「音楽に政治を持ち込むな?だったら恋愛も持ち込むな」。25歳のラッパーが語る日本社会の“病”

Text: Reina Tashiro

Photography: Keisuke Mitsumoto unless otherwise stated.

2017.10.21

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「音楽に政治を持ち込むな?だったら恋愛も持ち込むな」。インタビューの冒頭からそんな言葉が飛び出した。牛田悦正(うしだ よしまさ)aka UCD、25歳。

UCDは大学で哲学を学びながら、2015年夏に解散した学生団体SEALDsの中心メンバーとして、路上でマイクを持ち続けた。そして今年の10月18日、初のヒップホップアルバム『BULLSXXT』をリリース。今回Be inspired!は、マルチな才能を持つUCDに政治や哲学、音楽に対する思いを聞いた。

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「自分の問題を解決すること」と「世界の問題を解決すること」は同じこと

UCDが社会の問題や政治への関心を持ったきっかけは、両親が離婚したことや父親が他界したこと。そんな「個人的な傷」だった。

「自分の問題を解決すること」と「世界の問題を解決すること」は同じことだと思う。自分が生きて、悩んで。その自分を救済するためには他者を救済するしかないと、あの時はマジで思った。アフリカの貧困問題とか日本の自殺率の高さとか。そういう世界全体の問題を解決したい。

日本の政治に関心が向いたのは、3.11の原発事故以降。新聞や本を調べていくと、政府の出す情報や周囲が言うことに信用が持てなくなる。「偉い人が政治をやっているんだから、そこそこちゃんとやってるんだろう」という安直な安心が崩れ落ちていった。

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本も読まず、考えずに主張するのはダサい。でも世界にいるのに俯瞰するのもダサい。

僕は、原発が賛成なのか反対なのかどっちかだという議論にしたくなかった。一方的に主張することに対して違和感があったし、本も読まずに、道端で主張をする意味なんてない。体験談の共有も意味なんてない。賛成にせよ反対にせよ、どちらもメリットがあるはずでそれを考えてから主張すべきだと思った。だから最初僕はデモすることも反対だったんだ。

日本社会に欠けているのは「哲学的に思考すること」。だからUCDは当時通った大学の図書館に原発の関連本を100冊購入してもらい、かたっぱしから読んで、考えた。しかし、ジレンマが待っていた。「どっちかに“決断”しなきゃいけない。それが政治だった」。

結局意見を主張しないといけないんですよ。考えるだけじゃだめだった。100冊読むと、結局「なにを信じるか」ということしか残らない。そこには原発大丈夫だっていう煽りとダメだっていう煽りしかないから。哲学って思考をすることそのものだから、決断を留保するしかない。思考の限界だと思った。

思考に留まるのは、いまの日本社会の「病」とまで言い切るUCD。社会の中で生きているのに、その社会を上空から俯瞰しつづける思考は、社会に何もなさない。「考えているからいいじゃん」という言い訳として消費されるだけだ。

「でも重要なのは」、とUCDは続ける。「ちゃんと思考しないと決断できない。だからどっちも必要なんです。僕が言いたいのは、本当に考えたら決断できると思うし、すべき責任があるということ」。でも人間は、考え抜いても決断できない時もある。

だから最終的に政治は、どちらを信じるかの “賭け”だと思う。人間はそうやって生きている。だからこそ危うい。どっちを選んでも決断は間違いうる。でも、「だから決断しない」んじゃなくて、データを集めて、しっかり考えて、ちゃんと指標をもつ。その上で、「未知のもの」に乗り出してみる。誠実に未来のためにギャンブルすることは、時に負けるし、時に惨めかもしれないけど、誇り高いことだ。

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政治は趣味なんかじゃない

政治と聞くと、投票に行く、国会前でデモをする、集会に参加するといった日常からかけ離れたイメージがある。「政治とは何だと思う?」とUCDに投げかけると、「人間がともにあること」「なんらかの繋がりがあること」という返事が返ってきた。

繋がりを硬い絆にして、一つの共同性をつくる。これが政治の役割。最低限の共有がないとと共に生きていけない。何が人間の結び合いを決定しているのか?ということを考えるのがまさに政治だと思う。言葉とか法とか。今は言葉や論理への信頼さえもなくなっている時代だから、僕は声をあげてきた。僕がかっこいいラップをして、ライブに人が集まって、その場のみんなが「うお、かっこいいじゃん」って思ってくれたら、そこでまさに政治が始まっていると思う。

人間が一緒に生き、繋がることが政治だとすれば、政治はわたしたちの「生活」と地続きであるし、政治に嫌悪感を示す人も、政治的に生きていることになる。それでもなお、なぜ日常的な生活と政治が遠いのだろうか。

政治が悪い意味で趣味の領域だと思われているからだと思う。「政治に興味あるんだ、へえそういう趣味なんだ」という感じ。政治が産業化されている。でも政治は、娯楽じゃない。人間の生き死にが関わる問題だ。なのに政治や法の領域が格下げされてしまっている。これってすごく危ないと思う。

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音楽と政治が関係ないなら、音楽と恋愛も関係ない

日本の音楽シーンは、海外に比べて政治的発言がタブーとされている。「音楽に政治を持ち込むな」。「音楽は純粋であるべき」。こんな言説をよく聞く。「音楽だって政治じゃん」と言い切るUCDは、この現状に対してどう考えているのだろうか。

一言で言えば「じゃあ音楽、聞くなよ」ですよね。音楽と政治関係ないなら、音楽と恋愛も関係なくなる。詞がある時点でそこには必ず何らかの意味があるし、詞がない音楽だってなんらかのテーマがある。表現ってそういうことでしょ。政治がないところ、言葉がないところに行きたいなら、行けばいい。でも、そこは戦場ですよ。

音楽が政治的な意味を持つのは、歌詞が政治的である時だけではない。

音楽そのものが政治的になる瞬間があって、それがどういう時かって、例えばヒップホップのアーティストが「世の中がどうなろうと構わん」「民主主義が壊されようと、国家が壊されようと、それでも俺たちは歌うぜ!踊るぜ!」って言っている時だと思う。

ヒップホップは、黒人の貧困層から生まれた音楽。抵抗の音楽なのだ。生きづらい閉塞的な時代、極貧の中で、ピストルで撃ち合っていた少年たちが、「撃ち合うんじゃなくて、一緒に踊ろうよ、歌おうよ」と言い続けてきたのだ。その音楽がいま世界中に届いている。ヒップホップがどれだけの人を救っているか、計り知れない。

人間の生のクオリティをあげ、よりよく共に生きること。これが政治だとすると、「踊ろうよ」という呼びかけが、政治的じゃないはずがない。高学歴であるとかそんなんはどうでもいい。

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「傷」と「賭け」をテーマに掲げてリリースした初アルバム『BULLSXXT』に込めた思い

UCDが影響を受けたラッパーは「5LACK」という日本人。「車でドンキまで散歩したり」、「スタバのスタッフの娘に恋をしたり」など日常の風景を歌い続ける。

それまでは、政治的なことや「俺たち悪いんだぜ」みたいなかっこつけばっかだったんだけど、5LACKはいわゆる社会派じゃない。このひどい時代に、それでも現状を肯定して生きていく。こういうラップをしてもいいんだ、普通の生活を歌えばいいんだって気が付いて、僕にもできると思った。

今回のアルバム『BULLSXXT』のテーマは、「傷」と「賭け」。父親が他界した自分の「傷」に向き合い、生きづらい日本社会で思考停止せずに「賭け」をする。そんな思いを込めたという。

「誰に聞いて欲しい?」と尋ねると「全然考えてなかったけど、俺に似たやつかな。ヒップホップって自己治癒の音楽でもある。社会をよくするためにラップするんじゃない。自分自身を助けることが結果的に誰かを助けることになるはずだから」と、はにかんだ。

※動画が見られない方はこちら

10月18日、収録曲「Stakes」のMVを公開。監督を務めたのは、UCDと同い年の盟友iKi。夜中の下北沢を巡るナイトクルージングは、楽しい雰囲気の中にもデモで使用したであろうトラメガやプラカードが映っており、UCDらしい作品となっている。

UCD

2017年10月18日にPvineから1st Album『BULLSXXT』を発売。

「Stakes」を含む全11曲収録のバラエティに富んだ作品なので、お聴き逃しなく。

http://p-vine.jp/artists/bullsxxt

11月23日(木)にはアルバムリリース記念インストア・ミニライブ&サイン会を開催。

日時:2017年11月23日(木・祝)21:00スタート

場所:タワーレコード渋谷店4Fイベントスペース

内容:ミニライブ&サイン会

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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