人を喰べて生きる若者たちの悲しくも温かい純愛を描いた映画『ボーンズ アンド オール』|GOOD CINEMA PICKS #37

Text: Noemi Minami

2023.2.14

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 「人喰い × 青春ロマンス × ロードトリップ」この不思議な組み合わせが一つの映画のなかで奇妙にも美しく成立しているのが、2月17日に公開される『ボーンズ アンド オール』(R18)である。『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督とティモシー・シャラメが再タッグを組み、『WAVES/ウェイブス』で第29回ゴッサム・インディペンデント映画賞ブレイクスルー演技賞を受賞したテイラー・ラッセルが主演を務めた。

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 舞台は80年代のアメリカ中部。生まれつき人を喰べてしまう衝動をもったマレンは、幼い頃から父親と街を転々としながら暮らしていた。18歳の誕生日の朝、彼女は父親に置き去りにされたことを知る。傷心のなか、彼女は父親が残した手がかりをもとに、一度も会ったことのない母親を探す旅に出る。旅するなかで初めて同族と出会っていき、自由奔放なリーという若者とは行動を共にし次第に惹かれ合うが、同じ秘密を抱える二人は危険な逃避行へと歩みを加速させていくー

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 世界各地で公開されて以来、賛否両論の本作。「人喰い」という、否定しようのない非道徳的な行為を扱いながら、同時に二人の若者の青春ロマンスであり、一貫して彼らを批判する視点がないところが問題になったのかもしれない。スプラッターホラーとは違う、日常の行為としての人喰いのシーンは、身もすくむようなゴロテスクさにも関わらず、ずっと孤独だった社会ののけものである彼らがお互いに自分の居場所を見つけていく様子には心を寄せてしまう。

『ボーンズ アンド オール』は、不可能な愛、権利を剥奪された人々、そして自分の居場所を探すという夢を描いている。

ルカ・クァダニーノ監督(プレスリリースより)

 監督も話しているが、本作は「人を喰う」という行為について探求していない。衝撃的効果を狙ってタブーをテーマにしたわけでもないそうだ。それは、何かしらの理由で社会から排除された人々を表すメタファーである。よって主人公の二人を「人喰い」という側面だけで定義しない。マレンがいつも本を読んでいる様子やリーの個性的なスタイル、ロック音楽が好きなこと、そして他者を思いやりる二人の姿から彼らの人間性が自然と伝わってくる。
 誰しもコントロールできないことがある。もしそれが社会で許されないことだったら?この映画は“普通”ではいられない人々の葛藤を描く。

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 カミーユ・デアンジェリスによる若者向けの同題小説(2015)にインスピレーションを受けて本作の脚本を執筆したというデビット・カイガニックは、思春期特有の不安や不確実性に目を向けた。彼は執筆を進めるなかで、若い女性の心と体が一致しないこと、例えば摂食障害や肉体改造について読み進めていったそうだ。ただでさえ居心地の悪い体験となりうる思春期の体の変化やセクシュアリティの気付きなど、若者の自己との向き合いもテーマになっている。

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 グァダニーノ監督とっては初めてのアメリカでの制作となる本作は、アメリカ中部のオハイオ州、ケンタッキー州、ネブラスカ州のロードトリップでもある。アメリカに昔から根付く「人生を変えるロードトリップ」というジャンルに挑戦したかったそうだ。また舞台が「矛盾の多い80年代」という時代なのも大切な要素だった。

(80年代は)アメリカの一部地域の経済は活性化していたが、ほかの地域はまだ貧しかった。また楽観主義がうなぎのぼりのとき、取り残されている人たちもいた。この時代は、登場人物たちが抱える内面の矛盾、住処を探す旅、そしてそれらの不可能性に通じると感じたよ。

ルカ・クァダニーノ監督(プレスリリースより)

 そのため80年代の再現にはこだわりを見せた。ノスタルジーに浸ることなく、観客が実際に80年代を生きているかのように感じさせることを意識したという。例えば、売店に置かれている日用品は、当時実在したメーカーのものと全く同じように一から製作されていたり、ティモシーの髪色についても、もともとはビビットなカラーにしようしていたところを当時の髪染めでは不可能だった色だと知り、実際に80年代に実在したものを使用したりしたそうだ。劇中流れてくるサウンドトラックも、デュラン・デュラン、ジョイ・ディヴィジョン、ニュー・オーダーなど、当時の若者カルチャーを感じさせる。

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 この映画を観たとき、不穏で切なく、淡い世界観が劇場を出た後も自分の日常に忍び込んできたような不思議な感じがした。衝撃的なテーマを扱い、メタファーとしてもいろいろな読み方ができる本作だが、なんといっても映画を見たときの感覚が印象的だった。アメリカの風景や音楽、細かい映像のディティールが、ユニークな体験を作り出したのだと思う。グロテスクなのが苦手な方にはおすすめしづらいが、それ以上の魅力がこの映画にはたくさんつめられた。

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『ボーンズ アンド オール』

2023年2月17日公開

公式サイト

<ストーリー>
生まれつき、人を喰べてしまう衝動をもった18歳のマレンは初めて、同じ秘密を抱えるリーという若者と出会う。
人を喰べることに葛藤を抱えるマレンとリーは次第に惹かれ合うが、同族は喰わないと語る謎の男の存在が、二人を危険な逃避行へと加速させていくー

■監督:ルカ・グァダニーノ 『君の名前で僕を呼んで』 『サスペリア』
■出演:ティモシー・シャラメ 『DUNE/デューン 砂の惑星』 『君の名前で僕を呼んで』 、テイラー・ラッセル 『WAVES/ウェイブス』
マーク・ライランス 『ブリッジ・オブ・スパイ』 『ダンケルク』
■公式サイト:Bonesandall.jp ■Twiiter:ワーナー・ブラザース公式:@warnerjp ■ハッシュタグ:ボーンズアンドオール
© 2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.
■映倫区分:R18+

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