ロックダウン×女性の物語。触れると10秒で死ぬピンクの雲に隔離を強いられた世界の人間の精神状態を描くスリラー映画『ピンク・クラウド』|GOOD CINEMA PICKS #36

Text: Moe Nakata

2023.1.17

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 2020年、新型コロナウイルスの蔓延により世界各国でロックダウンや緊急事態宣言が発出され、私たちの日常生活はたちまちにして姿を変えた。マスクの着用、リモートで行われる会議や授業、デリバリーサービスの拡大など、ここ2年で変化した生活様式は挙げてもきりがない。
 “おうち時間”が定着し、家の中で過ごすことが増えた2年。自粛によるフラストレーションや自分が感染するのではないかという不安から“コロナうつ”という言葉も登場し、精神的な面で悩まされた人たちも少なくないだろう。
 そんな、突如世界中が同時に経験することとなった「制限された状況下」での人間の精神状態を描いた映画『ピンク・クラウド』が2023年1月27日に公開される。

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 一夜の関係を共にしていたジョヴァナとヤーゴ。その朝、二人はけたたましい警報に起こされた。突如現れたピンク色の雲。それは触れると10秒で人を死に至らしめる毒性のある雲だった…。本作ではこの二人の視点からロックダウンによって揺れ動く人々の感情が描写される。友人の家から出られなくなった妹、看護師と家に閉じ込められた療養中の父親、一人で家に篭ることになってしまった親友…。彼らの生活がコロナ禍の外出自粛で経験した私たちの生活を思い出させる。
 そして、見知らぬ他人であったジョヴァナとヤーゴの関係性も変化していく。早い段階でロックダウンが終わらないことを悟ったヤーゴはジョヴァナと子どものいる家庭を築こうとする。反対にジョヴァナは子どもを持たずに自由に生活することを望んでいる。やがて、二人の間には男の子リノが生まれるが、ロックダウン以前の世界を知らないリノはどのように育ち、外の世界にどのような印象を持つのだろう。非現実的でありながら今となっては現実的なロックダウン中の生活は観客の心を大いに揺さぶる。

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 何しろ衝撃的なのは本作が2017年に書かれ、2019年に撮られたということだ。しかし、作中の二人のロックダウン中の生活は私たちが経験してきた生活と酷似している。彼らはテレビ電話でお互いの顔を見ながら連絡を取り合う。ウェブデザイナーのジョヴァナは人と会わずとも収入を得ることができ、安定している。反対にカイロプラクターのヤーゴは仕事ができなくなり、ジョヴァナにウェブセラピーのサイトを作ってもらうことで新しい生活に適応していく。マッチングアプリやロボット犬なども登場し、食材などの生活必需品はドローンで運ばれてくる。外に出なくても物理的には満足できる世界がもう目の前までやってきているのだ。
 しかし、精神的には満足できる世界とは言えないかもしれない。ロックダウン中の生活にうまく適応できたヤーゴ。生まれたときから雲が当たり前の存在になっている息子のリノ。そして、外の世界を愛し、雲がなくなることを願うジョヴァナ。初めは助け合って過ごしていた彼らの心は次第に離れていく。もし、自分がこの世界で生活していたら…と考えぞっとする観客も多いはずだ。

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 そして何より印象的なのが窓の外に迫るピンク色の雲だ。雲は世界をピンク色にあたたかく照らし、圧倒的な存在感で迫ってくる。

どうして雲の色を薄いピンクにしたのかというと、それが魅力的であり、一見すると無害に思える色だからです。

ーイウリ・ジェルバーゼ監督

 加えてピンクは女性と結びつけられる色であると監督は語る。子どもは欲しくないと考えているジョヴァナであったが、雲が消えないことを悟った彼女は次第に心境が変わり社会が求める女性像に従って生きていくしかないと考える。フェミニストとして生きるジョヴァナにとってはピンクという色自体が息苦しいものなのだ。
 イウリ・ジェルバーゼ監督にとって初の長編作品である本作。脚本執筆中に最も興味があったのはキャラクターの感情の変化を描くことだった。生存競争下において人々がぶつかり合う作品が多いのに対して、彼女はキャラクターに焦点を当てた。そしてキャラクター同士の関係性から最終的には雲とキャラクターの関係性を追求した。彼らの葛藤や息苦しさはリアリティ満載で決して他人事とは思えない。

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今回、誰もがロックダウンの体験をしたことで、一人一人がこの映画に対してそれぞれの思いを抱くと思います。『ピンク・クラウド』は選択、欲望、自由についての映画です。

ーイウリ・ジェルバーゼ監督

 外出自粛中の生活を思い出しながら見てほしい本作。観賞後は監督の言葉の通りそれぞれが違った意見を語ることになるだろう。あなたはピンク色の雲に対してどのような感情を抱く?

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『ピンク・クラウド』

1/27より 新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー

Website/Twitter/Instagram

突如現れた謎のピンクの雲によって部屋の中に閉じ込められた人々。
楽観、倦怠、絶望。一歩も外に出られないまま、やがて世界は少しずつ狂っていく—

突如、世界中に発生した正体不明のピンクの雲は、10秒間で人間を死に至らしめる毒性の雲だった。世界の状況は一変、外出制限で街は無人となり、一夜の関係を共にしていたジョヴァナとヤーゴも長くて数週間で終わるであろうロックダウン生活に入る。しかし月日は流れ、ピンク色の雲が日常の景色となるにつれ、ジョヴァナの世界に生じた歪みは次第に大きくなっていくのだった……。

監督・脚本:イウリ・ジェルバーゼ 
出演:ヘナタ・ジ・レリス、エドゥアルド・メンドンサ、カヤ・ホドリゲス、ジルレイ・ブラジウ・パエス、ヘレナ・ベケル
音楽:カイオ・アモン
2020|ブラジル|ポルトガル語|103分|シネスコ|5.1ch|カラー|英題:THE PINK CLOUD|原題:A NUVEM ROSA|字幕翻訳:橋本裕充 <PG12>
配給・宣伝:サンリスフィルム 

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