私たちが日常生活の中であらゆるもの対して知らず知らずのうちにかけている様々なフィルター。しかしそれは本当に「そのもの」に対してなのだろうか。自分自身の心にかけたフィルターで本当に大切なものまでぼやけてしまってはいないだろうか。
それは本当に画面の中だけ?
2016年12月、Instagramのユーザー数は全世界で6億人を突破した。(参照:Instagram)そして、その普及と比例するように高まる「SNS映えする華やかな自分を作りたい」という欲求を叶えてくれるのがBeautyPlusやSNOW、Snapchatをはじめとする「画像加工アプリ」だ。
しかし、もしあなたがそれらを駆使したくさんの「フィルター」を重ね、綺麗な肌や大きな目、細っそりした輪郭を手に入れることに集中するあまり、気付いたら何時間も経ったなんて経験があったらもしかしたらそれは病気かもしれない。
SNSによる自撮りが流行し、容姿への極度のこだわり、そして自己肯定感の低さから常に自分の容姿に対する不安で頭がいっぱいになってしまう10-20代の若者に急増している精神疾患「身体醜形障害」だ。(参照:infy)イギリスでは15歳の少年が「完璧な自撮り」を求めるあまり、1日に10時間以上も自撮りに費やす日々を送り学校を中退。そして半年かけても納得のいく自撮りができなかった彼はついに自殺を図った。幸いこの少年は母親に発見され一命は取り留めたものの、この「自撮り病」が自殺の原因となる事例が増えているのは事実である。(参照:independent)
「完璧な自分」を追い求めるあまりに幾重にも重ねられる画像加工アプリの「フィルター」はスマートフォンの画面の中だけでなく、いつの間にか自分の心をもぼかし、麻痺させてしまっているのだ。
アンチフィルターで人々の美しさを再定義
無駄なフィルターを一切加えない「天然ポートレート」で私たちの心に潜む「偏見」と言う名のフィルターと戦い、「その人がその人であること」の美を訴えるフォトグラファーがいる。
未だ世界中に根強く残る白、赤、黒、黄色といった人種と結びつけられる「肌の色」というフィルターを取っ払い、一人一人が持つ「その人の色」の美しさを教えてくれるのは、アンジェリカ・ダス。
様々な色の肌を持つ家族の中で育った彼女が幼い頃ぶつかったクレヨンの「はだいろ」という壁。私たち一人一人が持つそれぞれの「はだいろ」にフォーカスを当て、パントーンの色見本を用いたノンフィルターのポートレート「Humanae」は社会が決めた肌の色で人をカテゴライズする事の愚かさを気付かせてくれるだけでなく、決して外見だけで定義付ける事のできない「自分」というアイデンティティを考えるきっかけをくれる。
さらに、このプロジェクトは人類学や物理学、神経学などの学問の研究対象として用いられる他、アメリカで最も重要な政治雑誌「フォーリン・アフェアーズ」の表紙になるなど様々な角度から私たちの社会に影響を与えている。(参照元:TED)
「#nofilter」が教えてくれること
どんなフィルターも通さない「天然」の写真#nofilter。 華やかに加工された写真が並ぶSNSの世界でそのタグの付けられた写真に目を奪われるのは、ただ単に「綺麗」や「可愛い」といった形容詞で表される視覚的な感動ではなく、その人や景色の本来の美しさが私たちの心に何かを語りかけてくれているからではないだろうか。
私たちの生活の中に様々な形で存在するフィルターは不要なもの、有害なものを取り除き生活を豊かにしてくれる反面、私たちが本当に向き合うべき大切なものまで削ぎ落としてしまうこともある。
ありのままの姿で世界に飛び込んで行くのはとても勇気のいる事かもしれない。しかし、幾重にも重なる余計なフィルターを外し自分自身や目の前の人とnofilterで向き合い、互いの真の美しさに触れることで私たちの心はより豊かになっていくのではないだろうか。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。