「何が普通だと、誰が決めるのか」。身体障がいや発達障がい、LGBTなどのさまざまな“違い”を抱える家族の絆を描いた映画『いろとりどりの親子』|GOOD CINEMA PICKS #018

Text: Noemi Minami

Photography: ©︎2017 FAR FROM THE TREE, LLC

2018.11.12

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何が「普通」なのかを知りながら生まれてくる人はいない。
それは、自分が属している環境によって教えられるものである。

何が「普通」かは、多数派の習慣や状態あるいは歴史の反映だったり、時には秩序を守るために意図的に作られたりするもの。

本国アメリカ内外で50以上の賞を受賞したノンフィクション本「FAR FROM THE TREE」が映画化された『いろとりどりの親子』を観ると、自分の「普通」について考えさせられる。

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「病気」か「個性」か?

ニューヨーク・タイムズ紙ベストブックなど、国内外50以上の賞を受賞したノンフィクション本「FAR FROM THE TREE」。作家アンドリュー・ソロモンは、自分をゲイとして受け入れようと苦悩している両親の姿に直面したことをきっかけに、10年をかけて、身体障がいや発達障がい、LGBTなど、さまざまな“違い”を抱える子を持つ300以上の親子に取材。900ページにわたって家族の本質を探ることに尽力した一冊は、24か国語に翻訳され世界中で大ベストセラーとなった。そして、これまで数々の社会派ドキュメンタリー作品を手掛けてきたエミー賞受賞監督レイチェル・ドレッツィンが、本書に深い感銘を受け映画化を決意。ありのままを受け入れ愛する親子の姿を見つめる感動のドキュメンタリーが誕生した。(公式サイトより)

作中では、原作者であるアンドリューとその父ハワードを含めた6組の家族に焦点が当たる。「セサミストリート」に子どもの頃出演していたダウン症のジェイソンと母エミリー、自閉症のジャックと両親オルナット夫妻、マジュースキー骨異形成性原発性低身長症2型という非常に珍しい型の低身長症を抱えるロイーニとその家族、低身長症の夫婦リアとジョセフ、そして16歳で殺人を犯したトレヴァーとその家族たち。この6組に共通しているのは、“違い”を愛する家族の姿である。

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アンドリューは自身がゲイであり、それを親に受け入れられず何年もうつ病に苦しんだ過去を持つ。母親は理解しあえぬまま他界してしまった。一方で「病気だと見なされていた同性愛」が時代とともに「個性」として認められていった過去の40年のプロセスに興味を持ち、「治療すべきものと祝福すべきものの境目がどこにあるのか?」を探るべく、結果10年にわたるリサーチを始めた。

作中で描かれる障がい者の家族たちの苦労とともに、それぞれの家族のユニークな秩序や文化を観ていると、それが彼らにとっての「普通」であり、まさに「治療すべきものと祝福すべきものの境目がどこにあるのか?」を考えさせられる。

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さまざまな理由で「普通の家族」の型に当てはまらない6組に学べるのは、彼らが自らの手で「彼らの普通」を築きあげていることである。

りんごは木から遠いところへは落ちない?

本書と映画の原題「Far From the Tree」は“The apple doesn’t fall far from the tree”(りんごは木から遠いところへは落ちない)ということわざに由来する。「子は親に似るもの」という先入観に対して問題提起をしている今作。

一般的に「親は子どもを無条件に受け入れる存在」として理想化されているような気がするが、自身が家族問題に苦しんだ過去を持ち、10年をかけて300以上の親子を取材したアンドリューは最後にどんな答えを見つけたのだろうか。彼は次のように述べる。

私は愛と受容を混同していた。ゲイとしてカミングアウトすることで、両親から愛されなくなったと感じていた。しかし、この本や映画に出てくる人々の話を聞くうちに、親の愛は子どもが生まれてからずっと存在しているけれど、親が子どもを受け入れること=受容は、生涯かかるプロセスだということがわかった。

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親子であれ家族であれ、ひとりひとりはまったく異なるユニークな個人である。だから、関係を築く必要があり、お互いを「受容」するためには努力をする必要もある。そんなプロセスを人一倍感じざるをえなかった『いろとりどりの親子』に出てくる家族たちの絆は強い。少し大きな規模の話になるが、多様性が謳われる今日において違いを受け入れることは「条件」ではなく「プロセス」であるということは、知っておくべき重要な前提なのではないだろうか。

『いろとりどりの親子』

Website

2018年11月17日(土)新宿武蔵野館ほか全国順次公開

監督:レイチェル・ドレッツィン

原作:アンドリュー・ソロモン「FAR FROM THE TREE:Parents, Children and the Search for Identity」

音楽:ヨ・ラ・テンゴ、ニコ・ミューリー

2018年/アメリカ/英語/93分/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch/原題:FAR FROM THE TREE

日本語字幕:髙内朝子

©︎2017 FAR FROM THE TREE, LLC

提供:バップ、ロングライド 配給:ロングライド

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