PC画面上でストーリーが進む斬新なサスペンス映画にみる、“現代スクリーンライフ”に隠れた人間模様『search/サーチ』|GOOD CINEMA PICKS #017

2018.10.21

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私たちの多くは、一日の大半をスクリーンの前で過ごしている。人とのコミュニケーションにLINEなどのメッセンジャーアプリはもちろん、ソーシャルメディアは欠かせない。そんな時代のリアルが描かれたサスペンス・スリラー映画『search/サーチ』が、アメリカや韓国でヒットを飛ばしている。

インターネット時代の人間心理を描写

同作が話題となっているのは、ハリウッド映画にはまだ少ないアジア系が主演を務める作品であることだけではない。特徴的なのが、会話の大半がメッセンジャーアプリやテレビ電話を通して行われるなどオープニングを含む全編がPC画面で進んでいき、パソコンやスマートフォンが暮らしの一部となった現代的なライフスタイルやコミュニケーションのあり方が映し出されるところ。PCなら、カーソルの動きやキーボードのバックスペースキーを連打する操作に登場人物の細かな心情が表れる。

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予想もしなかった方向に結末が向かう同作のストーリーは、行方不明となった娘マーゴット(ミシェル・ラー)を探したい一心で、父親デイビッド(ジョン・チョー)が彼女のソーシャルメディアアカウントにログインするというもの。ソーシャルメディア上での振る舞い方は人それぞれだが、その人のリアルライフでの姿とは違った面がみられることも少なくないだろう。さらに、ソーシャルメディア上でのやり取りを見れば、ただ一緒に生活しているだけではわからない複雑な人間関係がみえてくることだってある。

ソーシャルメディア上での振る舞いに関していえば、娘の行方について真実がわからないなか、フェイスブックの「いいね!」のために捜索活動に参加したり、悲劇のヒロインになりたいがために娘の親友であるふりをしたクラスメイトが“悲しむ”姿を伝える動画を作ったりするといった行動に出たさまが描かれている。

メッセンジャーアプリ、フェイスブック、ツイッター、インスタグラム、ライブ配信の履歴、銀行口座の明細ページ。他人のアカウントに侵入することは明らかなプライバシーの侵害ではあるものの、父親はそれを通して、娘の交友関係や行動、抱えていた思いなどを知ることになる。インターネット上のサービスは便利な反面、同様の“手口”で誰かに不正アクセスされるリスクがあることを忘れてはならない。

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監督を務めたのは、同作が劇場用映画監督デビューとなった27歳のアニーシュ・チャガンディ。彼は南カリフォルニア大学で映画制作を学び、全編グーグル・グラス*1で撮影した2分半の短編映画『Seeds』が話題を呼んだことからグーグル・クリエイティブ・ラボに招かれ、グーグル社のCM制作などに携わった。

大学で彼の指導者だった映画制作者で今回制作に関わったティムール・ベクマンベトフと、チャガンディ自身、そして共同で脚本・制作を務めたもうひとりの若手フィルムメーカーのセブ・オハニアンに浮かんだのが「現代人が日常的に使用している通信技術やデバイスを使って、ハイパーモダンなサスペンスを作ろう」というアイデア。彼らのいう、現代人の“内面”を浮き彫りにするのに不可欠な“スクリーン・ライフ”の様相を、より忠実に表現する新しいアプローチ法を編み出そうとし、iPhoneやGoProカメラなどを駆使して作られたのがこの『search/サーチ』である。

(*1)メガネ型のウェアラブルコンピュータ

私たちは『search/サーチ』の世界に生きているのか

私たちは日々あらゆるインターネット上のアカウントにログインし、情報の管理やコミュニケーションのツールとして利用する。そんな現実を特に批判するわけでもなく、あくまでも日常の一部として描いているのが同作だ。それを映画館のスクリーンを通して観ると、私たちにとって至極日常的なライフスタイルも、不思議なことになぜか客観的な視点からみてしまう。筆者は本作を鑑賞してから、スクリーンと向き合っているときにまるで『search/サーチ』の世界にいるかのような感覚に陥ることがある。

予告編

※動画が見られない方はこちら

『search/サーチ』

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10月26日(金)全国ロードショー

2018年/アメリカ映画/原題:Searching

監督:アニーシュ・チャガンティ
製作:ティムール・ベクマンベトフ&セブ・オハニアン
脚本:アニーシュ・チャガンティ&セブ・オハニアン 
出演:ジョン・チョー/ジョセフ・リー/ミシェル・ラー
#全編PC画面

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