ホームレスの家と聞いてどんなものが思い浮かべるだろうか。日本なら“汚れた”新聞紙や段ボール、レジャーシートで構成された仮設シェルターではないか?そんな「汚いイメージ」がつきまとうホームレスの家を、クリエイティブなデザインで覆した建築家がロサンゼルスに存在する。彼女の名はティナ・ホセイピアン。意外にもその家のデザインのヒントは、日本の伝統的な造形文化「おりがみ」だ。
「おりがみ・インスパイア」のホームレス・シェルター
ティナがデザインしたおりがみにインスパイアされた段ボール製のホームレスの家がこちら。
段ボール(カードボード)製のおりがみという意味を込め、「カーボーリガミ」と名付けられたこのシェルター。一時的な住まいなのにも関わらず、現代アートのような先駆的なデザインで、自分で色を塗ったり絵を描いたりカスタマイズすることもできるのだ。カーボーリガミを見ていると、ホームレスになることは「クリエイティブな生き方」の一つだと思わされるくらいだ。
カーボーリガミは、家を持てない人たちに安全でプライベートな寝所を確保するだけでなく、おりがみのようにすぐ折りたたんだり、広げることもできるようになっているのが特徴で、これを寝所の必要な人に渡すだけで済むという。天候の関係などで移動せざるをえないときに便利なのだ。段ボール製であるカーボーリガミだが、ビニール製のテントと比べて風の影響を受けにくく形を保ちやすい構造となっており、ホームレスに配布されるものには水や火に強い加工が施されている。そして段ボール素材からは毒素が発生しないため、いらなくなればリサイクルも可能。(参照元:Women in the World, NEW ATLAS)ホームレスの仮の住まいの一部として思い浮かべられる段ボールは、実際にシェルターとして使いやすい素材だったのだ。
一時的な支援では終わらない「カーボーリガミ」
ホームレスの人々に一時的な住まい「カーボーリガミ」を提供することはこのプロジェクトの入り口に過ぎないとティナは語る。彼女たちはホームレスの人々に永久的な住まいに移り住むことや、仕事につくことまでも支援しているのだ。そのなかでも特に力を入れているのが若者に向けた支援活動。
例えば、ホームレス状態にあるセクシャルマイノリティの若者を対象にカーボーリガミの有給の短期インターンシップ生を募集し、就業経験の機会を提供している。また、ホームレスだけではなく、2015年のネパール地震など世界で自然災害で家を失った人々に向け、シェルターをはじめ、ワイヤレスネットワークや衣類、学用品の配布も行なっている。このような支援が可能な背景には、トヨタ自動車やオーガニックスーパーのホールフーズマーケットなどの企業や一般の人々からの募金による協力もある。(参照元:Women in the World, Cardborigami)
※動画が見られない方はこちら
デザインがホームレスを救う
日本では2016年に人口約1億3000万人に対して約6,200人、(参照元:総務省統計局, 厚生労働省)アメリカはさらに深刻で2015年に人口約3億2000万人に対し、約565,000人(参照元:US News, National Aliance to END HOMELESSNESS)がホームレス状態にあったのだ。特にティナの生まれ育ったロサンゼルスは、全米でもホームレスの数が多く、彼女がカーボーリガミのプロジェクトを始めたきっかけにもなっているほど。
人はどうしてホームレスになってしまうのだろうか。日本を例にすれば、そのパターンは大きくわけて2つあり、何らかの理由で失業して家賃が払えなくなり頼れるところがなかったパターンと、障がいや虐待、いじめなどの問題を抱えながら家族などのもとで暮らしていたが何らかの理由で家をなくしてしまったパターンがある。(参照元:TENOHASHI)なかには「ホームレスは文化だ」と考え、自分で選んでホームレスになったアーティストの小川てつオのような人も存在する(参照元:ホームレス文化)が、多くのホームレスは他の選択肢がなかったためにホームレス生活を送らざるをえなくなっている。
また、さらに大きい問題は世間からの根強い「偏見」の眼差しだ。「汚い」や「怠けている」などの否定的なイメージが一般的にあるが、想像がつくように路上では体を清潔にする環境が整っていない。そして怠けているというイメージに関しては、日本のホームレスの7割が何らかの仕事をしていることから、私たちが実情を知らないだけなのだ。(参照元:NPO法人Homedoor)
クールなデザインを施されたカーボーリガミが、生活保護や就業支援と異なる「偏見」という難題を払拭し、ホームレスが生きやすい社会を切り開いてくれることに期待したい。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。