月の給料はTシャツ2枚分。ファストファッションの裏側の過酷な労働環境に対して立ち上がった女性を描く映画『メイド・イン・バングラデシュ』|GOOD CINEMA PICKS #030

2022.4.5

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 私たちが毎日必ず身につける洋服。あなたは今着ている服がどこでどのように作られているか知っていますか?
 実は日本に流入している衣服の98%は輸入製品(参照元:繊維ニュース)。私たちが目にするほとんどの衣類は海外で作られている。主な輸出国は中国やベトナムに次いでバングラデシュが多いのだが、近年バングラデシュの繊維産業は急成長している(参照元:日本繊維輸入組合)。
 そんなバングラデシュの繊維工場で働く女性たちの不平等との闘いを描いた映画『メイド・イン・バングラデシュ』が2022年4月16日より公開される。バングラデシュで数少ない女性映画監督のルバイヤット・ホセインが描く本作は色彩豊か。女性のパワーが存分に描かれており、見る者に勇気を与えてくれる。

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 舞台はバングラデシュの首都・ダッカ。主人公のシムは23歳。無職の夫を持ち、繊維工場で働いている。ある日、彼女が働く工場で突然火災が起こり、工場内に警報音が鳴り渡る。過酷で危険な現場で働いているにも関わらず十分な給料が払われないことに不満を抱いたシムは、工場の労働環境についてリサーチしていた労働者権利団体のナシマと出会い、自分の働く工場に労働組合を作ろうと決心する。しかし道のりは険しく、同僚や夫からの反対、工場の幹部からの脅しなどに遭いながらもシムは法律を学び奮闘する…。
 本作は女性のパワーを最大限に表現した作品だ。作中では工場幹部の男性と議論し闘うシムの姿が見られる。バングラデシュは政治における男女格差が少ない国として世界第8位に位置する国だ(参照元:国際労働機関)。国家元首、野党党首、国会議長など重要な立場に位置する女性が比較的多く、政治的に見れば男女格差は少ない。しかし、日常生活における夫からの抑圧や虐待など解決されるべき問題はいまだ存在する。
 主人公はダリヤ・アクター・ドリという実在する人物をモデルにして描かれた。ダリヤは実際に労働組合の組合長を務め、映画撮影時には俳優たちの縫製技術指導なども手掛けた。ルバイヤット・ホセイン監督は「働くことはエンパワーメントなのです」と語る。バングラデシュの女性たちはたとえ過酷な状況であっても働き、自分で稼ぐことが原動力となり、自分たちの権利のために今も闘っている。

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 バングラデシュの主要産業は繊維産業。その労働者のうち80%は女性が占め、平均年齢は25歳と若い。彼女たちはミシンの前で1日10時間以上、週6日働く。男性は働く女性を統制する役職についていることが多い。これは女性が生まれながらに「手先が器用である」「従順である」という特徴を持っているとみなされていることが原因だ。彼女たちの1ヶ月の給料は作っているTシャツ2枚分(日本円で約6,700円〜8,000円)。無職の夫を持つシムはこのわずかな賃金で家賃や食費などを払い、家族を養わなくてはならない。

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 このようなファッション業界の劣悪な状況が世に認知されるようになったのは2013年の「ラナ・プラザ崩落事故」以降だろう。この事故が起こったのは本作の舞台と同じバングラデシュだった。首都ダッカ近郊の複数の繊維工場が入った雑居ビルが崩壊し、そこで働いていた1,100人を超える労働者が死亡、約2,500人が負傷した。この事故が起こる前日、ビルで働く労働者たちは異変に気づきマネージャーに報告していた。地元警察も退去命令を出したようだ。しかし、ビルのオーナーは「問題ない」と主張し労働者は仕事に戻らなければ解雇になると通告され事故当日もビルで働いていた(参照元:FASHIONSNAP.COM)
 この事故は「ファッション史上最悪の事故」と呼ばれ、2度と起こさないために20ヶ国以上のアパレル企業を中心とした220社が「バングラデシュにおける火災予防および建設物の安全性に関する協定」に署名し、労働環境の改善を目指した。現在この協定はバングラデシュ以外の国々をも対象とした「繊維・縫製産業における健康と安全のための国際協定」に変化し、ユニクロで有名な日本企業のファーストリテイリングも参加している。また、「ファッション・レボリューションデー」というグローバルキャンペーンも登場し、アパレル産業のあり方を問いなおすきっかけづくりが行われている。しかし本作を見ると現在でも完全に安全で平等な労働環境には至っていないことが分かる。

あなたがもし20ドルのジーンズを買うのなら、それを作るのに誰かが不当に低い賃金で働いていることを知らなければなりません。しかしもしあなたが、労働者にきちんと対価を支払っていないからと言ってそのブランドの服はもう買わない、というのなら、それこそ労働者が絶対に望まないことです。それは解決策ではありません。
ールバイヤット・ホセイン監督

 本作はファストファッションの影の部分に焦点を当て、観客は劣悪な労働環境を目にすることになるが、それによってそのブランドの服を買わないことは解決策にならないと監督は語る。服を買わないことで工場で働く女性たちの稼ぎはなくなる。彼女たちはそれを求めているのではない。シンプルな答えのない複雑な問題だ。

 

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 女性たちのカラフルな衣服と明るい音楽とともに私たちが身につける衣服の裏側を知ることとなる本作。この過酷な労働環境を「遠いバングラデシュの話だ」と片付けてしまってはいけない。実際たくさんの日本人がバングラデシュで作られた服を購入している。加えて日本にも企業内のジェンダー格差や不当労働などの問題が蔓延っている。まずは身の回りの問題を解決する術を探ってみるのはどうだろう。シムの闘う姿から行動する勇気をもらえるはずだ。

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『メイド・イン・バングラデシュ』

2022月4月16日(土)より岩波ホールほか全国順次公開

公式サイトTwitter

実話にもとづくヒューマンストーリー。世界大手のアパレルブランドの縫製工場が集まるバングラデシュの首都ダッカ。工場で働くシムは、厳しい労働環境にあえぐ同僚たちと労働組合を結成すべく立ち上がる。工場幹部からの脅し、夫や仲間からの反対に遭いながらも、労働法を学び奮闘するのだが…。

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