街の“クール”なエリアは数年ごとに変わっていく。
比較的貧困地域で、それまでひそひそと文化を発信し続けてきたようなエリアも、その「エジーさ」が一度注目されるとすぐさまチェーン店が押し寄せ、マンションが建設され、地価は上がり、観光客は増え、もともとの良さは失われる。
治安の向上や、経済的な発展が見られるため、必ずしもマイナスなことばかりとは言えないが、昔からある小さな個人経営のお店は存続できなくなり、住民は跳ね上がる家賃に耐えられず出ていかなければならないケースも少なくはない。そして大抵の場合、その住民たちはこれまで以上の貧困地域に追いやられ、さらにひどい環境で生活させられることとなる。
この現象を英語で「GENTRIFICATION(ジェントリフィケーション)」と言う。
ニューヨーク、ロンドン、パリ、サンパウロ、そして東京。世界中のほとんどの国に見られるこの現象。どうすれば昔からそこに住んでいる人々を、そしてその地域の文化を守ることができるのか?
プエルトリコのスラム街の悲劇。
カリブ海に浮かぶ小さな島、プエルトリコ。「豊かな港」を意味するこの島は、美しい海と素晴らしい気候に恵まれている。しかしアメリカの自治領であるプエルトリコは、総額700億ドル規模の債務を抱え、貧困に苦しんでいる。(参照元:日本経済新聞)
首都サン・フアンのカーニョ・マーティン・ペーニャ運河沿いには8つのコミュニティから成り立つスラム街が存在し、住民は長年ある問題に悩まされていた。それは、ゴミなどのせいで運河がつまってしまっていることだ。水が流れていないため、衛生状態が悪く住民の健康に被害が出ている上、運河の生物形態に支障をきたす。また、大雨の翌日は、洪水がスラム街を破壊する。
そこで、住民は環境改善のために活発にデモ活動を行っているが、彼らの望みが叶い、浚渫作業が行われるとさらなる問題が発生する。「ジェントリフィケーション」だ。土地に興味のある産業の人間や資産家が、運河の問題さえ解決されればこの地域に経済的な価値があると見込んでおり、作業が終わるとたんに住民は追い出され、富裕層がこの地域を開拓し、占領することは目に見えている。
「みんな出て行く。でも私たちは此処に残りたい」
そんな中、スラム街とその住民を守ろうと、住民、市役所、そしてコミュニティ・ランド・トラストの団体が協力し立ち上げたのが『Enlance Project』。
コミュニティ・ランド・トラストとは、世界中に存在する「ジェントリフィケーション」から地域を守るために活動している団体である。国や地域によって活動内容は異なるが、プエルトリコの場合、スラム街の土地を売却しもともと住む権利を持っていなかった住民に分配した。そうすることによって、住民が世代を超えて半永久的に住めるようにしたのだ。環境や社会的な問題など、地域に関わる重要な決断に住民も参加する権利と義務がある。そして土地を狙ってやってくる人にはコミュニティ・ランド・トラストの人間が信念を持って対応する。
また、プロジェクトの一貫としては、環境改善と若者の教育に力が入る。スラムのエリア内にアーバンガーデンを作り、地域の若者をリーダーに抜擢し、彼らにリーダーの能力やチームで働くことの意味を教えながら、ガーデニングを通して持続可能な食の大切さを教育している。
『Enlance Project』の取り組みは世界中から高く評価され、国連が主催する持続可能でイノベーティブな住まいに関わる活動を行う団体に送られる2015-2016UN World Habitat Awardを受賞した。
このプロジェクトは、地域を守り、環境改善に力を入れるだけでなく、スラム街を住民が誇りに思い、団結力を感じるようなコミュニティに生まれ変わらせたところが革命的である。プロジェクトの成功は、世界中のスラム街の改善方法の見本となり、視察のために訪れる人の数も多く見込まれる。プエルトリコの観光業をも潤したのだ。
先進国がプエルトリコからから学ぶこと
「ジェントリフィケーション」はスラムとまでは行かない先進国の貧困地域にも非常に関連する問題だ。
英国ロンドンでは何年にも渡って不動産市場は値上がりし続け、高すぎる家賃が理由で現在人口の3分の1が、基本的な生活に必要なお金を稼げていない現状がある。(参照元:everyinvestor)
そこで、イースト・ロンドンでは地元の人によって英国初のコミュニティ・ランド・トラストが立ち上がった。彼らは、廃墟となった病院をリノベーションし、相場の1/3の値段で地元の人に部屋を売り出している。(参照元:London Community Land Trust)地元の人の収入に見合った値段をこれからもキープしていくそうだ。これがロンドンの異常な住宅問題への光となっている。
東京を例としてあげてみると、チェーン居酒屋や話題のパンケーキ屋さんが続々とオープンし、昔のアングラ感が薄れてしまったと嘆かれる下北沢。20年前から経営をしている地元のバーは家賃の値上がりに苦しんでいる。そして最近、外国からの旅行者にも人気が出てきた高円寺は「ジェントリフィケーション」の次のターゲットといったところか。地元の人はパンクなこの街を守れるのだろうか。
人間らしい生活や地域特有の文化など、「ジェントリフィケーション」によって奪われる代償はあまりにも大きい。手遅れになる前に、私たちもプエルトリコやロンドンの例を見習い、デモから始めてもいいし、コミュニティ・ランド・トラストを立ち上げるものいい。具体的にアクションを起こしていくべきではないだろうか。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。