日本やアメリカをはじめ、先進国での少子高齢化や格差社会問題は、目立った解決策もないままズルズルと悪化しているようだ…。そんな中、全米一非営利団体が多いと言われる街、オレゴン州ポートランドで、貧しさや孤独を抱える人たちが家族のようにつながる、希望に満ちた「新しいたな家族の形」を発見した。画期的な少子高齢化や格差社会問題の打開策となりうるのでは。
私たちの周りで進行している少子高齢、格差社会
日本人の私たちが直面している少子高齢化、格差社会の問題。その原因が、アメリカ型の経済効率至上主義を取ってきたからだという説もあるように、アメリカは、先進国の中で一番の格差社会国だ。かつてはアメリカの大半を占めていた中間所得層は、全体の半分以下となり、二極化が進んでいる。移民や人種問題に加え、離婚率も高く、貧しい子供やシングルペアレンツ、子供に頼れない高齢者など、社会的弱者の数が増え続けている。実際、20%の子供が貧困線以下の生活を送り、65歳以上の約15%が貧困生活を送っているという。(参照元:NCCP)
そんな格差社会に頭を悩ますアメリカで、「大きな家族」をコンセプトに掲げ、「ブリッジ・ミドウズ」というNPOが立ち上がった。彼らは5年前、ポートランド市内の約12000平米(4エーカー)の土地に「ブリッジ・ミドウズ・ノースポートランド・ユニット」という住居施設をオープン。そこに暮らしているのは、3歳から18歳までの29人の子供たち(うち25人が養護施設出身)、養子縁組をした9人のシングルマザー、30人の低所得のシニアだ。(参照元:KFF)
シニアには、安い家賃で暮らせる代わりに、子供たちの面倒を見るというボランティアが義務付けられている。この「義務」があることで、必然的に住人たちは深い交流を持つことになる。一緒に公園に出かけたり、宿題を見てもらったり、料理や食事を共にしたり…。日常の繰り返しの中で、シニアと子供たち、また母親たちが、互いを知り、身近な存在として絆を深めていくのだ。
愛情のもたらす効果
子供たちには、安定した生活環境に身を置き、身近な人々からの愛情を受けることで、健やかな成長が期待されている。ブリッジ・ミドウズに住む前は、生活能力のない両親の元で暮らしたり、親戚や養護施設をたらい回しにされたりする中で、まともに勉強することや、友達と遊んだりすることができなかった子供たちも、たくさんのおじいちゃん、おばあちゃん、おじさん、おばさんが見守る中、本来の子供らしさを取り戻していくそうだ。実際、ノースポートランド・ユニットに暮らす子供たち全員が、毎日学校に通い、うち85%の生徒の成績が上がったという。
また、シングルマザーたちも周りに頼れる人ができたことで、仕事で家を空けることへの不安や罪悪感も減り、自信を持って子育てができるようになったという。望んで、と言うよりも、やむない事情で二人の姪っ子を引き取ることになったシングルマザーや、親の薬物中毒、育児放棄が原因で、急に別の町に住む孫たちを養育することになった女性は、これまで一人で子育ての重責を抱え込んでいたが、ここに来て、たくさんの人が親身になって手を貸してくれ、自分はもちろん子供たちのためにも本当に良かったと語っている。
さらに、シニアたちも若い世代との交流を通して、生きがいを感じているという。仕事を失い、頼れる家族もなく、いわゆる「下流老人」に陥る不安に悩んでいた入居者は、安定した住居を得ると同時に、彼らを頼りにする大勢の孫や子、また、友人たちに囲まれ、新たな喜びを見つけているそうだ。
もちろん、周りの干渉をうざったく思ったり、トラウマを抱える子どもの態度に悩んでしまう人もいるだろう。慣れてワガママを言う子に腹がたつことがあるかもしれない。でも、そんな近しいからこその甘えも含めて受け入れ、「家族」として暮らせるならば、ここはまさに理想的なコミュニティだ。
そこにいるだけで愛される「家族」の一員
他人同士が、大きな一つの家族のように助け合う仕組みを作ることで、「独り」だった人たちが、自分の居場所を見つけ、「理想の家族」のように暮らすコミュニティがあれば、日本の少子化や下流老人問題に歯止めをかけられるかもしれない。共働きの夫婦も、幼稚園や職場復帰後の心配がなくなれば、出産に踏み切りやすいだろう。
このモデルを適用したいという問い合わせは、国内を中心に海外からも頻繁にあるそうだ。シングルペアレンツや子供たち、また孤立にしていた高齢者。そんな社会的弱者として扱われがちな彼らに安定した住まい、頼れる人、そしてなによりも「生きがい」を与えているブリッジ・ミドウズのような場所が日本にも現れてくれるのだろうか。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。