今年も残りわずか。年越しは家族と過ごそうと、すでに故郷へ帰るチケットを予約した人もいるだろう。実家で待つ祖父母や、こたつのことを考えると、今から心が温かくなる。
しかし、何年も前から故郷へ帰れない人が、世界には数多くいる。今年、世界の難民支援を行う国連機関UNHCRは、世界中の、難民、避難民、難民申請者の数が、過去最高の推計6,560万人(‘16年末時点の統計)に達したことを発表した。(参照元:UNHCR)
昨今、世界的に難民受け入れ問題が議論されるなか、「難民」という言葉に「負担」や「危険」といったイメージが加わりつつある。受け入れ費用や、難民に紛れて事件を企む者が入国するおそれがあることへの心配は自然だが、統計や問題だけに目を奪われると大事なことを見逃してしまう。
そこで、国連UNHCR協会が、10月にGoogleと開設したウェブサイト「Searching for Syria(シリアを探して)」を紹介したい。
2011年から続くシリア紛争による難民の規模は、’16年度末の統計で世界最大の550万人となった。ここ数年、幾度となく報道されてきたシリア難民の悲惨な状況を目に「なぜこんなことが?」と、湧き上がる疑問の答えをインターネットに求めた人も多いだろう。
このウェブサイトでは、そうして世界中でもっとも検索された、シリア難民危機に関する5つの質問への答えを、写真や動画を用いてわかりやすく提示している。下記が、世界中で検索された質問だ。
②シリアで何が起こっているのでしょうか?
③難民とは?
④シリア難民はどこへ向かっているのでしょうか?
⑤どうすればシリア難民を助けることができるのでしょうか?
ウェブサイトが示すこれらへの回答から、シリアの過去、現在、そして「難民問題」に対して、私たちがどう向き合えるのか、ヒントを探ろう。
①紛争前のシリアとは?
驚く人もいるかもしれないが、たった6年前、シリアは平和だった。首都ダマスカスはアラブ文化の中心都市として賑わい、地中海のビーチや広大な砂漠、6つの世界遺産を含む豊かな文化遺産をもつ同国は観光客に溢れ、活気に満ちていた。
海外からの観光収入は内戦が勃発する前年は63億円にのぼり、観光客数は850万人とオーストラリアすら大きく上回っていた。「難民」と呼ばれる前、シリアの人々にも、音楽やファッション、スポーツを楽しむ私たちと変わらない生活があったのだ。
②シリアで何が起こっているのでしょうか?
This is what remains of our childhood memories. – Bana #Aleppo pic.twitter.com/O7NjuxnAzP
— Bana Alabed (@AlabedBana) October 21, 2016
2011年の紛争勃発後、度重なる空爆などで価値ある文化遺跡や市街地は見る間に瓦礫と化し、観光収入は10億円にまで下落。当サイトにある動画や7歳のバナちゃんのツイートは、シリアの人々の平穏な生活が急激に崩れ去った様子を、リアルに伝えている。
シリア紛争は、平和的な抗議集会に端を発したが、現在はさまざまな党派や民族グループなどの要因が絡み合っており、解決への道は遠い。
破壊された古都アレッポ。 ※動画が見られない方はこちら
③難民とは?
ウェブサイトでは「紛争や迫害、暴力行為から逃れるために国を離れることを強いられた人」と定義している。
シリアの人々も暴力を逃れるため避難を余儀なくされたが、先述のとおり、シリアは経済的にも文化的にも発展した国だった。報道から得る「難民」のイメージに反し、人々の教育レベルは高い。アメリカに住む移民のデータに基づくと、アメリカに移民したシリア人では、アメリカに住むアメリカ人よりも多くの人が大学院を出ているのだ。
「難民」になったとはいえ、誰もが故郷では職をもち、その技術を活かして社会に貢献してきた。そして、もちろんそれは、異国でも発揮できる。
エンジニアのモジハド・アキルさんは、アレッポでデモに参加したことから、逮捕、拷問を受け、トルコに逃れた。難民となった彼は、コンピューター科学の知識を活かし、トルコで同じ境遇にある人の生活を助けるアプリを開発。難民の人の日常生活に必要なことをサポートするアプリは、広く利用されている。モジハドさんはこう語った。
言葉の壁がある異国では、母国でしていた些細なことも、突如難しくなる。このアプリは、トルコでの病院のかかり方、レンタカーの借り方、学校の入学のし方など、あらゆることを教えてくれるんだ。シリアはこれからも僕らの故郷だけど、新天地を新しい故郷のように感じることもできると思う。
※動画が見られない方はこちら
④シリア難民は、どこへ向かっているのでしょうか?
しかし、才能を活かして働くには、それをサポートする環境が必要だ。現在シリア難民の87%をトルコやレバノンなど近隣の5カ国が受け入れているが、外国に住まいを得ても、生活基盤を安定させるのは容易ではない。
紛争で夫を亡くし子供4人とレバノンに暮らすファディアさんは、看護師の資格を活かし、UNHCRのボランティアプログラムに参加している。希望もあるが、家賃や職、子どもたちの教育など、将来への不安もつきない。
ビルに住まいを確保できたことには感謝していますが、階段は暗く、電気は途切れ、子どもたちは1日1食しか食べられないこともあります。働きたくても、その機会もありません。
※動画が見られない方はこちら
だが、援助があればシリア難民は「故郷」と呼べる安全な場所を見つけることができるという。
⑤どうすればシリア難民を助けることができるのでしょうか?
それでは、私たちに何ができるのだろうか?ウェブサイトでは、「シェア」「寄付」「賛同」のへのリンクから、SNS を通じたページの拡散や、寄付、難民支援の署名などを提示している。
しかし、まず大切なのは「難民」の一言では伝わらない彼らの背景を知り、世界に貢献する意欲や、才能もある彼らの可能性を忘れないことだろう。
地球上で113人のうち1人は難民という、今の世界。彼らの未来は、私たちの未来でもある。同ウェブサイトから、難民が直面する苦悩や困難だけではなく、尊厳ある未来の担い手であることを感じてほしい。詳しくは「Searching for Syria(シリアを探して)」を。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。