フェアトレード、ダイレクトトレード、オーガニック、ベジタリアン、ビーガン、ゼロウェイスト、昆虫食、未来食…。東京の街に日々増えていく、お腹をただ満たすだけではない「思想の詰まった飲食店」。
「海外からビーガンの友達が日本に来ていて、ビーガンメニューのあるレストランを知りたい」、「サードウェーブの先を行くコーヒーが飲みたい」、「フードロスがないレストランに行きたい」、「無農薬野菜が食べたい」、「友達や恋人と健康にいい食事をしたい」などなど。そんなニーズに答える連載です。
「食べることはお腹を満たすだけじゃない。思想も一緒にいただきます」。その名も『TOKYO GOOD FOOD』。フーディーなBe inspired!編集部が東京で出会える、社会に、環境に、健康に、あなたに、兎に角「GOODなFOOD」を気まぐれでお届け!
WHERE IN TOKYO
第17回目の『TOKYO GOOD FOOD』は、昨年4月に銀座にオープンした「GINZA SIX」6Fにある、カフェ・カンパニーが手がけるフードホール「銀座大食堂」内のティーサロン「LUVOND TEA SALON」。お茶を通じて、地球の自然環境を守る夢まで描いているという噂を聞きつけて、ティーマイスターの伊藤 孝志(いとう たかし)さんにお話を聞いてきました。
WHAT’S GOOD
おすすめの一品は何ですか?
僕が好きなのは中国茶です。中国ではお茶が古来より薬として用いられていたこともあり、身体がメンテナンスされるんです。中国茶には水金亀(すいきんき)や肉桂(にっけい)など、一見似ているように感じるものが存在しますが、それぞれ違います。もちろん、それぞれの人の味の好みもあるけれど、これまで積み重ねられてきたお茶の歴史やその茶葉が採れる土地から、全てのものに違いがあるのです。
ちなみに一煎目と二煎目でも茶葉から出る要素や味が違うので、中国茶を飲むときは最後の最後まで飲みきることをおすすめします。価格だけを見ると高いと感じるかもしれませんが、何煎も淹れられるので、実は1杯あたりに換算するとコーヒー1杯分とそこまで違わない価格だったりします。
紅茶とソーダをあわせた「ティーソーダ」や、ロイヤルミルクティーのなかにオレンジを入れたものなど、紅茶をアレンジしたメニューも多いですよね。
それは「体に良いジャンクな飲み物」を自分が飲みたくて挑戦した結果なんです。
僕の家は食に対する教育が厳しく、清涼飲料水とか駄菓子とか一切禁止だったんです。小さい頃からずっとサッカーをやっていたのですが、「ああいうジュースを飲んだら、骨に良くない、下手になるよ」って脅されていました(笑)。
だから、自分で作るしかなかったんです。今みたいにインターネットも発達していなかったので、手軽に調べることもできなかったですし。
高校生の時に、友達の家族が始めたハワイアンカフェでアルバイトを始めました。そこでハワイアンなアイスティーを作ろうとアイスティーにフルーツを入れてみたり、コーラの作り方を参考にして紅茶をシロップとソーダで割ったてみたり…と試行錯誤したのが、今のメニューの原点ですね。
要は「健康な炭酸ジュースをどうやったら作ることができるか」という発想から生まれているわけですが、今も普段の生活の周りにあるもののなかに発案のヒントがあります。みんなの近くにあるもの、みんなが欲しいもの、好きなものを、体にいい素材と手法で自分で作る。最近は、お客さんやスタッフからもよく「可愛いものはまずい。インスタ映えするものはまずい」という声を聞きますが、可愛くて美味しくて体に負荷が少ないものがあったら最高じゃないですか。そういうもので勝負したいという気持ちが常にベースにありますね。
ちなみにティーソーダは、ある日、茶葉にお湯を注いだまま忘れてしまったことがあって、そのめちゃくちゃ渋くて苦いお茶を捨てるのがもったいないと思って。なんとか薄めて甘みを加えようとしたところから生まれました。失敗って何かのヒントだと思うんです。なぜそうなったのか、そこに原因が潜んでいるはずだから。それを解明できたら盛り返せるはずなんです。失敗の数が多ければ多いほど、未来で成功すると思っています。
CONCEPT & PHILOSOPHY
LUVONDという名前にはどんな意味があるのですか?
「LUVOND(ラボンド)」は「LOVE(愛) + BOND(絆)」の造語です。僕たち自身も、身につけている衣服も、目の前のお茶や道路だって、すべて、誰かの愛があって形になって生まれたものだと思うんです。無数の愛の連鎖と奇跡の重なりから、今、この瞬間が存在している。その愛のつながりに目を向けることができると、感謝の気持ちが湧いて、心が穏やかになり、まわりのすべてのもの、そして自分自身のことも大事にできると思います。お茶やお店が、そうした縁を結び、思いを繋げ、穏やかな幸せを感じる時間を紡ぎ出せたら…という願いをこめて名づけています。
世界に3,000体しかない貴重なもの。
茶葉はどこで作られているものなんですか?
日本茶は、京都・奈良・福岡・熊本・宮崎のものを扱っています。 LUVOND TEA SALONで出しているお茶は6年以上農薬が使われていない、通称「薬抜き」されている土地で採れたものをお出ししています。また、市販の肥料も使っていません。自分でちゃんと畑をみたり、育てるところから関わっているものじゃないと僕自身が飲みたくないので、知らないところで作られたものを売ってもらうのではなくて栽培の工程から自分も関わっています。
紅茶はインド、スリランカから買い付けていて、あとは中国茶ですね。海外の場合は、自分が作る工程に関わっているわけではないのですが信頼出来る友人から紹介されたお茶農園のもので、こちらも農薬や肥料を一切使っていない茶葉です。またほとんどのものが単一品種で、接ぎ木もしていません。つまり、もともとその大陸にあって、人の手があまり加わっていない“元祖”のようなお茶を揃えています。
僕は兵庫の山あいで育ちました。そこには畑があって、自分たちが食べる野菜なども育てていました。野菜ができていく工程や素材が本来持つ味を知っていたこともあって、外食した時に食べる野菜の味が薄いと感じたり、香りも違うことがよく分かっていたんです。お茶も同じように作られる過程によって味や香りが違うし、それがある種の”ランク”になる。海外から仕入れる場合、なかには、茶葉のブランド名を偽って騙すような売り手がいることも残念ながら事実です。ですがそこは、小さい頃から培ってきた味覚や嗅覚によって自分でしっかりと判別できる自信があります。それは親に感謝です。
CHANGE SOCIETY
去年はLA発・日本初出店のティーブランド「ALFRED TEA ROOM」のメニュー監修も手がけられたのですよね?
はい。日本に存在しているお茶って、「ちょっと堅い」「気軽に入りにくい」といった雰囲気があると思うんです。コーヒーであれば多店舗展開しているチェーン店もたくさんあって若い方々も立ち寄りやすいですが、お茶は距離が遠いのが現実です。
その「お茶=堅い、気軽に楽しみずらい」というところに新たな提案をするべく、カフェ・カンパニー株式会社が日本展開を手がけるロサンゼルス発のティーブランド「ALFRED TEA ROOM」のメニュー監修を行いました。「ALFRED TEA ROOM」はミレニアルピンクを基調としたデザインのお店でパッケージもとてもかわいいのですが、中身は厳選したこだわりの茶葉を使用した本格派。デザインは、お茶を遠く感じている若い方々へのコミュニケーションの入口。本質は、お茶の美味しさや奥行きを日常の中で感じてもらうことです。ALFRED TEA ROOMで楽しく美味しく気軽にお茶を楽しんでもらい、そこからお茶に興味を持ってもらえたら、その次のステップとして、LUVOND TEA SALONに来てもらったり、茶道を始めとしたさらに本質的なところを深めてもらえたらいいなと思っています。
今後の展望はありますか?
将来は、世界中で様々な人々が思い思いにお茶を楽しめるような、その土地にマッチしていて、その土地の人たちから求められるようなお茶のお店を作りたいと思っています。ただ、正直、”外側”、つまりブランドや見せ方へのこだわりはないんです。
それよりも僕のこだわりというか、一番目指していることは、中東圏など砂漠地帯に、超特大ソーラーシステムを屋根に備え付けた商業施設を建てることです。そこから太陽光と地熱を使って電気を起こし、その電気で施設の中のクーラーをかける。そうすると、外気温との差で水分が建物の壁にできます。その水分をすり鉢状に流して集めたところに浄水システムを設置する。浄化した水を屋外に散水して施設周辺を緑化するんです。野菜やお茶を育てられれば、商業施設のなかの飲食店で使う。すべてがそこで循環するようなシステムを、必ず作りたいと思っています。
壮大な夢ですね!
僕、人間は地球のシロアリだと思っているんですよ。地球に害しか与えない。
自然生態系をみると、チーターとかライオンも、お腹が空いていたとしても、今食べておかなきゃダメっていう必要最小限しか食べません。自然界はそうしてバランスが取れているのに、人間がぐちゃぐちゃにする。殺生して食べて、食べきれなければ捨てて粗末にしている。だから僕の概念のなかでは、人間は地球上にいらないんじゃないかと思っているんです。いつか天変地異で地殻変動が起きて、動物たちは生き残るけど、人間は殺される。そんなことも起きるんじゃないかと思っています。
お茶は、髪の毛と同じように、伸びた分だけ、必要最小限だけ、摘ませてもらうという感覚です。それでも、僕は自然のものを使ってお茶を栽培して、それをお金に替えているから、自然への敬意を払いたいと思いますし、僕たち人間が地球を壊している分、ちゃんと返さないといけないと思うんです。自然が壊れたら、僕たちは生きられないから。
伝統的なお茶から、“遊び心”を感じるアレンジされたお茶まで、無限とも思えるラインアップをもっている伊藤さん。お店に行くと、「今日はどんなものが飲みたい?どういう気分?」と、まるでカウンセリングをしてくれるかのようにお茶を出してくれる。そんな、驚きや穏やかさを届けてくれる一杯が、未来の地球を守る一歩にもなっているのはダブルでうれしい。カウンターの席で会話も楽しみながら、お茶を通じた地球の未来を一緒に夢想してみてはどうだろうか。
来週の『TOKYO GOOD FOOD』もお楽しみに!
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。