「社会のシステムの最初の犠牲者は子どもなんです」現代の“哀れな人々”を描いた衝撃作『レ・ミゼラブル』|GOOD CINEMA PICKS #028

Text: Noemi Minami

2020.2.27

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「レ・ミゼラブル」は、フランス語で「哀れな人々」を意味する。

この言葉はフランスの作家ヴィクトル・ユーゴーの長編小説のタイトルとして日本でもよく知られているのではないだろうか。同小説は何度も映画化され、不動の人気を誇るミュージカルでもある。原作が書かれたのは、実に158年前にもさかのぼる。

2019年、同名の映画が第27回カンヌ国際映画祭で審査員賞に輝いた。
その映画の舞台は、ヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』の舞台でもあるパリ郊外のモンフェルメイユだという。歴史的大作と同じタイトルに挑戦的な態度を感じながら、「現代の哀れな人々」を描いているのかとすぐに想像が広がった。

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民衆の歌が聞こえるか?
怒れる者たちの歌う声が
それは民衆の歌う歌

監督がどこまでヴィクトル・ユーゴーの小説を意識したのかは定かではないが、この映画はミュージカル版のレ・ミゼラブルの『民衆の歌』の歌詞を彷彿させた。

舞台であるパリ郊外に位置するモンフェルメイユは、移民や低所得者が多く住む地域。犯罪防止班に新しく加わることとなった警官のステファンは、チームメイトの2人と共にパトロールをするうちに地域の複数のグループ同士が緊張関係にあることを察知する。そして同時に人種差別的で、市民に権力を振りかざす仲間の警官に疑心感を持ち始める。
同日、イッサという名の少年が引き起こした些細な出来事が大きな騒動へと発展。転勤初日から事件解決へと奮闘するステファンだが、事態は取り返しのつかない方向へと進み始める…。

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本作が初の長編映画となるラジ・リ監督は、舞台となった地域に生まれ育ち、現在も住んでる。2020年2月に来日して行った舞台挨拶で監督は自身を「証言者」と表現していた。

映画に起こっていることはフィクションであるが、それはこの地域にとっての現実でもあるということだろう。出演している子どもたちは、演技の経験が全くない地域の子どもたちをキャスティングしたという。「社会のシステムの最初の犠牲者は子どもなんです」と監督は話す。

僕自身映画の舞台となった地域で育ってきて、10歳の頃にすでに警察から職務質問を受けました。10歳で警察に尋問されるって、やっぱりそれは自分のなかで大きな印象として残ってしまう。それを抱えて10代を過ごして、暴力性というものに立ちあってきました。

監督は実際にこの地域で自身が経験してきたことをふまえて、そんな社会で子どもたちはどう生きていくべきなのか、どうすればそんな世界はよくなるのか、そんなことを考えながら彼らを描いたという。

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また、この映画では思わず目を背けたくなるような内容を扱っているにも関わらず作中にユーモアも感じられるのだが、それこそが「現実」なのだと監督が話していたのが印象的だった。

ストーリー自体は結構ハードだと思います。見るのが辛いところもあるでしょう。でもそれだけじゃないんです、僕らが生きているあの社会には。やっぱりいろいろと恋なんかがあって、子どもたちがいて、エネルギーに溢れていて…みんな大変だけれどもなんとか笑って冗談を言い合ったりしているんです。

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都内で行われた舞台挨拶でのラジ・リ監督

2019年カンヌ国際映画祭で審査員賞に見事に輝き、例年にも増して話題の新作が並ぶなか、ポン·ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』と並んでカンヌ国際映画祭における最高賞であるパルムドールを競い、世界中にセンセーションを巻き起こした本作。その後も、アカデミー賞国際長編映画賞ノミネート、フランス版アカデミー賞であるセザール賞では作品賞・監督賞・オリジナル脚本賞など最多12部門でノミネート、ヨーロッパ映画賞でディスカバリー賞(新人監督賞)受賞、スペイン版アカデミー賞であるゴヤ賞でヨーロッパ映画賞受賞、ゴールデン・グローブ賞の外国語映画賞にノミネートを果たすなど、世界各地で高い評価を受けている。昨年11月に公開されたフランスでは観客動員200万人を突破する大ヒットを記録した。この映画を見たフランスの大統領エマニュエル・マクロンは「映画の舞台となった地域の生活条件を改善するためのアイデアを直ちに見つけて行動を起こすように」と声を上げたという。

すでに約50ヶ国での公開が決まっている本作のプロモーションで世界中を訪れて、監督はそれぞれの場所でこの映画が「自分たちの問題だ」と認識されていると感じたという。映画が扱っている問題は、パリの郊外に限らず普遍的だった。自身の生きた体験から生まれた本作はまさにラジ・リ監督の、映画という形を使った「証言」なのである。

予告編

※動画が見られない方はこちら

レ・ミゼラブル

公式サイトFacebookTwitter

#レミゼじゃないレミゼ

2月28日(金)新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー

配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES  
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ·フランセ日本
監督·脚本:ラジ·リ 
出演:ダミアン·ボナール、アレクシス·マネンティ、ジェブリル·ゾンガ、ジャンヌ·バリバール
原題:Les Misérables/2019年/フランス/フランス語/104分/カラー/シネスコ/5.1ch ©SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS

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