「女性が暴力を受けることのない理想の世界を描く」あるアーティストが描き続ける“ジャイアントな女性たち”に込められた思い|GOOD ART GALLERY #023

2019.11.21

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ん?女性の手の上に馬が乗っている。ん?女性が片腕を広げて家に寄りかかっている。
「ジャイアントな女性」を主役に、自身のトラウマから感じる痛み・苦しみを明るい色のなかに封じ込んで表現するアーティストがいる。

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今回GOOD ART GALLERYで紹介するのはアメリカ合衆国・ミネアポリス州の田舎に暮らしているアーティスト、Meg Lionel Murphy(メグ・ライオネル・マーフィー)だ。彼女は社会を変えたい人々を繋げるイベントなどをオーガナイズする団体「Pollen(ポーレン)」 のアート&ストーリーディレクターを務め、文学とアートのマガジンを定期的に発行しているボランティア出版団体「Paper Darts(ペイパーダーツ)」の編集長としても活動している。

過去の辛い出来事で傷ついた心の治療も兼ねて絵を描き続けているという彼女は、困難を乗り越えて成長した女性の強さをアートとして表現している。作品には馬や家などの現実世界に存在するオブジェクトが取り込まれているが、色やサイズを工夫して用いることによって彼女が想う「女性が暴力を受けることのない理想の世界」が繰り広げられているのだ。今回NEUT Magazineは、忘れたくても忘れられない過去と向き合いながら強く生きているMegが生み出す「希望」について少しだけ教えてもらった。

ーまず、あなたのことを少し教えて。

私は、愛犬ガスとアメリカの田舎にある小さなスタジオで作業しているペインター。

ーあなたのウェブサイトで「women(女性)」 を 「womxn」というスペルで表現しているけど、なぜ?(「women」の語源は「wife(妻)」と「man(男/人)であり、ひと昔前の社会の一般的な女性のあり方を意味している)

私が尊敬している、既存の社会に挑戦している人たちがそういうふうな表現の仕方に変えていて、それを真似した。 “women” に比べて ”womxn” は、より包括的で革新的な感じがするかな。フェミニズムを単に「女性の問題」としないで、人種や階級なども含める「みんなの問題」として理解していく動きが発展していくほど、使われる言葉の構造も変わっていくと思う。言語がジェンダーの流動性を表現できるようになってほしいし、社会に存在する多様な考えを表せるようになってほしい。たった1単語の1字を変えるなんてちっぽけなことかもれないけど、文章にとどまらず、ムーブメントとして広がっていく私たちの団結力を少しでも表すことができれば嬉しい。

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ーたくさんの「傷ついた女性」を描いているけど、きっかけは?そして、あなたの作品を見る人にとってどういう影響を与えていると思う?

私はとてもひどい性的暴行の被害に遭ったことがある。そのせいで心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患っているの。絵を描いているのは治療の一部。作品全てにバックストーリーを書くけど、私の作品を見てくれている人それぞれが違うストーリーを読み取ってほしい。見た人が、最初はエネルギッシュでワクワクさを感じた後、深く考えてみると苦悩が読み取れて、ストーリーを再構築するような作品を作ることが目標。その苦悩っていうのは、詩的で曖昧なものなの。私の意図は関係なく、作品を見た人それぞれが感じとるもの。

ーいつからか女性は男性に守られる必要があるという考えがあって、今も世界にはその考えを持っている人がいるのは確かだと思う。『Just A Moment』のインタビュー記事では「『ジャイアントな女性』が守ってくれるとイメージする」と言っていたけど、その「ジャイアントな女性」は何を表しているの?

毎晩、私は家庭内暴力の悪夢にうなされる。だから毎日、女性が暴力を受けることのない理想の世界を描いて乗り越えてる。私が描く女性たちはどんどん大きく成長していって、もう家にはおさまらないの。辛い過去を乗り越えた女性たちを痛めつけられるものなんてもう何もない。地球を歩き回って、世界を再構築していく。もともと住んでいた世界の何倍も大きくなった女性たちは、高いビルだって王座みたいに使う。やがて女性たちの体は建築となり、風景となり、天候となる。地球と一体になるの。未来に向かってどんどん成長していく女性たちは、希望の象徴。

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ー『Just A Moment』のインタビュー記事では作品にピンク色を用いることが好きだと言ってるね。ピンクはポジティブ(ガールズパワー)・ネガティブ(ステレオタイプの女の子らしい)のどちらの意味でも「女の子の色」として捉えられているけど、あなたにとってピンク色にはどんな意味がある?

ピンクは新しいパンク!楽しさを表現してる。ネガティブなイメージがあるのも確かだけど。ミレニアルピンクって単語は、本来のピンクの良さを殺すような表現だから大嫌い。ピンクの再来は、ラディカルなことだと思ってる。100年後に、今私たちの生きている時代は「ピンクへの恥なき愛を象徴する時代だった」って言われてるといいな。

ー描く女性のモデルは誰?もし実在しない人物を描いていたら、インスピレーションは何?

最初に実在する人物を想像する。そして背景のストーリーを考えて、PinterestやInstagramからアイデアをかき集める。眩しい色のガーリーなファッションを探すことが多いかな。冗談抜きで気分が悪くなるぐらいの量の画像を探しては見て、探しては見て、の繰り返し。それも大切なプロセスだと思っているからね。そんなごちゃごちゃした状態からコラージュの簡単な下書きをする。実際のものに似せて描こうとはしてないし、どれだけ本物らしいかにはこだわってない。

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ーInstagramに載せているセルフィーのあなたの腕には可愛いタトゥーがたくさん見えるけど、あなたの絵を彫ってるの?もし特にあなたにとって大切なタトゥーがあったら教えて。

一緒にお仕事をしたことがある私のお気に入りのタトゥーアーティストはアリーナ・チュンエミリー・ロビンソン。アリーナは私をボクシング選手に、エミリーは私を蜘蛛にしてくれた。2人ともそれぞれ自分の店を持っていて、どちらも素敵な強い女性をタトゥーで生み出すことができる。心的外傷後ストレス障害(PTSD)で難しいことなんだけど、全てのタトゥーが「私の身体は自分のものなんだ」って感じさせてくれる。こんなに安心させてくれるタトゥーを彫ってくれたアーティストには私は一生感謝し続けると思う。

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ーあなたはアーティストだけでなく、Pollen(社会を変えたい人々をつなげるイベントなどをオーガナズする団体)やPaper Darts(文学とアートのマガジンを定期的に発行しているボランティア出版団体)でも才能を発揮しているね。その全てが点と点のようにどこか繋がっているように感じる?また、これらの活動のモチベーションは何?

Paper DartsとPollenの立ち上げを手伝ったの。どちらも団体の構造から、ビジュアル、雰囲気まで私の一部が入ってるって言える。2009年にPaper Dartsを共同で立ち上げたんだけど、編集長として、フィクション作家をそれぞれの違った教育環境にいる読み手に届けられるようなプラットフォームにしたい。今10年目を迎えて、数ある文学マガジンのなかでも古く歴史のあるマガジンになった。とりとめもないことも、政治的なことも、面白いことも、変なこともいろいろ取り上げる。Pollenのエグゼクティブディレクターだったときもあるけど、もっと絵を描く時間を作るために今はパートタイムとして関わっているよ。Pollenはアートとストーリーを糧にして社会の変革を目指している。私でも小さな変化を社会にもたらせられるんだなって感じさせてくれるよ。今は絵を描く時間を増やしてるけど、それとPaper Darts、Pollenとのバランスの取り方も勉強中。どれも続けたい。今やっていること全てがあるからこそ、私はいいアーティストであり、いい人間でいられるんだと思う。

Meg Lionel Murphy(メグ・ライオネル・マーフィー)

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