」なのかもしれない。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。