正義か、自分のキャリアか?若い女性アシスタントの1日から、映画業界の闇<しくみ>に切り込む映画『アシスタント』|GOOD CINEMA PICKS #40

Text: Hinata Hiraiwa

Edit: Noemi Minami

2023.5.31

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 誰もが見て見ぬふりをしてきた社会の闇(しくみ)を知ったとき、あなたはどんな選択をしますか?

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 有名大学を卒業し、業界で名の知れた会長のジュニア・アシスタントとして有名エンターテインメント企業に就職したジェーンの一日を綴った映画『アシスタント』。まだ日が昇らない暗闇の中、ジェーンが出勤する場面から始まる本作は、プロデューサーという夢を叶えるために、華やかさとはかけ離れた事務作業も地道にこなし続ける彼女の姿が描かれる。そんなある日、会長によるハラスメント問題に気付いたジェーンは声を挙げようと行動するがー。映画業界に限らず、働く女性全員が直面する、“暗黙の了解”がもたらす企業の闇を、静かに淡々と、かつ大胆に描いた映画だ。

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 『ジョンベネ殺害事件の謎』を手掛けたことで知られるドキュメンタリー映画作家・キティ・グリーンが脚本・監督を務める本作は、彼女にとって初の長編映画となった。2017年のハーヴェイ・ワインスタイン事件を発端にいっそう注目された「#MeToo運動」を題材とし、監督による数百人もの労働者へのインタビューとリサーチから得た膨大な情報をもとに制作された本作は、サンダンス国際映画祭、ベルリン国際映画祭にて上映され、高い評価を得ている。主人公の「ジェーン」という名は英語で匿名の女性という意味を持つ“Jane Doe”に由来しているそう。その主人公を演じるのは『オザークへようこそ』でエミー賞助演女優賞に3度輝いたジュリア・ガーナー。「性別や年齢、国籍も不確かな匿名の人々」を主題に、顔のない人間の作品を制作する3DCGアーティスト・POOLが手がけたティーザービジュアルにも注目だ。

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 作中では、「働く女性」が置かれる環境の厳しさが、リアルに映し出される。悪気はなさそうだが、ジェーンをどことなく見下した所作が多い2人の男性の同僚や、どこか昭和のお茶くみ当番を彷彿とさせる書類準備や会長の部屋掃除の雑務など、BGMが一切ないままジェーンの職場での一日を辿ることで、最下層として扱われる彼女の姿が見えてくる。また、映画が終盤に近づくにつれ、正しい行動をとろうとする人ほど傷つけられ、隠蔽され、追いつめられていく社会の現実を突きつけられた。

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 また、本作では、問題となる会長をあえて一切登場させずに、社員との電話やメールでのやり取りのみで彼の人物像は形作られていく。「ボス」という存在を抽象化し、普遍的なものにすることで、視聴者は自分にとっての「ボス」的存在を想像しながらジェーンと自分の境遇を重ね合わせ、彼女が直面する問題をよりいっそう身近に感じられるだろう。

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 そして、会長からあえて焦点をずらし、女性も含めた他の会長の部下たちやジェーンの同僚の振る舞い、発言に目を向けさせることで、彼らまでもが、無意識のうちに会長と同じ加害者、もしくは共犯者となり、会長の独裁主義的な社会構造を生み出してしまっていることを強調しているようにも見える。

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 苦難・窮屈さを感じる一方で、自分の立場を考えると行動できない状況に追い込まれた働く女性の葛藤を、一人の若手女性アシスタントのリアルな一日を通して細かく描写した本作品。一人の女性としてジェーンに共感すると同時に、自分も簡単に共犯者側になる恐れがあるということにハッとさせられる瞬間も多々あった。2017年に話題となった#Me too運動に基づいて製作されたこの作品だが、2023年の現在もなお必要とされ、私たちの心に強く訴えかけてくる理由を、私たちは考えなければならないのではないか。

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映画『アシスタント』のトークイベント付き試写会を6/7に開催します!

日時:6月7日(水)

19:30 open / 20:00 start

トークゲスト:
武田砂鉄さん、永井玲衣さん

定員:25名

場所:都内
※当選者のみにお知らせいたします

応募方法はNEUT MagazineのTwitterかInstagramをチェックしてね!

 

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『アシスタント』

2023年6月16日公開
公式サイト

<ストーリー>
名門大学を卒業したばかりのジェーンは、映画プロデューサーという夢を抱いて激しい競争を勝ち抜き、有名エンターテインメント企業に就職した。業界の大物である会長のもと、ジュニア・アシスタントとして働き始めたが、そこは華やかさとは無縁の殺風景なオフィス。早朝から深夜まで平凡な事務作業に追われる毎日。常態化しているハラスメントの積み重ね……しかし、彼女は自分が即座に交換可能な下働きでしかないということも、将来大きなチャンスを掴むためには、会社にしがみついてキャリアを積むしかないこともわかっている。ある日、会長の許されない行為を知ったジェーンは、この問題に立ち上がることを決意するが――。

監督・脚本・製作・共同編集:キティ・グリーン  
出演:ジュリア・ガーナー、マシュー・マクファディン、マッケンジー・リー
製作:スコット・マコーリー、ジェームズ・シェイマス、P・ジェニファー・デイナ、ロス・ジェイコブソン
サウンドデザイン:レスリー・シャッツ
音楽:タマール=カリ
キャスティング:アヴィ・カウフマン
2019年/アメリカ/英語/81分/2:1/カラー/原題:The Assistant/日本語字幕:松永昌子
配給・宣伝:サンリスフィルム
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