【最終回】都会も田舎も、健康食もジャンクフードも、大切なのは「バランス」。ベイン理紗が若き農園運営者の夫婦に学ぶ「五感を使う暮らし」|FEEL FARM FIELD #006 前編

Text & Artwork: Lisa Bayne

2022.12.6

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こんにちは、ベイン理紗です。

この連載「FEEL FARM FIELD」では東京で活動をしている私が山梨に畑をもつ中で出会う人についてや発見を綴っていきます。

「FEEL(五感を)FARM(農から) FIELD(広げていく)」という意味を込めて、3つのキーワードをもとに、知らなかったこと・知りたいこと・分からないことに愚直に向き合うことの楽しさ、面白さをお届けします。

この記事を読みながら、頭と身体で五感や繋がりを感じること、日々転がり落ちている興味を拾い上げてみることを一緒にできたら嬉しいです。

それぞれの頭も身体も心も、それぞれのものでしかないのだから。

あるものでやってみる。ご近所さんとのシェア「柿仕事」ワークショップを体験

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紅葉がまだちらほらあったりなかったり、急に寒くなったと思ったらまたジャケットのいらない気温になったりと忙しい秋だと思っていたらあっという間で12月に。この間「よいお年を〜」の挨拶を今年になって初めてしたんだけど、年の瀬だってことに焦り始めています。と、つらつら書いていますが、この『FEEL FARM FIELD』の連載もこの回にて終了。最終回は、私に畑を始めるきっかけをくれた場所でもある「0site」に再度お邪魔させていただき、1年を振り返りながら前編・後編と分けてお送りしたいと思います。

その前に!2022年最後の0siteのワークショップに参加したので体験リポートをお届け。食の秋、果物といえば柿!ということで、「柿仕事ワークショップ」を0siteが開催しました。

この記事を見ている皆様、住宅街や街中を歩いてると、柿や、ぽんかんなどの柑橘類の実がなっているのを見たことありませんか?美味しそうな実がなったまま時間がたつだけの木や、熟して落ちたものを虫や動物が食べているだけの木を見たこともあるのでは?そういう時、もったいないな〜と思いつつ、インターホンを押して「分けてください!」と尋ねるのは少し遠慮しちゃうな…とふと思いがよぎったことも、なくはないはず。

農家や家庭菜園の多い地域である山梨県北杜市の秋は、柿の木や柑橘系の果樹が至る所にあり、移動の車中からは庭や縁側に実が干してある様子をたくさん目にしました。一家に1本果樹がありそうなほどだったけど、近所で分ける風習がもとからあるらしい。今回のワークショップで使った柿は、0siteの近くに住んでいる方の木だそう。

HOW TO!柿酢づくりと干し柿づくり

まずはさっそく、今回のワークショップでつくる干し柿と柿酢のために柿の実を収穫!

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干し柿に使う実は先端を割った竹棒にひっかけて枝から収穫し、柿酢に使う実は手でもぎ取る。

今回収穫する柿の木は渋柿の木。ちなみに、渋柿と甘柿はそもそも木の種類が違うって知ってた?私はてっきり1つの木に当たり外れがあるのかと思ってた…。本当に、やってみないとわからないことばかりだね。

まずは柿酢づくりのリポートをささっと。
柿酢は、渋柿に含まれる酵素を利用して発酵させることで酢になる仕組み。洗ってしまうと柿の皮に付着している酵母が取れてしまうので、そのまま消毒が済んだ瓶に入れるだけ。瓶に入れて被せたあとは、1日に1度かき回す作業を1ヶ月ほど行う。太陽の光と湿気がない環境で保管しながら半年経つと、柿が発酵しきって柿酢の出来上がり、とても簡単。

続いて干し柿。
干し柿に使う柿の実は、濡れたタオルなどで一度柿を軽く洗い、皮を剥きます。皮を剥くことで外に水分を飛ばして甘くしていくので柿の葉も取り除くことがポイント。そしてこの皮は干してブレンドして柿の葉茶ならぬ“柿の皮茶“に。柿をよく見ると柿の皮部分に白い粉がちらほらついてるんです。この白い粉の正体は渋柿の内側にある糖が滲み出てるもの。これが付着しているほど甘くなるんだって。その甘さはなんと普通の甘柿の約4倍!そしてこのあとに必要不可欠なのが、収穫する時に残しておいた枝の部分。干す時に利用する紐へ結びつけるためなんです。0siteを運営する古山憲正のパートナーであり、「空蝉(UTSUSEMI)」というブランドを運営する古山美左紀ちゃんが結び方を教えてくれました。

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0から作ってみる楽しさを教えてくれる体験とご飯は最高にうきうきする

この結び方がすこーし複雑なんだけど、編み物をしている感覚でなんとか仕上がりました。干す準備が整うと、今度は結んだ柿たちを煮沸します。5秒ほど熱湯に浸けたらすぐに竹棒に引っ掛けて1ヶ月ほど待ったら完成。街中にある果樹を実際に分けてもらってなにかつくる機会は今までなかったので、出来上がりまでがとっても楽しみ。柿酢はそれぞれ自宅に持ち帰り、干し柿と柿の皮茶は0siteから自宅へ送ってくれます。実はこのワークショップを終えた直後に寄った別の場所で干し柿を偶然いただいたのだけど、黒砂糖のような程よく暖かい甘さで、ほっこりしました。出来上がりが待ちきれません!

ワークショップでいただくディナーとモーニングはいつもすべて手作りで格別の美味しさ。カブの丸焼きや、数種類のスパイスと野菜のエキスがたっぷりなカレー、甘みの詰まった手ごしスープにパン。モーニングに食べたピーナッツバターは本当に最高だった。この0siteにくると、市販のものを買うのもいいけどこれは自分で作れるかも!と生活を自分で開拓する楽しさを想像させてくれます。冬籠の準備を始める0siteは雪溶けの季節までキャンプ営業のみ。次はピーナッツバターのワークショップしてくれないかな、なんて。

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そんな0siteは、私の連載が始まった頃から一緒に歩んできた感覚が勝手ながらある。最近はワークショップだけでなくキャンプ場としてプロモーションを本格的に始動したり、運営の憲正とパートナーの美左紀ちゃんが私生活でも結婚に出産と大きな変化を経験したりしている真っ只中だ。そんな憲正に2度目のインタビューを、美左紀ちゃんを交えて受けてもらった。

それぞれのゼロ(ありのまま)の自分を見つけてもらえる場所

ベイン理紗(以下、理紗)今回もワークショップがすごく楽しかった!ありがとう。柿仕事のワークショップはどうして開催することにしたの?

古山憲正(以下、憲正)10月に0siteの拠点である廃校舎の玄関、教室内のペンキを一式塗り替えたり、薪ストーブをつけたり模様替えとリニューアルをした。それをお客さんに見てもらいたいなと思ってたらちょうど集落に柿がたくさん実ってて、村の人も使っていいよって言ってくれたし、干し柿、柿酢、お茶作りとかいいね、と。

古山美左紀(以下、美左紀):子どもが生まれたことで私はゆっくり稼働してるんだけど、子育てしながらでも料理の提供ならいままでとさほど変わらない規模感でイベントはできるかもと思って。干し柿は家で食べる分も取りたいし、それならみんなでできたらいいね、って。

憲正&美左紀:シンプルだね。うん、シンプル。

理紗:東京で果樹のある住宅地を見てもったいないなと思っても勇気がなくて言えないんだよね。壁があるっていうか。山梨県北杜市とかの地域って、共有することに関してハードルが低い気がする。そこってやっぱり東京と違う?

美左紀:東京に住んでいたときは、アパート暮らしでも隣の部屋がどこの誰なのかすら知らなかった。今住んでいるようなコミュニティのあり方は、人が少ないからこそかもしれないけど。

憲正:ここは人口10人ほどしかいないから行事があれば直接知らせがあるし、猟師の人が鹿肉なんかを取ったら玄関前にどんと分けて置いておいてくれたり。むしろ繋がりがしっかり見える形でないと暮らせない部分の方が多いところが違うかも。たぶん東京ってきっと近所付き合いを楽しむ余裕なんてないと思うんだ。だけど案外東京でも声をかけてみたら面白いつながりが一気に増えそう、みんな同じ人間だからね。

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理紗:0siteをつくって1年が経ったよね。前回登場してもらった時は「それぞれのゼロ(ありのまま)の自分を見つけてもらえる場所を作りたい」と言っていたけど、それから今現在、その気持ちに変化はある?

憲正:変わらないかなぁ。前提として、短期間でありのままの自分を見つけてもらうのはかなり無理があるってわかってる。でも0siteに来てみたことで、人が生きていく上で得る財産の足しになるのであれば、ほんとうの意味でやりがいを感じられるのかなって思ってる。

理紗:少しずつ時間をかけてインフラが整ってきたって話をしたよね。人を集めるスペースにするために工夫して整えた場所を教えて!

憲正:整った場所としては、以前まで朽ちていたプレハブや瓦礫を撤去したり校舎内の大掃除にペンキ塗り、照明を変えたりとか。薪ストーブも導入して、ドライフラワーを装飾したり、座れる場所を作ったりとかそういったこと。お金はほとんどかけずにあるものでやることを心がけてる。工夫したい場所としては、僕が“0”から、とか”無い”場所自体をスペースとしてつくってはいるけど、来てもらった人にそれぞれこの場所を見出してもらいたい。インフラとは少し違うけど、僕が自然な佇まいでお客さんと一緒にただいられるのがいいかなって。

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理紗:逆に、そういう場所づくりにしていく上で大変なことは?

憲正:一番の壁は、0siteの周辺環境を人一倍考慮しなくてはならないところかな。今はこの土地も賃貸で借りているし、地主さんや村の意向を想像しながら0siteをやっていかないと貸してもらえないんだ。許可がもらえないと進めることはできないし、僕よりずっと前からこの土地を知っているからこそのこだわりや世界観がある。様子を見ながら大きな壁を少しずつ壊していっている感じ。それがすごく大変。思い描きたい0siteの世界観を出していく難しさ、だね。ここは戦前からある小学校の廃校舎なんだけど、綺麗にしていないと朽ちていく一方、綺麗にしていくことで地主さんや村の世界観を消し去ってしまうかもしれない。本当に難しいところだね。

移住、結婚、出産…今感じていること

理紗:移住、0site発足、結婚、出産、ととてもめまぐるしい1年だったと思います。その流れを緩やかに感じるほど憲正と美左紀ちゃんはどんと構えて生活と運営をしているイメージがあるんだけど、もちろんそんなことないと思う。この1年を通して東京から離れた日々はどう?

美左紀: この1年のわたしたちの話をすると、ライフスタイルの時系列がわからなくなると言われる(笑)。振り返ると本当にめまぐるしい、けどそれでいてどの過程もすごく自然な流れだったからたしかに緩やかだったようにも感じてるかも。

この土地に来てから、自分に吹く風に身を委ねていたら、とんとんと運ばれていった感じ。

憲正: 楽しいからこそすごいあっという間。本当に自分たちに合ってる土地だなって。だからこのスピード感でできてると思う。春夏秋冬の中で、自分の身体と心のできる範囲でやってきて、少しずつ衣食住が整っていったね。

美左紀:東京にいた頃は街が賑やかで人も多くて、そこら中に飛び交うノイズみたいなのが多いからずっとイヤホンをしてるし、景色はただの背景でしかない感じだった。そのぶん、自分の頭の中が毎日うるさくて仕方なかった。山梨県北杜市へ来てからは、逆に外はとてもとても静かで、目の前に広がる山の色や虫の音で季節が変わる表情に自然と集中する。すると自分以外の存在に気付くんだよね。頭の中が静かになって、全部を身体で受け入れているような感覚。そうやって暮らしていると案外飽きない。毎日やる事が沢山で、気付けば季節が一周している感じ。しかも、東京にいた頃は自分でやりたいことを必死に手繰り寄せてたのに、今は逆に身を委ねてやりたいことをこなしていくような感覚が凄く気持ちいい。

憲正:子どもが生まれるっていうのは本当に予想してなかったね。本当に、本当に大変なんだけど、自分の生活をあるがままにやってみた結果が今の景色だと思ってる。やりたかったことを実現すると、想像もしてなかったことができたり見えてくるものや与えてくれる環境がただすべてだなって。だから二人で考えながら子育てもしてる。0siteを立ち上げた時も、これから新しい事業をやるにしても同じだよね。私生活も今の活動も、そう思うと全然不自然じゃない。ただ素直に生活してる。

美左紀:この生活は、柿が取れるから干し柿を作るし、山菜が生えてるから採る。真冬は寒すぎるから休む、ってシンプル。季節はまた巡るから、今年できなくてもまた来年でいいやって思えたりもする。それが楽しい。

憲正:何より独りじゃない。家族がいるから頑張れる。ひとまず、この夏に赤ちゃんが生まれた僕たち夫婦は0から生活と仕事のリズムを立て直してるところ。これから0siteがどんな場所にしていきたいかより、僕たちがこれからどうありたいかを今は時間をかけながら考えていくことの方が大事かも。結婚して新しい家族ができた、出産して家族が増えた、その大きな暮らしの変化を今は楽しみながら悩み考えていければいいのかなと。

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『しゃべくり007』『月曜から夜ふかし』で一息

理紗:東京が羨ましいと感じたりするし、『しゃべくり007』だって見たりしてるって前に聞いた時、ちょっと意外だったりしたんだよね(笑)そう思う時のきっかけや、他にもエピソードがあるかな?

美左紀:人間は本当に貪欲なんだなって、つくづく。どこまで行ってもないものねだりなんだよね(笑)。テレビが毎日ついてる生活を送ることは今後きっとないと思う。でも、テレビがないところに毎日いると、たまに刺激が欲しくなってパソコンで『しゃべくり007』を観てみたら、めっちゃ面白いやん!って。

憲正&美左紀:『月曜から夜ふかし』とかもね。パソコン開いて新しい回が出てるって喜んで2人で爆笑しながらご飯食べてる(笑)。

憲正:東京の存在も同じかな。単純に今ある環境とは程遠いから、だからこそたまに触れたくなる。息抜きも含めて、バランスを保つためでもあるかもしれない。

美左紀:私は普段野菜とか豆を使った食事がメインで生きているけど、逆にジャンクフードなんかも大好き。それが身体に良い悪いとかじゃなくて、その対象が自分にどう作用しているかに興味がある。それと同じで東京はうるさくて人が多いから嫌とかじゃなくて、その環境が自分にどう作用しているのかを感じるのが楽しい。私は極端に物事の両極を知りたいようなタイプだから、そうやって両極を行き来しているとどちらの良さも立体的に見えてくる。そうやってぐるぐる回りながらまーるく円になっていく。

憲正:僕も。東京に暮らしてた頃のように、気軽に居酒屋やジャズ喫茶に行きたくなったらすぐ行けるような、そういう時間がいいなと思う時もある。生活の中で対極を経験することが自分の心と身体のバランスを調和してるんだと思う。そうすることで、この世の中や人や自然と上手に付き合っていけるのかな。

美左紀:そうやって両極を行き来しているとどちらの良さもよく見えてくるよね。

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理紗:0site、空蝉、他にもこれからいっぱいやりたいことがあると思う。これからもこの山梨から発信を続ける予定?

憲正&美左紀:色んなご縁の中で出逢ったこの土地だから。先のことはわからないけど、今のところは北杜にいる予定。ここで空蝉も0siteもできるところまでやりたいねって。

美左紀:北杜市の名前も知らずに訪れて感覚でそのまま住んだけど、住んでから魅力を沢山知って今では会いたい人や行きたい場所がたくさん。ここは北杜市の中でも標高1000mあるから最寄りのスーパーやコンビニへ行くにも車で25分はかかる。お店なんか本当に無い。けど不便だと感じたことはほとんど無い。今はそんな距離感が心地よいし自分たちには合ってるなと思ってる。

憲正:これから果たしてこの場所で暮らすことがベストなのかはわからないし、今は流れに沿って生きながら、この0siteをやりきれるところまで運営したいなと思ってる。思い描いてた0siteを運営できるようになった時、ここを去ってまた別の場所へ行けたらいいな。自分が10年、50年後どんな人間になってるか楽しみだし、この時代と環境、そして心と身体の変化に適応して生きて、楽しみたいよね。

このインタビューでとても印象的な答えがいくつかあった。あるもので何をするか、ないものをどうやって作って賄うかをその時々で考えてるということ。また、東京にいる時は必死に手繰り寄せていたやりたいことを、山梨では季節や時の流れに合わせて身体と呼応しながら日々こなしていくということ。これは畑を始め、連載を始める前の私が気付くことのなかった感覚な気がする。これこそがコンセプトである五感を使って何かに気づくこと、向き合う楽しさを実行していることだと思った。

それは東京にいたときは、美左紀ちゃんのいうように、私たちが日々耳に入る音、目に見える景色、反応する匂い、好きか嫌いか、それぞれに集中してあげることに神経を研ぎ澄ます余裕がなかったからなのかもしれない。あまりにも情報が多いこの世界では一番難しいといっても過言ではない気がする。いままでの私であればこの現実に落胆してどうしようもない怒りや悲しみだけを感じていたと思うけれど、この1年間で食と農に関わりながら連載を通して少しずつそういった感情は静まっていった。それは、いかに食や農が社会と繋がりが強く、豊かな心と体の持ち主を集結させてくれるパワーを持っているかを知ったからだと思う。そして少しずつ疑問や違和感の矛先が変化していっている。後編ではそれらについて綴りながら、まとめていきたい。

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