人間は古くから食料を「粉」にする技術を持ち、小麦を粉にしてパンを焼いたりうどんを打ったりしてきた。また現代では粉末に熱湯を注ぐだけで食べられるカップスープなどが、その便利さから一般的になっている。だが平成も終わりに近い2018年は、食料を粉末にして使う「粉もの」に違う視点から注目できそうだ。
世界や日本で増える「粉もの」の“スーパーフード”
ここ数年で話題になった「粉もの」といえば、Be inspired!でこれまでに紹介した“完全栄養食”として世界的に注目されたソイレントや、廃棄されてしまうおそれのある野菜を使用した、手軽に栄養がとれるNICE n EASY(ナイスンイージー)がある。
どちらも粉末を水に溶くだけで摂取できるが、前者は「人間が生きるための栄養素がすべて入った」飲料で、おいしさを追求したというよりも、とにかく機能性を求めて作られている。従来の食がいらなくなることから、人間と食の関係性を変える存在とまでいわれた。一方、後者は野菜の機能性成分をなるべく壊さない製法で粉末にしてあり、食料廃棄問題に取り組んでいるだけでなく、野菜の味を感じながら不足しがちな栄養素を簡単に補えるのだ。
このように、時間に追われて慌ただしい現代人に向けて、手軽にお腹を満たすのみならず、「栄養」をいかに簡単に摂取するのか、そして社会にある問題をどう解決するかに焦点を当てた「粉もの」が世界で増えてきているもよう。
ベルリン発、おいしく廃棄食料を救う「粉もの」
次に紹介したいのはFoPo(Food Powderからきている)。見た目の悪いくだものの栄養を閉じ込めて粉末にし、スムージーにしたりヨーグルトのトッピングにしたりするだけでなく、お菓子や料理にも使えるおいしい粉ものだ。NICE n EASYと同様に、廃棄されてしまう食料を使っており、栄養素を閉じ込める製法を用いている。彼らの取り組む大きな目標は「おいしく食料を救い、食料や経済の循環のシステムを変える」ということだという。
彼らが「食品廃棄問題」や「栄養不足」の問題に着目した背景にあったのは、現在世界で廃棄されている食料の1/4で栄養失調に陥っている80億人に必要な食がまかなえるという可能性。また、廃棄された食料が腐食することで二酸化炭素を発生させ、地球温暖化を悪化させている問題にも危機感を感じ、ケニアにも出向いている。現地のマンゴー農家に、規格外の作物を粉末にして保存する技術を教えたのだ。(参照元:FoPo Food Powder)
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ドリンクに入れるだけじゃない、おいしくて万能な「粉もの」
彼らのもう一つの特徴は、「形の悪い」バナナやリンゴ、マンゴーなどの粉末だけではなく、「形の悪い」オリーブやアボカドの粉末も取り扱っており、デザートだけではなく料理に加えて使うこともできるところにある。ウェブサイトでは、リンゴの粉末を使用したボール型のクッキーやオリーブの粉末を使ったマッシュルームバーガーなど簡単な使用例を公開するとともに、新たなレシピ案を募集しているようだ。
手軽に使えておいしい、さらに世界の問題に対する解決策に貢献できる、そんな一石で何鳥も得ることができる“パウダーフード”の可能性の幅は広い。
今年から注目すべき、長持ちする「粉もの」の行方
出荷された食料品が売れ残った結果、廃棄されてしまうことだけでなく、見た目が悪くて「企画外」とされ、店頭では取り扱ってもらえない食料品の「食料廃棄」は世界的な問題。それに対する対策として、まず「おいしく食べられるうちにどう保存するか」が大切ではないだろうか。少なくともそれを必要としている人にどう届けるか、料理にどう活用するかは保存したあとでも考えることができるからだ。
忙しい人の手もわずらわさない「粉もの」なら、未来に向けた食料廃棄問題の有効な解決策となっていくのかもしれない。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。