「それぞれのストーリーをつくる」
新型コロナ以降、学校や会社から個人の生活習慣まで一定の変化が余儀なくされ、これまでの普通・日常が変わりつつある。こんなときだからこそ、コロナに関わることだけに限らず、何も考えずに受け入れてきたさまざまな「物事」を思考するチャンスとするべきなのではないか。
渋谷パルコ内にあるギャラリーOIL by 美術手帖で東京では2年ぶりとなる個展「sun, snake, nipples」を開催するアーティストShohei Takasakiはまさに「自分で考え、自分のストーリーをつくる」ことをアートを通して観客に促す。今回NEUTはそんなShohei Takasakiに社会の現状に対しての考えや、個展に込めた思いをうかがった。
ーまずはじめに、簡単にShoheiさんのバックグランドについて教えてください。
去年の夏あたりに東京に移住してきましたが、それまでは7年ほどアメリカのポートランドという小さな街に住んでいました。また何年か後には違う国に引っ越す予定で考えていますが、数年でも日本を活動の拠点とできることを楽しく思っています。日本人として、日本で育ったので、自分の育った国で活動するということは、「当事者」として社会が抱えているいろいろなトピックにダイレクトにリーチできるから、少なからずも作品のコンセプトやストーリーに、いい意味で影響してくると思います。「どこで」活動しているか、っていうことはアーティストにはいつも大きい影響を与えますよね。
ー東京では2年ぶりとなる今回の個展「sun, snake, nipples」はどういった経緯で開催することになったのですか。
元々はNYCで活動していて、現在は東京でインディペンデントにアート・マネージメントやプロデュースをしているエリ(Eri Takane)からのオファーがきっかけでした。元々彼女とはここ何年も仕事をしていたので、スムーズに進めることができました。ギャラリーのOIL by 美術手帖とも、オリンピックの開催時期に合わせてショウを開催するという予定でいろいろ進めていましたが、本当に一気にいろいろ変わってしまいましたけどね。
ー今回の個展の内容について教えてください。
徹底的に「無意味」なことや物にどうやって「意味」を付加できるかということをここ数年で考えてきました。元々このトピックは、何十年も昔からいろんなアーティストによって実験、挑戦されてきたことですけど、例えば「ペインティング」という前提の前にものとして「物体」はそこにあって、その物体としては、ほぼ100%に近く機能性がないですよね。あんなに薄いパネルや木に布を貼っただけの物体に、何の機能も見つけられないですよね。「ペインティング」を「ペインティング以外」のものとして使うことはできますか?(笑) つまり「物体」としては、ゴミ同然のものにどうやって価値をつけれるかっていうチャレンジがある。「いろんなフォーマットがあるアートのなかで、なぜペインティングなのか?」という質問に対しての答えでもあるのですが、ペインティングという「物体」は、他のアートのフォーマットと比べても、その価値をつけれるキャパシティが圧倒的に多いと思います。だから僕はペインティングが今でも好きなんですが。
質問に戻ると、「何か」に元々ある以外の意味や価値をつけるということは、その「何か」を今までとは全く別の角度から見てみること、や、「何か」の本質をもう一度考えてみること、「何か」と自分だけの関係性を作ってみることです。それは、今全世界で僕らが直面しているこのパンデミックによって僕らの日常が強制的に変わり、今までの日常を一度リセットして、これからの生活のあり方をもう一度考えるようになったこのリアルライフとリンクします。
僕はこのショウで、「男性の乳首」に触れていて、この「全く無意味なもの」にどうやって意味を付加できるか、というのが今回のミッションでした。僕は「男性の乳首を機能的に使う5つの方法」という提案をショウのなかでプレゼンテーションしてみました。10点近くのペインティングやスカルプチャーを通じて、何らかのテイクアウトをしてくれればと思います。みんなどう思うんだろうね?
ー個展では来た人に何よりも「それぞれのストーリーをつくる」ことを体験してほしいといっていましたが、どうして今それが大切だと思いますか。
アートにできること、をやっているだけだと思います。例えば、観客が全く何もテイクアウト出来ないような、ただただ見ていて「気持ちがいい」だけや「綺麗」なだけなアートは、アート(コンテンポラリー・アート)ではないと思う。その辺の道にあるくだらない芸能人の顔を配置しただけのような広告と一緒ですよね。まあ、基本的に人は、実は指示されるのが好きだし、決められたことをなぞることが好きだし、脳を使わなくても良い表現が好きなんでしょうね。その方が楽だし「気持ちいい」ですからね。
ぼくの今回のショウでは、それぞれの個々のピースについては、なるべく説明しないようにしていますが、作品と観客がそれぞれにストーリーをつくったり、関係性を持ったりできやすいように、「手がかり」は全体的に散りばめました。少なくとも頭のエクササイズになればいいですね。
ー「それぞれのストーリーをつくる」ことを体験する場を作りたいと感じている理由の一つに、例えば日本の大きな美術館だと「思考停止している企画」が多い印象だといっていましたが、アートとはどんな存在であるべきだと考えますか。
アートといってもいろんなカテゴリーがありますが(バカバカしいですが)、僕が話しているのはコンテンポラリー・アートで、コンテンポラリー・アートは観客を傷つけるような存在(誰かが言ってましたね)、その後も傷跡が残るような、その傷によって人生のどこかのパートが変わってしまうような、そんな可能性がある存在であるべきだと思います。ちょっとロマンチックすぎるかな?
ー個展とは別に「Destroy Your Habit」というアーティスト(Shoheiさん)がアーティストにインタビューする取り組みもしていますよね。これも「くせを壊す」という意味で既存のものに挑戦しているように感じました。Destroy Your Habitの取り組みについても教えてください。
スタジオにいるときのルーティンの一つで、よく聴いているDEEP COLORというポッドキャストのプログラムがあります。NYCで僕も時々会っていたJoesph Hart(ジョセフ・ハート)というアーティストが運営しているもので、シンプルな「アーティストがアーティストをインタビューする」というコンセプトで、アーティストがアーティストのスタジオに遊びに行って、そこで発生するランダムな会話をラジオとして聴ける場所です。僕はこれを日本語も含めてやりたかった(僕が一番最初にインタビューしたのは、だからJoe Hartでした)。彼はインタビューをレコードしたものを「聴く」というプログラムでやっていますが、僕は、あえて文字で「見る/読む」という体験をすることをやりたかったんです。聴くということは、聴きながら、いろんなことを同時に出来ますよね。僕らのDestroy Your Habitでは、オーディエンスにある程度コミットしてもらわないと体験できないようにしたかった。デスクに座って、時間をある程度つくってから、時間をかけて読む、つまり読んでいるときはそれ以外のことを同時にはできないということですからね。ただでさえ、Destroy Your Habitにで出てくるような人物の言ってることから人生のヒントなんかを見つけるのは、難しいしね(笑)!
アーティストは、誰にも強要されずに、自分で問題を勝手に作り出して、それに対する永遠に解けない正解をたった一人で孤独に探しています。なんて大変な生き方なんだと思いますよ。本当に可哀想にね(笑)。アーティストは、それぞれに彼らなりの攻略法で人生をサバイブしていて、なんとか突破口を見つけようとしている。そんな人たちの考え方や人生に対する向き合い方から、オーディエンス側の人たちの生活のためのヒントが、実は何かしらピックアップできるんじゃないかと思っていたんです。
今現状では「アーティスト」に焦点をあてていますが、今後は「クリエイティブな人」というふうに拡張して、アート業界の人たちや、他の業種の人たちとも話していきたいと思っています。
ー今後Shoheiさんが取り組んでいきたいテーマは何でしょうか。
ショウが実際にオープンして、スタートすると、もう気持ちはほとんどそこにはないんですよね、実は。今はこれから取り組みたいことでまた頭がいっぱいです。これまでもデイリーで、毎日の日課としてドローイングを毎朝何年もやっていますが、もう一つ日課を写真というフォーマットを使って増やしたいと思っていたので、それを実行します。新型コロナによって延期になっていましたが、ポートランドでの新しいソロ・ショウの開催や、ポートランド空港にインストールする大型のミューラルのプロジェクトも再開します。テーマはプロジェクトごとに違いますが、今回のショウで取り組んでいる「無意味に意味を付加する」というテーマはこれからも引き続きやっていきます。フレキシブルに続けたいと思っています。
ー最後に大きな質問ですが、Shoheiさんはどうしてアートを作り続けるのでしょうか。
とてもいい質問ですね。僕はここ何年かで、やっとその答えが少し見えてきたように思います。例えば、今現在の2020年に40歳という年齢でつくったアートピースは、そのときとその年齢でしか創りえなかったピースで、それは、50年後や100年後に振り返ってみたときに「記録」と「財産」として受け継がれていくものですよね。価値がある作品ならね。なので、ミュージアムに作品を収蔵される、というのはアーティストにとって一つのゴールだということも理解できる。
けど、僕は今実はギネスレコードに興味があります。アーティストとしてギネス・レコードに挑戦してみたいと思っています。アートの世界でも、今までの歴史のなかで、本当にいろんなことがやり尽くされてきた。そこで、一面の灰の中から小さなダイヤモンドを永遠と探すことをやっているよりも、アートの意味をもう少し拡張して、リアルな生活のなかでの「唯一性」を目指していけたら面白いと思う。まあ全ては暇を潰すための理由を探しているんですよね。ビバ!人間!って感じかな。
「sun, snake, nipples」curated by Eri Takane
アーティスト Shohei Takasaki
キュレーション Eri Takane
会場 OIL by 美術手帖
会期 2020年7月31日(金)〜8月18日(火)会期中無休
開場時間 11:00〜21:00
住所 〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷パルコ2階
電話番号 03-6868-3064
観覧料 無料
アクセス 渋谷駅ハチ公口徒歩5分
URL http://oil-gallery.bijutsutecho.com
Twitter @OILbyBT
Instagram @OILbyBT
※開館状況・開場時間は、渋谷パルコの営業時間に準じます。渋谷パルコ公式ウェブサイトをご確認ください。
Shohei Takasaki
1979年埼玉県生まれ。2009年に初個展「split head」(PRISM、東京)を開催。12年「FEW COLORS IN THE DARK」(Space Edge Shibuya、東京)、13年「BLIND」(CALM & PUNK Gallery、東京)ほか。13年からポートランドを拠点にかまえ、国内外で活躍。13年、メルボルンで個展「TAKE ME TO YOUR LEADER」(BACKWOODS Gallery)開催。14年、クウェートで日本人初個展「DOUBLE SURFACES」(Dar Al Funoon Gallery)、17年〜19年に東京やポートランドで個展開催。ほか、グループ展に多数参加。19年帰国。現在は東京を拠点に活動。