日本でもメイクアップアーティストには男性が少なくないし、「化粧する若い男性」がメディアで取り上げられることも今に始まったことではない。また世界では化粧品の広告に男性が登場したり、トランスジェンダーの人をフィーチャーしたコスメラインが発売されたりと、化粧品業界は排他性をなくしつつある。だがそれでも、未だ化粧品売り場は女性のものだと思われる傾向が強く、外見が「女性」に見られない人にとっては行きやすい場所ではないかもしれない。
トランスジェンダーの人向けのメイクアップ講座を開いていたメイクアップアーティストが、そんな状況に危機感を感じて、ついに化粧品ブランドをスタートさせたという。
あなたは、買い物するときどんな基準で商品を選んでいるだろうか。もしあなたの気に入っている商品を販売する企業が、不正を働いたり環境に悪影響を及ぼす事業に資金提供したりしていたらどうするだろう。
企業や商品作りにおける考え方に賛同できない場合、その企業やブランドの商品を「ボイコット(不買運動)」するという方法がある。これは買い物が「投票」に例えられるように、消費者の力で信頼や賛同のできない企業の商品にお金を出すのをやめ(票を入れるのをやめ)、企業の経営を成り立たなくさせ社会をより良くする(より良い企業に投票する)というもの。
そこであなたがボイコットしたいとき、またはボイコットとは関係なく単純に人や環境に良い商品が欲しいときに、参考となる商品カタログをBe inspired!が作成することを決意。その名も「GOOD GOODS CATALOG(グッド グッズ カタログ)」。
化粧品は「女性」のものなのか?
実際のところ、外見が“女性的”でない人が化粧をすることに嫌悪感を示す人は多くないかもしれない。だが現在の大きな問題は、主に化粧品が女性向けに作られてきたところにある。特に自分自身を女性だと自認しているトランスジェンダーの人は、そのせいで自分を否定してしまうことが少なくなかったというのだ。自分が望む自己表現(化粧)はしてはいけないものなのかもしれない、と。
そこで#MakeUpHasNoGender(化粧に性別はない)をモットーにイギリスで始動したブランドが「JECCA Makeup」(ジェッカ・メイクアップ)。ユニセックスな商品なだけではなく、ビーガンで、動物実験を用いていないところが特徴だ。現在扱われている商品は、全6色ある肌の色のムラを整えるパレットで、ニキビの跡やヒゲの剃り跡、タトゥーまで隠すことのできる優れもの。
トランスジェンダーの受刑者たちを思って
メイクアップアーティストでJECCA Makeupの創始者のJessica Blackler(ジェシカ・ブラックラー)は、同ブランドを立ち上げる前、男性の受刑者が入所している刑務所に服役している人から刑務所内でのメイクアップレッスンを頼まれたという。そこで彼女は女性と自認するトランスジェンダーの受刑者たちが、男性と自認する人たちと同室で過ごせなければならず苦しむ様子を目の当たりにした。
そこで彼女たちに向けてメイクアップレッスンを行うことで、彼女たちをいい意味で結束させられたことから、トランスジェンダーのコミュニティに合った化粧品を作れないかと思いつき、ブランドの立ち上げにつながった。また、それにあたって所持品に制限のある刑務所でも使える機能的な化粧品として、手で直接塗ることができ肌の色のムラの補正ができるものをまず商品化したという経緯がある。
商品を作ることで、社会を変える
社会に浸透してしまった「化粧品は女性のためのもの」という固定観念を壊すためのアプローチの仕方はさまざまだが、性別を問わない化粧品のブランドや商品自体を作ることは、従来の化粧品が性別で人を排除している面を持っていることに気づかせ、「化粧品は化粧をしたい人すべてのもの」だと訴えるのに最適な方法かもしれない。商品が存在すれば、社会にその事実を認めさせ、それを使う人たちの需要があると証明しやすい。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。