なにかちょっとした違和感、ちょっとした生きづらさ。特に不自由しているわけではないし、社会のいうところのマイノリティでもない、でも世間のマジョリティに自分が属していないと感じることがある。
そんな人たちの居場所がある。クリエイティブカンパニーCINRA, Inc.が運営する、女性の視点から生まれたライフ&カルチャーコミュニティ『She is』だ。今回Be inspired!はShe isを立ち上げたプロデューサー 竹中 万季(たけなか まき)さんと編集長 野村 由芽(のむら ゆめ)さんに、インターネットの普及による新しいコミュニティの可能性と自己実現のかたちについて話をうかがった。
マスメディアが拾えなかった部分に光を当てる
She isの軸となっているのは毎月サイトのカラーがガラッと変わるキュートなビジュアルのウェブメディア。サイトのカラーを固定していないのは、「自分らしく生きる女性を祝福する」というメディアの信念の通り、多様な自分を肯定するという意味合いも含まれているという。
ウェブメディアでは珍しく、月に一度特集が組まれており、GIRLFRIENDSと呼ばれるコントリビューターたちが特集テーマごとに想いを記事にしたり、編集部によるインタビュー記事が公開される。
このGIRLFRIENDSはファッションモデルであり女優でもある青柳 文子さんのような著名人から、これまでメディアへの露出どころかライター経験もない高校生まで、ジャンル・知名度を問わずフラットな関係で並んでいる。
また、「お悩み相談室」のようなイベントの実施や、有料メンバーに対して毎月特集テーマに応じてキュレーションされたGIFTを贈るなど、ウェブだけで完結するのではなく、現実世界での読者との関わりも大切にしている。
もともとはクライアント企業のオウンドメディアのプロデュース・編集などを行っていた竹中さんと、カルチャーニュースサイト『CINRA.NET』の企画・編集を行っていた野村さん。部署こそ違ったものの、なにかと接点が多く仕事や生き方、好きなことについて話していたという。自分たちのように、自分らしい生き方を模索しながら働く女性の「よりどころ」になるような場所を作りたいと、1年ほど案を練り会社にプレゼンした結果、見事企画が通り、2017年の6月にティザーサイトを立ち上げ、9月から本格的に始動させた。
「夜、疲れて帰ってきたときに開くとホッとする友人のような感じ」がShe isのイメージだと竹中さんは説明するが、確かにそのコンテンツは私的で詩的。情報を入手するためというよりは、さまざまな女性の考えや感情に触れられるようなあたたかい記事が多い。「自分たちの世代が生きていてさまざまな選択をする時に、迷ったり悩んだりするような転機となる地点のことを取り上げたい。一度きりの人生を送るそれぞれの人が、たとえ他人と違った選択をしても、自分が選んだ道を肯定できるような場所をつくりたかった」、そう話すのは野村さん。
野村:生きる上での選択肢のオルタナティブというかグラデーションを提示したいという気持ちが根底にあります。だから「こうじゃなきゃ」と決めつけるのではなくて「どれがあってもいいよね」ということを発信していきたい。世界がスピーディーに流れていくなかで、「私たちにとっての新しさや、生きていくうえで必要な考えってなんだろう?」ということを考えたくて、特集という形をとりました。一つの特集のもとにさまざまな想いを持つ人が集まって、それぞれの想いがただそこにある、という状態に出会ってもらえるような場所にしたいと思っています。
マスメディアでよく取り上げられる女性の姿は「キャリアウーマン」か「家庭的」の二極で語られることが多い。どちらも素晴らしいが、それ以外の場所を目指す人も応援してくれるのがShe isなのだ。
竹中:たとえば“バリキャリ”って言葉や“勝ち組”っていう言葉は、すごくキャッチーだし話題になりやすいかもしれないけど、そこに全員を押しこめようとしてしまう社会にはすごく苦しさを感じていて。たとえばテレビとかで「結婚をしない女性が増えている」っていう報道がされると、場合によっては「結婚するかしないか」でまるで世の中の人間が二つに分かれているように捉えられてしまう。でも、そこにはもっとグラデーションみたいな部分があっていいと思うんです。結婚っていう方法でパートナーと一緒にいる以外の方法もあるだろうし、そういった一つの言葉に押しこめられないような生き方を考えたいです。
インターネットが持つ無限の可能性
「自分らしく生きる女性を祝福する」という信念を掲げているShe is。その背景には、自分らしく生きることが自然にできない人々の存在があるのかもしれない。中高生の頃は同世代の学校のクラスメートと趣味が合わず、どこか引け目を感じていた時期があるという竹中さん。彼女が居場所を見つけたのは、インターネットだった。
竹中:中高生の頃の自分の自信のなさとか、感じていた違和感っていうのは、自分がまわりの人と同じものを好きになれないかもって思ったところからきていました。でも、当時インターネットで知り合った世代の違う大人や違う国に住んでいる人のなかには、私が好きな音楽の趣味などをおもしろいとか、いいって言ってくれる人もいて。ずれてることはマイナスだってずっと教育では教えられてきたけれども、「ずれ」が逆に評価されているというか。CINRAが大切にしている文化や芸術は、まさにそうした「ずれ」をポジティブに見れるようにしてくれるものだと思います。
現実世界ではまわりにいなくても、インターネットのどこかに、住んでいる国も言葉も違くとも、同じような感性や趣味を持つ人が存在する。She isはその無限の可能性に注目する。
野村:たとえばSNSなどでは、有名な人だけではなくて、「私のスターだ」と思えるような深い次元で共鳴できる人が、男女や性別、年齢問わずに存在することを発見できます。インターネット以降、個人が発話以前の「想い」を言葉にしている場所に触れられるようになったことで、「自分と気の合う人がいるのかもしれない」という希望を持ったり、信じることができるようになったのがここ数年だった。既存のメディアでは表舞台で活躍している人がよく取り上げられて、そういう人たちの輝きを受け取ることも本当に素敵なことで、それと同時に、「身近な憧れ」や「共鳴できる人」「私のアイドル/スター」みたいな人たちの話をもっと聞きたいし、そういう人と話を深めたいよねっていうのがShe isの発端でもありました。
だからこそ、She isのGIRLFRIENDSはジャンルも知名度もバラバラなのだ。
テレビや新聞が主流のメディアだった時代は一方的で選択的な情報しか得ることができなかった。しかし、インターネットが生まれてからは新しいコミュニティが生まれる可能性が増えたと二人は信じている。
竹中:インターネットが浸透してからだいぶ経ちましたが、まだまだ「もっとこんなこともできるんじゃないか」って期待をしています。たとえば、今私が東京を普通に歩いているときに、自分と似た考えや興味を持っている誰かが地球の裏側を歩いていたりして。そんな人たち同士をもっとつなげていけたらいいなってずっと考えていて。
野村:名前のついた既存のカテゴリーやジャンルではなくて「想い」や「感覚」でつながっていける接点をつくりたいですね。それは、「冬至の日にお風呂にゆずを浮かべていると、ゆずを浮かべている人すべてと繋がるような気がする…」みたいな、一見個人にしかわからない些細なことでもよくて(笑)。でもそういう自分にしかわからない激しいときめきのようなものが、生き延びるためには必要だったりする。かつて見過ごされていたかもしれない些細な要素が響き合って、意外で素敵な出会いに発展する可能性が、まだまだインターネットにはある。やっぱり人生が動くときは、人やモノとの出会いや別れにあると思うので。
そしてShe isの役目は、自分で調べられる域を超えた意外な出会いを仕かけ、コミュニティにすること。
竹中:TwitterとかInstagramのおかげで、人と人が個人レベルでつながることはどんどん増えていってますよね。それは素敵だし、いいことだと思うのですが、自分の興味や趣向で、ある程度つながれる幅も限定されてしまう。自分では発見できなかったような人を知ったり、逆に知っている人の新たな面を発見したりできるのは、ゆるいつながりを持ったコミュニティのような場所を用意することで、可能になるんじゃないかなと思いました。
「何者かになる」の本当の意味
世の中に存在する主流の考えに流されず自分らしく生きていいんだ、そう思わせてくれるShe isのような存在は、マジョリティ意識が持てない人には心強い。例えば、知名度が高いか低いか、高学歴かそうでないか、結婚しているかしていないか、そういった判断の指標から解放され、「純粋に好きなこと」や「思想」でつながれる場所。そこでは成功や自己実現の判断基準も変わってくる。She isが体現しているように、フォロワー数やマジョリティの判断基準に合わせるのではなく、「自分が好きだと思う人とつながること・認められること」の方が大きな意味を持つからだ。
野村:「何者でもない」とか「何者かになりたい」という葛藤は、きっとたくさんの人が通ってきた道ですよね。それで、何者かになるってどういうことだろう?と考えたときに、究極的には「自分が自分を認めること」なんじゃないかなと。きっとみんながみんな、全世界から応援されるアイドルやスターになりたいわけじゃない。世界中の全員から「YES!」って言われたいわけでもない。自分のなかにある孤独な、社会化されていない想いをこわごわ発露したときに、届くべきあなたに深い次元で届いたという実感が、人を生かすんじゃないかなって思うんです。
今回、She isの二人に話をうかがい、ちょっと浮いていた自分の学生時代を久しぶりに思い出した。「人と違ってもいい」これは教育の場やマスメディアですら言われる言葉だが、頭で何度唱えても肌で感じるのは簡単なことではない。こういうことは、本当に自分を認めてくれる人に出会ったときに、感じられることなのかもしれない。She isはそんなチャンスを私たちに与えてくれるのだと思う。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。