服をシェアする男女のカップルは少なくない。しかし、下着はどうだろうか。
思想のあるブランドを紹介するGOOD WARDROBEで今回ピックアップするのはタイプ・サイズ・カラーに区別がなく誰でも着ることのできる下着を開発した「REING(リング)」だ。原点が指輪作りにある同ブランドは、「男女のカップル」や「結婚」などの指輪業界の“当たり前”に疑問を持ったことをきっかけに、自分自身との関係も含めた「自分自身が紡ぐすべての関係性」にフォーカスを当てたプロダクト制作やイベントの開催、メディア発信などを行なっているブランドである。
NEUTは、代表を務める大谷明日香(おおたに あすか)に話をうかがった。
ーまずはじめに、ブランドの簡単な説明をお願いします。
REING(リング)は「Every relationship is beautiful. -私たちが紡ぐ、すべての関係性は美しい-」をフィロソフィーに、身に着ける人の性別を規定しないジェンダーニュートラルなプロダクトの開発や、人々が集まるコミュニティスペース「REING Living」の運営、動画やインタビュー、イベントなどのコンテンツ開発も行なっています。“relationship”はさまざまな意味で捉えられると思うのですが、REINGでは「自分自身が紡ぐすべての関係性」を指しています。全ての活動に共通しているのは「#formepositive(自分自身との関係性をポジティブに紡ぐ)」という考え方。REINGに共感してくれているモデルやアーティスト、デザイナーなど、ラベルにとらわれず自己表現をしている人たちと共に、さまざまなプロダクトやイベントを創っています。
ーブランドを立ち上げた経緯を教えてください。
もともとは、指輪をつくろうという話から始まりました。10年ほど指輪ブランドを経営されている方とお話をしたときに、「指輪って、まだ男女カップルのためのものっていう認識しかないんだよね」ってお聞きして。そのとき、確かに“カップル”って検索すると男女しか出てこないし、“人の幸せ=結婚”みたいな「見えない常識」とされている概念って、本当に根強くいろいろなサービスやプロダクトに反映されているんだなと思ったんです。皆同じように人間としてこの世に誕生したはずだけど、気づけば、生まれたその瞬間から「性別」「年齢」「国籍」っていろいろなラベルが貼られていく。そのラベル自体は悪いものじゃないけれど、あまりにそこについたイメージが固定化されすぎて、ほんの何十通りの「常識」だけで、その生き方が正しいとされたり、祝福されたり、批判されたりするのがすごく変だなって思って。この地球には70億以上の人たちが暮らしていて、その一つ一つが違って当たり前なはずなのに。自分自身が誰と、どう生きていくかって「その人の心」で決められるものだと思うんです。
私自身、田舎の出身で小さい頃から「女の子なのに」と言われることが本当に多く、大学進学で東京に行くと言ったときも周囲から「何でわざわざ」とその選択自体を否定されることもありました。女の子だから、男の子と付き合うべき。女の子だから、ピンクや可愛らしいものが好きであるべき。女の子だから、田舎で実家を手伝うべき。いや、そうじゃない。私だから、私しか紡げない関係性や人生がある。そうやって自分と向き合いながら、心の声を信じて一つ一つの選択を繋いできたことで「自分らしさ」というものが形成されてきているって感じていたので、関係性を築くことって生きることそのものだなって。そこでRIENGというブランドを立ち上げ、世の中にあるラベルへのイメージを乗り越えて、すべての人が「わたしらしさ」を紡げるプロダクトやコンテンツを世の中に送り出していきたいって思いました。
ーアンダーウェアのコンセプトはなんですか?>
「心地よい自分でいる」ためのアンダーウェアです。ブラレット 、ボクサーパンツ、トランクスの3種類で、型・カラー・サイズで性別の区別がないデザインにしています。REINGには年齢や性別を規定したターゲットは存在しません。私たちがこの下着を着てほしいのは「“自分であること”を楽しみたい」と願うすべての人。だから、「男性用/女性用」という表記を一切外し、身体に寄り添う着け心地にとことんこだわっています。サイズのみを記載していて、S/M/L/LLの4サイズ展開。
通常下着をはじめ、たいていのモノって男女で分けられていることが“普通”で、そのデザインの多くに男性らしさ、女性らしさという見えないフィルターがかけられていると思います。生まれ持った体と心はそれぞれ人によって異なるのに、いまだ性別への“イメージ”を軸にモノがつくられている。男性の体を持ちながら女性として暮らす人、男性だが“女性向け”とされるデザインが好きな人、付けることが常識とされるブラジャー自体が苦手な女性など、さまざまな人がいることこそが、“普通”だと私たちは考えていて、そんな誰かの「当たり前」を大切にしたいと思いました。だからこそ、プロダクト開発の時点でイベントを通じてたくさんの方に触れてもらい、男女の身体的な特徴・違いを鑑みながら、性別を問わず試着を重ね、誰もが身につけられる形と着け心地を追求しました。どんな心と体でも、あなたが好きだと感じたら手に取ってほしい。そしてこの下着をつけているときは、心地のいい自分で過ごせるように。そんな想いを込めています。
例えば、ボクサーパンツは前にスリットが入っています。一見「これは女性の体には必要ない」と感じられると思いますし、男性でもスリットがいる派、いらない派に分かれました。いる派の人にも使ってほしいけど、無駄な機能をつける必要はない。だからこそ、どういったデザインならすべての人に心地よく使ってもらえるのかを徹底的に考え結果的に、スリットをつけることで身につけた際の圧迫感を減らし、平面的にも立体的にもそれぞれの体に優しく馴染む構造にすることができたんです。下着にはあまり使用されない、土に還る再生繊維のアウトラスレーヨンを用いているのですが、伸縮性がかなり高いので、同じSサイズでも幅広い体型に対応できます。この柔らかい生地を下着のパターンで縫うのはかなり面倒なそうで、秋田の工場の方たちと直接お話し、アイディア出しを重ねながら、一つ一つ手作りで作ってもらっています。工場は長年勤められているご年配の方が多いのですが、そのお仕事が好きな方たちばかり。私たちのコンセプトを「自由でいいわね!」とすごく応援してくださって。「これは大変よ〜」と言いながらも、「こうしてやればできそうね」と議論しながら進めてくださいました。いろいろな方の声と知恵が重なってできたのがREINGのアンダーウェアです。
ーメディアとして、モデルやファッション業界で働く人、お笑いコンビのジャルジャルなどもインタビューしていますが、どうしてメディアを運営しようと思ったのですか?特に印象に残った言葉や考えがあれば教えてください。
実はメディアをつくろう!と思っていたわけではないんです。指輪をつくるプロジェクトを始めたとき、私自身の経験は、私のものでしかないから、もっといろいろな関係性を紡いでいる人に話を聞きたいなって思って。特に今「普通」とされていない選択をしている人たちや、フォーカスされていない関係性を紡ぐ人たちに会って話をしました。ここ2-3年で風潮がだいぶ変わったなと感じているのですが、ブランドを立ち上げる準備をし始めた3年ほど前は、まだあまり表立って自分が選択した関係性について語る人は少なかった。自分自身のことや、誰かとのパートナーシップの形って何百通りもあるはずだけど、「結婚」や「恋愛」で括られていて「その他」が見えにくい。だからこそ、「“普通”の幸せの形=それら」として認識されちゃうんだなって。
一方でそれ以外の選択をする人たちについて語るさまざまなメディアでの情報にふれて感じたのは「その選択をすると、いかに大変か」という印象が強いこと。だけど、実際にいろいろな人と会って「自分で選んだ関係性を全うしている人は、皆本当に幸せだ」ということを強く感じました。結婚せずに生きていくことも、入籍しない結婚も、同性と生きることも、性別を変えて生きることも。だから、皆が、自分が思うような選択をしても大丈夫だよ、そうやって生きることが私たちの幸せだよ、っていうことを伝えたくて「記事にさせてほしい」ってお願いするようになりました。
例えば、仕事で大事なパートナーがいる人だっているじゃないですか。ジャルジャルさんは、たまたま写真集で、裸で2人で絡み合っている写真を見かけて「恋人でも家族でもなく、ここまでお互いを曝け出して関係性を紡げるって本当にすごい」と思って話を聞きたくなったんです。彼らは、仕事のパートナーとしてお互いを必要とし、同じ目標に向かっている。そういう関係性だってこの世界に存在していて、尊重されることだよなって。全部、本人が自分のためにそれを願うから、当たり前に幸せなのだと。
他には最近、RioちゃんとRunaちゃんという2人にインタビューをしたんですけど彼女たちは「恋人とか友達とか、自分たちの関係性をカテゴライズしたくない」って話してくれたんです。名前やラベルがあることで便利なことはたくさんあるけれど、そこには必ずイメージが存在するから、人から思わぬ方向でジャッジされてしまうことがある。形やあるものにとらわれずに、自分らしい気持ちを紡いでいけたら、きっと私たちはもっと自由に生きることができる。REINGのインタビューや、コンテンツはそんなことを伝えたくてやっています。
ー“Every relationship is beautiful.”を掲げていますが、現在の日本でまだ理解が足りない「関係」はどんなものがあるとお考えですか?また、それに対してどのようなアプローチをしていますか?
RIENGでは「自分自身が紡ぐすべての関係性」といっているように、自分を起点にしています。自分との関係性をポジティブに紡いでいく際、やはり私たちの周囲で多くの人がぶつかっているのがジェンダーバイアスです。「女性だから」「男性だから」といった性別を理由に、好きな人/好きなもの/好きなことと関係性を築くこと、そして自分の未来を諦めるといったことがないように、誰かにとっての「普通」を当たり前にしていけるプロダクトやコンテンツを考え続けたいと思っています。私たちは、法律や制度自体に直接アプローチすることはできないかもしれないけれど、「本当にありたい自分でいてもいいんだ」と思えるようなプロダクトやクリエイティブ、コンテンツを開発することはできるから。まずは、今の社会で「普通」とされている性別に対する強いイメージを少しでもアップデートしていけるような活動をしていきたいです。
ープロダクト制作やメディア発信など、さまざまな形のプロジェクトに取り組んでいますが、今後挑戦してみたいものはありますか?
正直、まだまだ私たちが目指していることを実現していくには力が足りないって思っています。現在、都内に「REING Living」というコミュニティスペースを持ち、性別問わずに楽しめるファッションやメイクのイベント、ジェンダーや自分自身の身体について考え、話す場を創っているのですが、そこを拠点に「人」が起点になってプロダクトやコンテンツが生まれていくといいなと思っています。なので、同じような意思や想いを持ってブランドを展開していたり、活動している人たちと一緒に、連携して世の中にアプローチしていけたらなと考えています。
ー最後に、ブランドとして夢があれば聞かせてください。
ラベルを気にすることなく、自分がありたい姿で自由に語り、一緒に何かを生み出していける場をつくりたいね、という話で都内にコミュニティスペースをつくったのですが、いつか全国に拠点ができるといいなと思います。抑圧されない自由な意思は、何よりも大きなエネルギーに育つと思うから。そういうポジティブなエネルギーがこの場所に集まり発信されるとき、少しだけ世界が前に進むんじゃないかなって信じて、これから活動していきたいと思っています。