炊き出しじゃなくて、必要なのはチャンスです。
これは、アメリカ、ボストンを拠点にホームレスと障がいを抱える人のために支援活動を10年以上続けてきたLiz Powers(リズ・パワーズ)がホームレスたちから繰り返し聞いた言葉。
2016年の時点でアメリカのホームレス人口はなんと56万5千人近く、非常に深刻な問題である。(参照元:2016 State of Homelessness)
年々増加し続けるホームレスに心を痛めたリズはボランティア現場での経験と、自身が芸術畑出身なのを活かし、アートを使ってホームレスをサポートするビジネスを思いつく。
誰も気づかなかったホームレスたちの傑出した才能
リズはソーシャルワーカーとしてアート・セラピーをホームレスや精神障がいを抱える人たちに行っていた。アート・セラピーはホームレスや精神障がいを抱える人にアートの授業を設けることで、人と接する機会を増やし、アートによる自己表現の場を提供するのが目的だった。しかし、様々な場所で活動を続けていくうちに彼女は多くのホームレスや精神障がいを抱える人が傑出した芸術の才能の持ち主だと知る。
すでにアメリカには1000以上の同じようなコミュニティが存在していたが、残念ながらそれまではセラピー用に作られたアートは捨てられてしまうか、倉庫でホコリをかぶるのがオチだ。そのことを知ったリズはこれまでにない、ホームレスと精神障がいを抱えた人の作品を売るアートプラットフォームを設立することを思いつく。
そして2013年に兄、Spencer Powers (スペンサー・パワーズ)と共にArtLiftingという会社を立ち上げた。
会社のモットーは“BUSINESS FOR GOOD”(良いことのためのビジネス)。全ての作品の利益の55%はアーティスト(ホームレス/精神障がい者)の元に届け、1%はArtLiftingをサポートしてくれている会社へ、残りの44%はビジネスの存続と拡大のために利用している。
2013年にボストンの地元のアーティスト4人から始めたこのビジネスも、今では国内中に110人以上のアーティストを抱えている。
アートで自立する喜び
ホームレスでなくともアートで成功するのは難しい。ArtLiftingは眼鏡会社やスキーの会社、またスターバックスなどと提携することでコラボレーションワークを実現し、多くの人にその存在を知らしめた。ウェブサイト上で作品と共にアーティストの人生のストーリーも読めるようになっており、彼らの作品を購入すれば素晴らしいアートを楽しめるだけでなく、恵まれない環境に身を置くアーティストを支援していると実感できるため、購入者の満足度も高いそうだ。
また重要なのは、アーティストたちにとっては自分のアートを売ることが自信や威厳に繋がるため、自立にとても良い影響があること。たとえアートの収入だけで生計が立てられないとしても、これまで社会に無視されてきた彼らは作品を好いてくれる人の存在によって「人に認められた」と感じれるため、就職活動へもポジティブになり、人生への態度が著しく変わるのだ。
スコット・ベナー氏作
ArtLiftingの素晴らしさは、ホームレスや精神障がいを抱える人々にアートを通してスポットライトを当てたところ。もちろん、死活問題に関わる炊き出しは非常に重要である。だが同時に恵まれていない環境にいる人々が必要としていたのは、「社会に認識される」ことだった。当人の自立を考えると、一時的なサポートも大事だが、自分で「変わりたい」と心境に変化を生むきっかけ作りは非常にサステイナブルな手助けである。ArtLiftingの活動を通してそれを手に入れた人々は新しい人生をやり直しはじめている。
人にはそれぞれ事情がある。みんながみんな恵まれているわけではない。それでも全ての人間がスポットライトを浴びるべきだと、そんなことに少しでも多くの人が気がつけば、より多くの人が「幸せな生活」を送れるのではないだろうか。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。