日本に空前のサウナブームが到来して久しいが、フィンランドが「サウナ大国」なのは有名な話である。
サウナはフィンランド人にとって日常には欠かせないものらしい。「一家に一サウナ」といっても過言ではないというくらいで、日本で暮らす人には考えられないかもしれないが、フィンランド人はオフィスにあるサウナでビジネスパートナーとサウナを共にすることもあるらしい。
そういった意味では、サウナをテーマにしたあるドキュメンタリー映画がフィンランドで大ヒットしたのも不思議ではないかもしれない。
フィンランド・アカデミー賞(ユッシ賞)2011で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞し、ヨーロピアン・フィルム・アワード2010にノミネートした作品であり、フィンランドで1年以上ロングラン上映されたドキュメンタリー映画『サウナのあるところ』は、サウナに入った裸の男たちの告白を記録した映画である。
監督が3年かけてフィンランド中を駆け巡り出演してくれる男性たちを探したという本作。
サウナという空間で、一般男性が彼らの人生についての非常にパーソナルな部分を赤裸々に話していく。
私たちが名前すら知ることのない男たちの、人生の恥や後悔、そして傷。
観客からすると、見ず知らずの人間の深い深い傷をスクリーンを通して観察する、というのは興味深い体験である。おまけに男たちは裸であるから、それは奇妙な体験でもある。
「サウナ大国」というくらいなので、作中観ていて楽しいのは、多種多様なサウナの形。日本で見るようなボックスタイプのサウナから、車をサウナにしたもの、電話ボックスをサウナにしたもの、と面白いDIYサウナがたくさん登場する。裸で(時にはサンタ姿で)そんなサウナに入っていく男たちの姿にユーモアすら感じてしまうが、その中身はちっとも笑えないものもある。
子どもと離れ離れになった父親、継父から虐待を受けていた男、事故で人を助けることができなかった汽車の運転手…。
男は泣いちゃいけない…そう教えられてきたからーーー
亡くなった子供を前に途方に暮れる
存在しない答えを求めて
あとになって気づいた
探し求めていたのはーーー
自分が生き続ける方法だった
(作中の、娘を無くした父親のセリフより)
フィンランド人男性はシャイで自分のことを話したがらないというから、もしかしたら作中の男たちの告白は、それを観る観客にとっては新鮮で、そして同時に必要としていたものだったのかもしれない。
自分の心の奥に抱え込んだ辛い記憶や、思いを伝えるのには一種の勇気が必要である。程度は違えど多くの場所に存在する「男は感情的なっちゃいけない」なんていう社会的風潮を覆す、勇気あるエモーショナルな男たちの姿に、何かを感じざるを得ない作品となっている。
予告編
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