「20世紀に94%の野菜種子が失われた」。激減する種の多様性を守る人々の物語『シード〜生命の糧〜』|GOOD CINEMA PICKS #023

Text: YUUKI HONDA

Photography: © Collective Eye Films

2019.6.26

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あなたは、普段食べている野菜に多くの品種があることを知っているだろうか。

野菜の名前を一口に言っても、それらが育った土地の気候や土の性質によって、それぞれ味も形も色も変わってくるから、正確な数は数えきれないほどある。考えてみれば、育った環境によってさまざまな特徴を持った野菜が生まれてくるのは当然だ。

しかし現在、そんな野菜の多様性が急速に失われている。

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「20世紀に94%の野菜種子が失われた」

「20世紀に94%の野菜種子が失われた」。

野菜種子の多様性が失われつつあるという現状に、大きな危機感を持ち行動する人々を追った映画「シード〜生命の糧〜」。劇中でこのナレーションが冒頭を飾るのだが、ここ1世紀の間に94%の野菜種子が失われたというのは驚くべき事実である。

例として示されるのが、キャベツやアスパラガス、トウモロコシやニンジン、ナスといった馴染み深い野菜たちで、例えばキャベツは544種から28種に、アスパラガスは44種から1種にまで種子の種類が減ったという(いずれもアメリカ国内の数字)。

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この映画には特定の主人公はおらず、複数の視点から野菜種子を巡る現状が語られるドキュメンタリーだ。

例えば数千の野菜種子を個人で保存しているという農家のおじいちゃんや、先祖代々伝えられてきた野菜種子を守り続けるアメリカ先住民族の族長が登場する。

そのほか、サーファー、弁護士、学者、研究者など、その立場はさまざま。共通しているのは、それぞれがそれぞれの立場から、野菜種子の多様性の確保を訴えていることだ。

その理由を、ある人は「消えつつある野菜種子を未来に残すためだ」と話し、ある人は「地域社会が伝えてきた伝統野菜を子孫に受け継ぐためだ」と言う。

しかし、そもそもなぜ、野菜種子の多様性がここまで急速に失われつつあるのだろうか。

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特定の企業による野菜種子の寡占

野菜種子の多様性が急速に失われているその大きな要因は、特定の企業による野菜種子の寡占にある。

劇中に登場するとある多国籍企業は、遺伝子工学を駆使し、野菜種子の遺伝子組換えに成功。これを根拠に特許を申請し、さまざまな野菜種子の所有権を取得。そうして独占した野菜種子を農家に販売し、継続的に利益を上げ続けるビジネスモデルの構築に成功。いわゆる寡占による利益の独占だ。

特許による所有権が発生した野菜種子は、誰かが勝手に採種することができない。加えて、市場に出回る野菜種子は企業経由の限られたものが増えているため、野菜種子の多様性は激減しているのだ。

また、自分たちで管理できる野菜種子を持たない農家は、毎年のように企業から種を買わざるを得ない。この状態でひとたび不作に見舞われれば収入は激減し、次の種付けをするために借金をしてまで種を買わなければいけなくなる。

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そうして借金にまみれる農家が増えており、特にインドではそうした人々が続出。多くの農家が危機的な状況に追い込まれているという事実が描かれる。

また劇中で、アメリカの元国務長官であるヘンリー・キッシンジャーが語った、「国は原油で、人々は食物で支配できる」という言葉が登場し、続いて「食物は種で支配できる」というインドの活動家ヴァンダナ・シヴァの言葉が引用される。

そしてその種を支配しようとする企業が存在するというのだから、背筋の冷える話だ。

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ヴァンダナ・シヴァ

ちなみにこの特定企業による野菜種子の寡占は、日本にもその影響が及ぶ可能性が取り沙汰されており、この頃、農業に携わる人々を中心に議論が絶えない。

決して対岸の火事ではないのだ。

種の多様性を知る

普段スーパーなどで見かける野菜の見た目はそう変わらないように思えるが、例えばキャベツ一つとっても、かなりの種類のものが存在する。

ではなぜ、現在市場に流通している野菜の多くがいつも同じ見た目をしているのかというと、農業協同組合(通称JA)の働きが大きい。

全国の農家から安定供給に向いている野菜(疫病耐性や環境変化に強い種類)を、それぞれサイズや形を揃えて買い取り出荷している農業協同組合に、私たちの生活は支えられているのだ。

しかしそのため、基本的に私たちが普段の生活で目にする野菜の種類は、せいぜいが両手で数えられるほどであり、であるから、それぞれの野菜に多様性があることに気づかず暮らしているともいえる。

この映画は、種を支配されることの危険性に気づき、この驚異に対して勇敢に立ち向かう人々を追っている。画面の向こうに見る彼らの戦いは、私たちの生活とも地続きだということを肝に銘じたい。

予告編

※動画が見られない方はこちら

『シード〜生命の糧〜』

公式サイト

2019年6月29日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
監督:タガート・シーゲル、ジョン・ベッツ
配給:ユナイテッドピープル
2016年/アメリカ/94分

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