NEUT Magazineが企画し、アーティストにフォトグラファーの室岡小百合(むろおか さゆり)を招き、正式オープンを5月に控えるコミュニティスペースMaruyama Sta.(以下、Sta.)で行われた展示「JUNCTION——分岐展——」。
3月20日から24日までの5日間で、室岡が分岐点をテーマに写真を撮りコラージュした作品と、彼女がコペンハーゲンで同テーマを軸に制作した映像作品を、約200人の来場者が見つめた。
開催期間が卒業シーズンかつ分岐点をテーマにしたことの二点が相まって、訪れた人々の状況や心境とも重なったであろうこの展示の様子を、20日に行われたレセプションのレポートと共にお伝えする。
「Stay Soft」「Bicultural」「Come out」「Borderless」。切り取られた4つの信念
今回展示されたのは、複数枚の写真を元に作られたフォトモンタージュと、コペンハーゲンの街並みを背景にモノローグが語りかけてくる映像作品。ともに分岐点をテーマに制作された。映像作品は、室岡が3月から拠点を移したコペンハーゲンで撮影・制作されたもの。
フォトモンタージュに関しては、被写体それぞれが、それぞれの分岐点を迎えたあとに大切にしている信念、「Stay Soft」「Bicultural」「Come out」「Borderless」を軸に構成されている。
4つの言葉に込められた思いは以下にまとめて記載する(デザイナーRuna Takeuchiによるポスターバージョン)。
①被写体の名前 ②キーワード ③キーワードの日本語の意味 ④由来
①ako
②Stay Soft
③優しくいること/穏やかでいること
④日本にタトゥーへの偏見があることを知ってもなお、タトゥーをいれることを決めたのがakoの分岐点。初めて彫った言葉が「Stay Soft」。タトゥーがあることで偏見にされされても、このスタンスで生きていこうと決めているという。
①yusafu
②Bicultural
③二つ文化の/二文化併存
④サウジアラビアで生まれ育ったあと日本に来たのがyusafuの分岐点。サウジアラビアと日本。全く文化も風土も異なる土地で過ごす経験が、彼のアイデンティティを形作っている。「Bicultural」は、そんな彼の内面が表現された一言だ。
①カナイフユキ
②Come out
③告白/公表
④ZINEを作り始めたのがカナイフユキの分岐点。自身のセクシュアルマイノリティとしての経験を題材にしたZINEの創作を通して、自分の想いを述べること/声をあげること=カミングアウトの重要性を感じるようになった彼の想いが、「Come out」という言葉に表れている。
①TITAN MAN
②Borderless
③国境のない/境界のない
④音楽ユニットDos Monosでの活動で国内外の話題をさらったのがTAITAN MANの分岐点。日本でも海外でも関係なく活動していきたい、そして音楽に限らずやりたいことを絞らないという彼のスタンスが、「Borderless」という言葉に集約されている。
渋谷のど真ん中に“秘密基地”が誕生
天候は晴れ。桜前線がまもなくという初春の夜に行われたレセプションには約60人が訪れた。
今回のイベント、まずはなんといっても会場となったSta.独特の雰囲気、というか廃墟な様子におっかなびっくりな来場者が多く見られた。
5月18日に正式オープンを控え、まだ未完成なSta.。急勾配の階段を登ると現れる配線やコンクリートがむき出しになっているグレーな空間は、一見すると寂れた雰囲気を漂わせている。しかし他にないこの雰囲気を求めて、現在、ミュージックビデオの撮影やTV番組の収録、ファッションブランドのルックブックの撮影などに使われているという。
1階は今回の展示でもお世話になったギャラリースペース。2階はバー。3階はコワーキングスペース兼レストランとして稼働する予定なのだとか。近日中に本格的な施工が入るというから、今だけの廃墟な雰囲気はそろそろ見納めになるらしい。
Sta.でたびたび行われているイベント情報などはこちらからチェックできるので、なにかしらのアイデアがある方は、彼らのウェブサイトから連絡を取ってみてはどうだろうか。
maco maretsによるスペシャルライブとサプライズ
そんな唯一ここにしかないの空間で、無二のパフォーマンスを披露してくれたのが、スペシャルゲストのアーティストmaco marets(マコマレッツ)。新感覚のチル・アウト・ヒップホップ知られる彼のパフォーマンスは、詰めかけた来場者を心地いいリズムで包み、会場をゆるやかなムードで満たしてくれた。
彼は4月28日に自身が主催するイベントWoodlands Circle Club : 2を中目黒のクラブsolfaで開催する。当日はNEUT Magazineも出店する予定なので、ぜひ足を運んでもらえたらと思う。
ライブ終了後には、レセプション翌日の21日に21歳の誕生日を迎えた室岡へのサプライズも。16歳からフォトグラファーとしてファッションの世界で活躍し、今後はビデオグラファーほか、表現者としての道を模索するという彼女は、いまコペンハーゲンに拠点を移して制作活動に集中している。
その動向から目を離させてくれない彼女は、これからもさまざまな話題を海の向こうから私たちに届けてくれるだろう。
NEUT、室岡、Sta.、そして122人の分岐点
レセプションの翌日、快晴に恵まれた21日から本格的にスタートした展示だが、そのテーマが“分岐点”ということで、来場者の分岐点をポストイットに募ってみたところ、最終日までに122人の分岐点が一覧できるまでに。
卒業シーズンということもあり、まさに分岐点を迎えている学生が初々しい様子で筆を進める横で、社会人として日々を重ねてきた大人たちも懐かしそうな顔で筆を手にとってくれた。
余談だが、NEUT Magazineはいまリニューアルして1年目の日々を慌ただしく過ごしており、室岡は拠点をコペンハーゲンに移したばかりでこちらも忙しない毎日を送っていて、Sta.は来月のオープンに向けて急ピッチで体制を整えている最中…と、偶然にもそれぞれがぞれぞれの分岐点を迎えて歩き始めたばかりの状況。
そんななか今回の展示が行われたことに、なにか運命的なものを感じないと言ったら嘘になるし、Sta.が「あなたを次へ運ぶ場」というコンセプトを持っていることは、ちょっと出来すぎな気がしないでもない。
この展示の準備で室岡が繰り返し語っていたのが、「誰かが分岐点を前にした時に、自分らしい一歩を踏み出すきっかけにこの展示がなれたらいいね」という言葉だった。
なれただろうか? そうであれば嬉しい。
それではまた、次の分岐点でお会いしましょう。
室岡小百合
1998年3月21日横浜市生まれ。2017年クマ財団第1期生選抜。 16歳よりABC MARTの広告撮影やi-Dに取り上げられ、ファッション媒体を中心にフォトグラファーとして活動。現在青山学院大学在学中。2019年2月よりコペンハーゲンに拠点を移し、作品制作に精力を注いでいる。
Maruyama Sta.
仕事も、遊びも、なにもかも。
おいしい「食」がそばにあれば、
すべてがはかどるようになる。
レストラン付き、まちの秘密基地です。
人も、コミュニティも、
全てがフラットに行き交う場所へ。
5月本オープンに向けて準備中です。
2019/5/18(sat) OPEN
11:00 A.M. – 11:30 P.M.
(DINNER 6:00 P.M. – 11:30 P.M. / L.O. 11:00 P.M.)
本記事に掲載された写真に写られている方でご自身の写真を使用されたくない方は、大変お手数をおかけいたしますが、以下のアドレスまでその旨をご連絡ください。contact@neut.tokyo