「うちの旦那は育児に全然参加してくれなくて…」これはよくある主婦の愚痴ナンバーワンに挙げられる不満であろう。確かに日本の子持ち男性の、家事・家族ケアに当てる時間は先進国の中でも最下位だ。しかし、この不満をすべて旦那さんにぶつけていいわけではない。
日本の家庭にない「余裕」
国際社会調査プログラムが先進38ヶ国に実施した「家族と性役割に関する意識調査」において、日本の男性が育児や家事に参加する割合は、18.3%で最下位であった。(参照元:Newsweek)上位に名を連ねた、スウェーデンやデンマークといった北欧の国の参加率約50パーセントとは対照的だ。ただ、この結果をすべて男性のせいにしてはならない。そもそも、日本には女性にとっても男性にとっても、育児に余裕を持てるような制度が整っていないのである。
まず挙げられるのは、教育費の問題だ。OECD加盟国34カ国中、日本の教育機関への公的支出の割合は、ワースト1位。(OECD調べ)さらに国際社会調査プログラムが行った別の調査では、「就学前の子どもの世話はまず誰がするべきか」という設問において、男性の育児参加率が高いスウェーデンやデンマークといった欧米諸国の90パーセント近くが「政府」と答えているのに対し、日本では75パーセントもの人が「家庭」だと答えているのだ。(参照元:Newsweek)このことからも分かるように日本ではまだまだ育児=家庭で行うものという風習がある。すべてを抱えなければならない日本では育児にゆとりがなくなってしまうことは当然だ。
“パパ”が集まってつくる「クレヨン」
しかし、もし育児に余裕が生まれたら。特に父親の育児参加が増えるとこんな素敵なことが起こるようだ。例えばアメリカでは古いクレヨンを新しく生まれ変わらせて寄付をするアイデアが、パパによって生まれた。
アメリカでは、レストランで子ども誕生日を祝う際に紙のテーブルクロスなどにクレヨンで絵を描くことができるちょっとしたサービスがある。その時にクレヨンが各テーブルに与えられるのだが、このクレヨンはお客さんが帰ったら捨てられてしまうそうだ。そこに目をつけたのが、どこにでもいる“普通のパパ”。せっかくの新品のクレヨンがすぐにゴミ箱行きになってしまうことをもったいないと感じ、そのクレヨンを集めた。そしてそれらを溶かして固め、新しいクレヨンに生まれ変わらせて、教材の足りない学校などに寄付をすることにしたのだ。
今ではウェブサイト『The Crayon Initiative』やSNSを通して家庭や学校などからも多くのクレヨンが集まり、活動の幅を広げている。そしてそこに参加をしているのは多くの“パパ”たちなのだ。パパたちが育児に積極的に参加をし、その上で生まれたプラスαの行動なのだ。
パパのためのネイル講座、参加費0円
さらにパパ発のこんなアイデアも。父親との付き合い方はまた母親とは違って距離感をとるのが難しい。それが父親と娘という関係であると尚更だ。そんな両者の間にきっかけを作るべく生み出されたアイデアが“パパのためのネイルアート講座”。
実はこれ、シングルファザーであるフィリップさんによって編み出されたもので、女の子が身に付けたいスキルを「父親が学んで教えられれば」との想いから始められた。フィリップさん自身も娘とどう接していくか悩んだ一人なのだが、その時に娘の髪の毛をかわいらしく結んだところ、とても喜んでくれたという。
そして年頃になりゆく娘たちのハートをつかむ方法を他のパパにも伝授したいと考え、今回その発展系としてネイルアート講座の開講に踏み切ったそうだ。もちろん娘たちとの接し方に悩む“同士”たちが集まるので、この講座は無料。公民館や大学を借りて行われる講座には毎回多くのパパたちが集まっている。
参加者の一人はネイルアート講座についてこう話す。
父子の結束力はとても大切さ。同じように感じている父親も多いと思うし、そういった機会が見つけられて最高だよ。(引用元:Daddy Daughter Hair Factory)
フィリップさん自身も娘の世代のため、世界をもっと良くしたいと思ってこのレッスンをやっていると言い、その想いがモチベーションに繋がっているそうだ。ごつい手つきで小さい爪にやすりをかけ、アートを施していく様子からは父が娘を想う気持ちがひしひしと伝わる。
「適切」な制度が生む、「クリエイティブ」な発想
このような海外の例を目の当たりにし、日本に置き換えてみたときに同じようなアイデアが“普通のパパ”から飛び出してくるかと言われれば疑問である。時間や心の余裕が育児にプラスαのアイデアを生み出し、その結果育児が楽しくなる。だが、その余白が日本に充分にあるとは言い難い。
父親が育児に参加することで得られる効果は膨大だ。実は母親と父親が子どもに与える影響は違い、息子は父親に自分を重ね合わせることによって理性で感情を抑えることを学び、娘は父親を見て男が何であるかを理解するようになるそうだ。そうして子どもたちは、自分の外見がどう見えるかよりも自分の心がどうあるか、自分自身の中身を大切にするようになるという説もある。(参照元:頑張る父子家庭 支援・応援ブログ)
冷静に目を向けてみると、日本にも「やれるものならやりたい」と思っているパパたちも多いはずだ。母親の育児負担ばかりに目がいきがちであるが、父親が育児に参加できるような環境整備を国レベルで進んでやっていかなければならないのではないのだろうか。育児に参加しない父親を責めるだけではなく、育児に参加“させない”この国の制度を今一度見つめ直す必要もあるのかもしれない。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。