ここ2年ほどで、アパレルブランドによる在庫焼却のニュースを頻繁に目にするようになった。
「ひどい話だな」
そんなことを思いながら、次の瞬間には好きなブランドの最新作を注文する。これまではあんまり好きじゃなかったコーデュロイ生地のスカート。欲しくなったのは、きっとそれが流行っているから。
このように、約半年ごとに移り変わる流行と、現れては消えていくファッションアイコンに導かれ、筆者は服を買う。
つまり、筆者は“北を失っている”のである。
北を失う、とはスペインの慣用句「ペルデル・エル・ノルテ」の和訳であり、この言葉は、昔、旅人が北の星を目印に歩んでいたことに由来し、目指すべき北を失い無秩序に行動することを意味する。
「ペルデル・エル・ノルテ」を引き合いに、ファストブランドの台頭で倫理的に迷子になったファッション業界の「北」となることを目指し、設立されたブランドがある。
それが、アメリカのファッションブランド、「NORTE（ノルテ）」だ。
ノルテの創始者であるInés Vieira（イネス・ヴィエラ）はスペインのガリシア出身。彼女はイネスの地元の文化からインスピレーションを受けながら、持続可能なファッションの楽しみ方を模索している。
では、持続可能なファッションとは一体どのようなもので、どんな手法で実現できるのだろう？
そんな疑問を、実際にイネスにぶつけてみた。
－はじめまして！まず、ノルテの哲学について教えてください。
ノルテの哲学は、「持続可能は美しい」です。そのために、長持ちし、流行りに関係なく、いろいろな用途に使えて、とてもスタイリッシュな、女性たちがどんな季節でもどんなスタイルでも身につけられるような服を作りたいと思っています。この目標を達成するために、私たちは、すべての女性の美しさを高めるシルエットに焦点を当て、環境に害を及ぼさない持続可能な布で衣服を作っています。また、売れ行きが悪い商品の過剰在庫を避け、地元の工場で私たちの目に届く範囲で製品を製造するために、少量生産を行っています。
－ノルテを始めるきっかけはなんだったんですか？
私は物心ついた時からずっと服やドレスアップが好きなんです。実際に、12歳のときに作ったファッションスケッチをいまだにいくつか持っていますし、ビジネススクールを卒業後、大手のファッション小売業者にて、バイヤーとして働いていました。
ファッション業界の大手で働いてみると、確固たるビジネスモデルを持っているんだと実感する一方、その仕事は私のものではないな、とも感じました。要するに、膨大な利益を生み出す反面、過剰な在庫を抱えてしまうようなやり方は性に合わなかったんです。私は違ったやり方で洋服を作りたいと考えました。そして、綿密に計画を立て、ノルテが生まれました。
－Instagramやオンラインショップを拝見しましたが、オレンジやココナッツ、ガーリックにかぼちゃなど、様々な食べ物をルックに使っていますね！なぜ食べ物なのですか？
食材をルックに使っているのにも理由があるんです。第一に、私は自然や、野菜、果物などに見られる色や質感が大好きです。次に、実際に食材をルックに入れ込むことで、最も単純な物のなかで、美しさがどのように見出されるのか、また、美しいものは身の回りにあるんじゃないかということを実証したかったのです。
私は、日々の生活に注意を払い、日常の物のなかで美しさを見出そうと努力しているんです。
－ウェブサイトには「伝統的な製造手法で、時代を超越して生き残るために服をつくることに専念している」と書かれていますが、伝統的な製造手法とは何ですか？そして、それをどのように生き残らせていくのでしょうか？
伝統的な製造とは、伝統的な技術を使用する工場における製造をさします。私の故郷であるスペインと現在住んでいるアメリカは、共に、その昔、伝統技術を持った工場が非常に一般的でした。しかし、残念ながら80年代後半には、製造の中心が労働力が安価な海外への移動してしまいました。それに伴い、多くの伝統技術を持った工場が消えました。今なお存続する伝統技術を持った製造工場は、欧米のごく一部にのみ残っています。私たちは、こうした工場の人々と共に働けることを非常に誇りに思っています。
また、「時代を超越する服」とは、品質が高い洋服を意味します。布の選択と縫製の仕方にこだわることで、品質の良い製品を作ることができます。
－既存のファッション市場において、ノルテが特に問題だと感じているのはどんなところですか？
私は衣服はもちろん、職人技やディティール、装いが好きです。ですので、既存のブランドの素晴らしいファッションスタイルを見るのが大好きです。
一方で、特にファッションにおいて潜在的に存在する流行というものが嫌いです。この瞬間的な流行の模倣のために、過度な消費をしてしまうと、結果的に、たいして着たくもない洋服に囲まれることになります。
もう一つ、私が不満を持っているのは、環境を汚染する洋服たちです。生地によっては、多くの水とエネルギーを必要としますし、そうじゃない生地であっても、環境を汚染するような染料で着色されている場合があります。
そう考えると、ファッション業界というのは、消費者自身にとってたいした価値を持たない洋服を製造するために、多くの環境汚染を生み出すことになりますよね。私はそうした無意味な洋服の流通が本当に嫌いです。
－それでは、これから先、ファッション業界においてどんな未来を期待しますか？
リネンや竹、石油を必要としない再生セルロース繊維、オーガニックコットン、麻など、自然の生地を使用することで、ファッション業界がより持続可能になることを期待しています。消費者はファッション業界が抱える多くの問題を認識していると信じています。だからこそ、私たちのような作り手は、より良い選択肢のを作るべきなのです。そこで、重要なのは、企業が持続可能な選択肢を各予算に組み込んでいくことだと思います。
将来的には消費者教育と透明性が向上し、誰もがファッションの本当の価値を理解できるようになることを願っています。これが私たちがノルテで推進しようとしていることです。
ノルテの洋服への思い、そして確固とした思想を知って、瞬間的な洋服じゃなくて、過去から受け継ぎ未来へ受け渡せる、そんな洋服を着よう、と思った。
読者の皆さんもノルテが提供する“永遠”を味わってみてはどうだろう？
