アートが持つ力にはどんなものがあるだろう。そのひとつに、表現を通して何かを問いかける力がある。2018年に天王洲アイルにオープンした「KOTARO NUKAGA」が考える現代アートギャラリーの役割は「一般化もしくは常識化された物事について、アートを通して改めて考えるきっかけを与えること、もしくはアートそのもののあり方について考えること」だ。
今回は「KOTARO NUKAGA」で現在開催中の、アメリカを拠点に活躍する7人のアーティストのグループ展「FIXED CONTAINED」(フィックスド・コンテインド)を紹介したい。本展は、出展アーティストの一人でもある松山智一(まつやま ともかず)がゲストキュレーターを務め、「現代アートにおける装飾美の可能性」というテーマのもと、さまざまな表現を通して現代社会の複雑さや重層性を表現するアーティストが集った。
現代社会を組み直し、編集するという行為
本展のタイトル「FIXED CONTAINED」は、アーティスト自身の文化や歴史、そして現代社会から、様式的なパターンや有用な情報を意図的に引用して組み直し(Fixed)、そこに新しい意味を吹き込むこと、そして文様や色気、彩度といったさまざまな要素が混ざりあう高密度の容器(Contained)のような作品から、未知なる領域を予感させる表現が溢れ出ることを意味する。
参加アーティストは、平面性や抽象的な線を用いて日常の風景にある社会構造を浮き彫りにするブライアン・アルフレッド、動植物や建造物を有機的に描いて空想的で未知なる風景を描くインカ・エッセンハイ、自身の文化的ルーツに因む文様を多層的に用い、強い精神性を持つ女性像を描くことで未来の可能性を主張するフィレレイ・バエズ、東洋古来の花鳥画を思わせる花や模様を、整然としたカオスとして描くカルロス・ロロン、鑑賞者をぼんやりと作品に投影することでアートの意味を自問させるニール・ホッド、古典的な彫刻様式と日常的な物体を組み合わせることで、アートと現実に横たわる矛盾や永遠性を喚起するトニー・マテリ、氾濫する広告などのイメージソースと伝統的な図像を融合させることで、異文化が混じりあう「今」を創造した松山智一。
同画廊によると、「組み直す、編集する」という行為には、過去に対する知識や敬意が必要であり、参加アーティストたちは同プロセスを経ることが情報過多の現代社会に突破口を開く最適な方法のひとつであると示しているという。これはつまり、社会で起きているあらゆる事柄を自分の頭の中で一旦整理してとらえ直すためには、「FIXED CONTAINED」で鑑賞できる作品の制作で用いられたのと同様の作業が、役に立つのかもしれないということだろうか。
FIXED CONTAINED Curated by Tomokazu Matsuyama
会期:2019年4月20日(土)〜2019年6月29日(土)
開廊時間:11:00〜18:00(火・水・木・土)11:00〜20:00 (金)
アーティスト:ブライアン・アルフレッド(Brian Alfred), フィレレイ・バエズ(Firelei Báez), インカ・エッセンハイ(Inka Essenhigh),ニール・ホッド(Nir Hod), カルロス・ロロン(Carlos Rolón), トニー・マテリ(Tony Matelli), 松山 智一(Tomokazu Matsuyama)
キュレーション:松山智一