現在6歳の息子の子育てをしているアーティスト草野絵美(くさの えみ)が、多方面で頭角を現した2000年代生まれのティーンエイジャーに、「自分の好きなことをどう見つけて、それをどのようにして突き詰めたのか」のストーリーを聞いていく連載 草野絵美とスーパーティーンの「わかってくれない親の口説き方講座」。第二回目の今回は、2001年生まれで現在17歳の甲田まひる(こうだ まひる)さんと対談した。
甲田まひるさんは、ファッショニスタ、ジャズピアニストの二つの顔で知られる2001年生まれの17歳。小学6年生のときに始めたインスタグラムがきっかけでファッショニスタとして注目を浴び、東京コレクションのフロントロウに招待される。ジャズピアニストとしては2018年5月にメジャーデビューした。
草野絵美さんは90年生まれ、80年代育ちで歌謡エレクトロユニット「Satelite Young(サテライトヤング)主宰・ボーカルで、現在2012年生まれの息子を子育て中。自身が10代の頃は、国内外で多様なカルチャーに触れ、ファッションフォトグラファーとして活動していた。
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ジャズピアニストが軸のファッショニスタ
草野絵美(以下、絵美):まひるちゃんはファッショニスタ、そしてジャズピアニスト、最近では俳優としても活躍されていますね。幼い頃は何になりたかったんですか?
甲田まひる(以下、まひる):もともとはイラストレーターになりたくて、5、6歳までコレクションを全部デッサンしたりってことをずっとやっててファッション画をノートに溜め込みまくって、雑誌を作ったりしてました。でも5歳でピアノを始めて、8歳のときに教わっていた先生がアレンジの上手な方でクラシックの名曲をジャズとかラテン風に弾かせてくれたことがきっかけで段々とジャズにハマって、そこからはもう音楽しかやりたくないってなって。
絵美:ジャズとの出会いが運命を変えたんですね。
まひる:そうですね。ピアノの発表会ってドレスとかを着るじゃないですか。そういう場でおしゃれすれば、音楽とファッションっていうやりたいことが同時にできる。音楽が常に一番にあったので、特にファッションの仕事をしようとは思っていなかったです。ステージで衣装も含めたパフォーマンスがしたいっていうのはずっとあって、服って常に着ているものだし、将来ジャズ弾きながらおしゃれにしていればいいかなっていう。なのでインスタは、たまたまファッションの仕事につながっただけなんです。
絵美:そうなんですね。物心ついた頃とか小学校の頃から変わらないマインドや、印象に残っているエピソードってありますか?
まひる:マインドは特に変わってないんですけど、ラブベリ*1っていうゲームがあったんですよ。
絵美:女の子のムシキングみたいなやつだよね。
まひる:そうそう、ショッピングモールとかでムシキングと並んであるゲームで。それにハマってて、それで結構おしゃれにハマって。着せ替えする服のジャンルが可愛い系とかクール系とかにわかれてて、その雰囲気に合ったコーディネートをしなきゃ得点が高くならなかったんです。そこでちょっと服の組み合わせを勉強して、そういう記憶しかない(笑)。それがダンスとファッションが一緒になってるゲームだったことも、ファッションと音楽がともにある世界に憧れを持つようになったことに影響しているかもですね。
絵美:その頃はどんな服を着ていたんですか?
まひる:幼稚園の頃からピアス開けたいとか髪染めたいとか言ってて、お母さんももともとタトゥー入ってたりとかピアス開いてたりするので、そういうのが当たり前にあって。常にまわりの人とかぶらないために新しいものが着たいから、街のお姉さんがどんな格好してるかを雑誌で見て、そういう服を探すんですけど、サイズがまだないから諦めて。古着だと着られるものが見つかりやすかったので、それで自然と古着で探すようになって好きになったりとか。
絵美:それが小学生の頃?
まひる:そうですね。
絵美:そうなんだ。原宿とか行ってました?
まひる:行ってました。多分小4とか小5の頃に原宿文化みたいなのに憧れて。インスタでお店を調べて、スナップを撮られたいみたいな思いで原宿に通い始めたのは小6のときです。その頃はちょうど古着とかの流行り始めで私も着てて、『装苑』を読み始めてました。
(*1)ショッピングセンターやゲームセンターなどで2004年から2008年にかけて稼働していた、少女向けのトレーディングカードを使ったアーケードゲーム「オシャレ魔女 ラブ&ベリー」。ファッションのコーディネートとダンスゲームで得点を競う。小学校低学年の少女を中心にブームが起きた。
インスタで世界が開けていった
絵美:インスタがきっかけでまひるちゃんのファッションが注目されるようになったと思うのですが、SNSを使うとすごく世界が開ける感じがしますよね。
まひる:インスタはやっぱすごい。
絵美:全然世代が違うから小学校のときにインスタはなかったけど、でもなんかストリートスナップのサイトとかずっとみてたし。好きなものや憧れているものがあったとしても、子どものうちから学校の外に世界を作るっていうのはなかなか難しいと思うけど、それを自ら広げようって思ってインスタを始めたんですか?
まひる:もともとお兄ちゃんの同級生とか年上の友達が多くて、そのお姉さんたちと遊んでいるときにその人たちは結構インスタ始めてて、「やってみなよ」って言われて適当に登録してもらって始めたんです。特にそういうの怖いとか思ってなかったから、顔とか服とか今まで描いてた絵をバンバンあげて、それに反応もらえることがすごい楽しくて、同じ趣味の人とか見つけて仲良くなったりとか。四六時中インスタを見て自分のファッションの参考にしてたので、やっぱり世界が広がったっていうのはありますね。
絵美:学校の友達とは話が合ったんですか?
まひる:逆にお笑いの話でずっと盛り上がってましたね、基本。小学生の頃からほんとに男の子としか一緒にいなかったので。真似されるのが本当に嫌いだったんですが、男の子はすぐお揃いのもの持ちたがったりしないし、楽だし。知らないうちにクラスメイトとかに影響を与えていることがあって、自分の好きなものの話をシェアすることに興味がなかったので、音楽とかファッションの話をしようとも思わないし、それに対して話が合ったらいいのにと思いませんでしたね。
絵美:確かに小学校高学年とか中学くらいのときって女の子が結構すぐ真似するんですよね。でも今、ファンの子とかが真似してても別に大丈夫?
まひる:まあそれは別かなって感じで(笑)。なんか身近な人がすごい影響受けるのって友達間であるじゃないですか。制服のちょっとした着崩しとか、すごい同じようにされたりとか。
絵美:確かに。マッピーワナビーが学校に溢れてたんだね(笑)。
まひる:身近なところで影響受けあうっていうよりは自分でディグっていくのが楽しいのにって思っちゃうんですよね。
絵美:でもすごく重要なマインドだと思います。なかなかそれに気づかないまま大人になってしまう人もいるからすごい大事ですね。私も同級生と家で見るものとか聴いてる音楽が違うっていうのを意識し始めたら、もうなんか「みんなと一緒にはなりたくないな」と思うようになりましたね。
まひる:影響を受けあう時点でみんなとかぶるわけじゃないですか。それをただただ自分はやりたくないなって。
絵美:ある種ファッションを発信するっていう行為があったからこそ、社会とつながっていったんですね。インスタで友達を作ったりもしてた?
まひる:結構交流してましたね。最初の方は知らない人と会ったりしてました。女の子とかみんなで。原宿好きな子と会ったりとか。
絵美:そういうのってジャズピアノの練習には影響はなかった?
まひる:途中でインスタを始めちゃったから、ファッションの仕事で忙しくなって練習の時間の配分が減ってしまったんですよ。それでジャズに力が入らないこともあったんですが、ファッションの仕事をしてたからこそジャズの方も知ってくれていたり、興味を持っていただけることもありました。ファッションの仕事の影響がすごくあって、音楽に。だからそれも大事だったなあと思って。
親と「親友」になることが近道に
絵美:小学生のときでも一人で原宿に行くのを許されてたっていうのもそうだけど、親御さんが自由にさせてくれたっていうのは結構大きいですよね。お母さんは、まひるちゃんのやりたいことに対してどんな反応をしてた?
まひる:昔から二人三脚みたいな感じなんですよ。やりたいと思ったことは全部やらせてくれるし、一緒に頑張ってる感じなので。その都度反応というよりは、一人で計画的にやっていくことが本当に苦手なのでそういう面ではアドバイスくれたりとか、すごく応援してくれますね、いつも。ジャズに興味を持ったときには図書館で名盤を借りてきてくれて、片っ端から一緒に聴いて勉強しました。
絵美:お母さんとは毎日会ってるんですか?
まひる:はい、いつも家で。お母さんと真夜中から4時とかまでしゃべったりして、ずっとそんな感じですね。常にしゃべってて、一緒に動画見たりとか買い物行ったりとか友達みたいなんです。
絵美:すごく仲がよさそうですね。本当に何も反対されたことはない?
まひる:ないですね。幼稚園のときからピアス開けたくて、小学校のときにお母さんが中学で開けるとまずいから開けるんだったら小学生のうちじゃないって言ってくれたんです。あとすごいギャルっぽい服にハマった時期があって。そういうのも全然お母さんは趣味じゃないんですけど、買って着せてくれたりとか。
絵美:ちゃんと自分とまひるちゃんを別の人間ととらえて接しているということですね。客観的に見たらそれは普通かもしれないけど、そんなに簡単じゃないはず。
まひる:聞かないだけですよ、何言っても聞かないからあげるしかない(笑)。でも確かにそれを自分もできるかって聞かれたら、ちょっと難しいと思う。
絵美:お母さんから受けている影響ってありますか?
まひる:もともと母がネパールやインドをずっとバックパックで旅していた人で、どちらかというと古いものとかが好きで、古着も着てて。幼いお兄ちゃんと手をつなぎながら旅をずっとしてたので、すごく思考が自由でした。本当に自由な環境だったので、なおさら「人と違うことが当たり前」っていう考えになったと思います。
絵美:素晴らしいですね。うちの息子も、保育園で「髪青いママがいるの僕だけだから」って言っているみたいで、最近は「髪を緑にしたい」って。
まひる:やっぱりそういう人の近くにいると、自然とそういう偏見とか境がないですよね。すごくいい環境だと思う。
絵美:でもなんか、お母さんとすごく話し合える関係だからこそ自由にできたっていうのはありますよね。絶対お母さんに言ってもわかってくれない人は…
まひる:それはね、結構きついと思う。
絵美:「これをやりたい」って思ったときは、まずママに相談?
まひる:そうですね、だいたいしますね。可能性があるかもしれないものを親が最初から否定しちゃったりするのが一番もったいない。
絵美:親と親友になるのも、自分の夢の実現に大切かもしれないですね。
まひる:大切。なかなか理解されなくても、わかってもらえるまで訴え続ければ絶対に伝わると思う。
嫌いになったら嫌いになったでいい
絵美:まひるちゃんはいろんな分野で活躍されてるっていう印象があるんですけど、やっぱりジャズが中心でありながら、いろんなことをやりたくなってしまうような葛藤はありますか?
まひる:ほかにできることがないっていうのがあって(笑)。勉強もできないし、もともと好きなこと以外が入らないので、何やっても入らなくて。でも音楽やったら楽しかったから音楽突き詰めたいなってなって。あと英語がすごく好きですが、今のところやりたいことが多すぎることはなくて、それは多分私の場合は向いてることが少なかったからだと思います。
絵美:ファッションモデルを目指したことはなかった?
まひる:ファッションに関わることでは、もちろん背が高かったらモデルにもなりたかったけど、やっぱり音楽がやりたいっていうのが軸にあって。人前に立つのが好きだから機会があってモデルの仕事もらったりするのは楽しいし、逆に身長が足りないとかそういうことは全部、なんとなく「だから音楽やる道に行かされてる」と考えてます。でも好きなものが途中で趣味になったりとか、どんなに突き詰めていても運や環境に左右されたりっていうのはもちろんありますよね。
絵美:時代のニーズもあるしね。
まひる:私もたまたまインスタをやりはじめたタイミングとか、偶然自分が好きだったファッションが受けただけで。今の時代は自分でプロデュースしてインスタ上で本当じゃない自分とかも見せられるわけじゃないですか。それをうまく使うのが得意な人がいっぱいいるし、割と得意なことが二つとか三つとかある人多いから、そういうのを活かせる時代かなと思うし。マルチさは強みだなと思いますね。
絵美:確かにインターネットのなかった時代は一つのこと極めてる人が目立ってたけど、今だといろんなチャンネルで発信できるから、二刀流あっても三刀流あってもそれが生かされるっていうのはありますよね。
絵美:一番好きなことを仕事にするうえで、スムーズにいかなかったりとか途中で心が折れそうになったりするときに、何が原動力になると思いますか?
まひる:やっぱり自分が好きで始めたけど、それが嫌になることもめっちゃあって、そういうときはピアノから離れたりとか。でもそれで辞められる人もいれば、辞められなくて結局戻ってきちゃう人もいるじゃないですか。本当に好きだったら多分そうなると思うので、嫌いになったら嫌いになったで、ほかのこと始めてもいいし、それでやっぱりやりたかったなって思ったらすごい悔しくてそれが原動力になったりとかするから。
絵美:落ち込むことはありますか?
まひる:落ち込んだりはしないんですけど、嫌になっちゃうときはめっちゃありますね。めんどくさいことに向かわない自分が嫌みたいな。それで、なんかずっと携帯見ちゃうみたいな。
絵美:無駄にSNSを見て時間が経っちゃうとかね。まひるちゃんのいいところは、自分が子どもの頃のことを忘れてない黒柳徹子さんとかに通ずる気がしてます。自分が子どもだったときのことを忘れていて、子どもが嫌いっていう人とかがいるじゃないですか。でも子どもだってみんな一人の人間だし、それを忘れてないっていうのは大事だなと思いました。
まひる:ずっと子どもでいたいですね。
常に自分の好きを追いかける
「自分がすごく好きでいたものでも、それをみんなが好きになっちゃったら私はそれから逃げたくなっちゃう」と話していたまひるさん。自分が好きでハマっているものを常に追いかけている彼女の「好き」に対するエネルギーは、誰にもかなわないだろう。
今回の対談から得られたのは、自分が「好き」だと思っていたことを嫌いになる瞬間があったとしても心配する必要はないということ。それは自分が本当に「好きなこと」を見つける過程にいるだけに違いない。そのくらい自分の「好き」に対する感覚を大切にしていれば、きっと自分にあったものと巡り合えるはずだ。次回の連載もお楽しみに!