歩きか自転車で動ける範囲がローカル。街で暮らす商店会や町会のみんなと作るストリートカルチャー|都会のローカルコミュニティ、「原宿キャットストリート CATs」の活動日誌 #005

Text: Genki Nakamura

Photography: Shiori Kirigaya unless otherwise stated.

2020.2.18

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こんにちは、CATs(キャッツ)の中村元気(なかむら げんき)です。
毎度ですがCATsは、原宿の裏通りにある、個性的な店舗の立ち並ぶキャットストリートのお店の人を中心とする人たちと始めた地域コミュニティ活動です。全ての活動の根底には「消費の中心地」といわれる原宿だからこそ「消費」について考え、都会だからこそ「困ったときに助け合えるような関係性」を作りたいという共通した思いがあります。

原宿という街の意外性というか、皆が知らない一面として、「たくさんの方が住んでいる」ということがあります。このエリアにはなんと8町会8商店会もの地域団体が存在し、様々な地域活動が行われていたり、街で安全に過ごすことができるように日々見守ってくれています。今回は一番身近な穏田(おんでん)・キャットストリート商店会との活動の話から、地域に住む皆さんの話をしたいと思います。

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左から中村元気、隠田・キャットストリート商店会会長の大坪昌広さん
都会のローカルコミュニティ、「原宿キャットストリート CATs」の活動日誌 についてはこちら

原宿はむかし田園地帯だった

「原宿」という地名は鎌倉時代から存在していたようで、鎌倉時代から戦国時代にかけて、千駄ヶ谷方面から現在の神宮前2~4丁目(かつての原宿1~2丁目)を通り、青山方面に向かって貫いていく旧鎌倉街道(鎌倉と奥州を繋ぐ街道)が重要な幹線道路だった時代に、宿駅*1として発展したのだそう。

江戸時代の原宿村は、隣接する隠田村(おんでんむら)全域とともに、一部が忍者として知られる「伊賀者(いがもの)の支配下」にあり、一部は幕府代官の支配を受けていたとされます。当時の渋谷川(隠田川)には水車がいくつも造られ、広大な田畑を潤していました。広大な田地・畑地の間には、屋敷林に囲まれた大名家や大身旗本の屋敷地が点在していたことなども、各種資料からわかっているそう。また、葛飾北斎の浮世絵「隠田の水車」には、当時の隠田が描かれています。田園地帯越しに遠望する、富士山の鮮やかな姿が活写されています。

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葛飾北斎 「穏田の水車」
Image: Wikimedia Commons

一気に時代を昭和まで戻します。1964年の東京オリンピックをキッカケに、渋谷川は暗渠化(あんきょか)*2され、今のキャットストリートがあります。第二次世界大戦中は焼け野原になった場所でもありますが、戦後にも住んでいた皆さんからは泳げるほど綺麗で、ホタルもいたとのお話もありました。今とはだいぶ様子が違っていることがよくわかりますよね。今の「ファッションの街」というイメージは本当に数十年の間に作り上げられたものだということがわかります。

(*1)交通の要所にある、旅人のための宿泊所や荷物の輸送のための人馬を中継ぎできる設備を有した場所。宿場ともいう。
(*2)川に蓋をすること

政策が生みだした、街のカルチャー

僕がキャットストリートっていいなーって思った理由は、古着が好きだったということもありましたが、こんな都会なのにとても空が近いことも大きな理由だったと思います。皆さん、キャットストリートに立っている建物は背の低いものばかりだということ気づいてます?答えから説明すると、この街では建物の高さ制限を設けているということになるのですが、とっても開放的な気分になりますよね。

政策によって街のカルチャーが作られているんですよね。それで言えば、1977年から1998年まで続いた表参道のホコ天*3もまさにそれに近いことなんだろうなと思いますね。いろんな人が道で混ざり合い、それぞれが違うことが当たり前で、それを受け入れる場の雰囲気があったんだと思うと当時そこにいることのできなかった自分がとっても悔しいですね。もう原宿駅は戦災からも逃れて、96年もの間親しまれてきたにも関わらず、2020年の東京オリンピックの開幕までに建て替えられてしまいます。近代原宿の象徴が失われたような感じですよね。

(*3)週末になると原宿駅前から青山通りまでが歩行者天国となっていた

商店会長との出会い

もうすぐCATsの活動は7周年を迎えるのですが、その中身では地域にいる人と人をつなぐ活動に注力してきました。クリーンアップコンポストはまさにそういった活動だと考えています。とはいえ中心メンバーの多くはキャットストリートにあるお店の方なんです。でも実は原宿というのはとっても住んでいる方が多い地域で、自治も活発に行われています。今回は、一番関わりの強い「穏田・キャットストリート商店会」を中心に活動を紹介します。

会長(穏田・キャットストリート商店会会長の大坪昌広さん)

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今回のゲストは、穏田・キャットストリート商店会会長の大坪昌広(おおつぼ まさひろ)さん。初めて会ったのは以前コンポストの回に出てもらったひなこさんのお母さんからのご紹介でした。もっと地域の方と活動を深めたいと考えていたのでとってもいいご縁になったと思っています。商店会長なので、大坪さんも当然商売をしていて、原宿で「昌(しょう)」という日本料理屋をやっているんです。お昼は安定の美味しい定食が食べられます。夜は地域で働く人もちょっと引っ掛けていくような居酒屋にもなっていますが、地域の仕事も忙しい方なのでいっつも開けているわけではないみたいです。元々お魚屋さんだったという大坪さん、撮影の日の朝も市場まで魚を仕入れに行っていたそうで、お店で出すお刺身もかなり美味しいです。

会長と話すことで見えてきた、地域の見えていなかったこと

商店会と活動することで、街で暮らす方々と接する機会が増えたことが一番の収穫だと思っています。皆さんもよく考えてほしいんですけど、遊んだり、働いたりする街と、暮らす街というのは大きく違うと思いませんか?自分が住む街がポイ捨てだらけだったらどんなにいやだろうっていう当たり前の感情に気づいた時、クリーンアップをやる意味が以前よりもさらに強くなりました。

大坪さんがいつだったか、「本当に地域のことを考えて一つ一つの活動ができるかなんだよな」と言っていたことがあります。確かにどの世代間でも上の世代が言っていることなんて口うるさく感じることなんだろうけど。でも、そんな上の世代の皆さんが地域を支えてきたからこそ、今の街があるってことは、多分みんなが思っているよりもすごいことなんだと思っていて、空が広いとか、文化が根付いているとか、そういうことが継続されるには、地域の懐の深さと大きく関係しているはず。ずっと街を見続けてきた大坪さんや他の商店会の皆さん、地域に住み続けているからこそ分かることや言葉の重みを通して、街を見る視点をいただけたことは、キャットストリートで活動していく上で大きな財産だと感じています。

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地域への関わり

原宿には、大坪さんを含む地域の商店会や町会の方が有志で地域環境を整える「原宿美化推進委員会」という活動があります。地域清掃、放置自転車の取り締まり、花壇の整備、落書き消しの4つの活動が中心になっているものです。この活動に関して詳しくは触れませんが、地域の人が常に地域に目を配り、環境を整えているからこそ綺麗な街があると強く感じています。地域を居心地のよい場所にしようとする時、CATsにとっても環境を整えることの優先度が特に高いですし、地域のみんなが関わりあえる環境を作ることもとっても大事なことだと感じているので、CATsも花壇の整備や一斉清掃に参加をしています。

特に手伝っているのは、花壇の整備です。以前の回でも取り上げたコンポストで作った堆肥をキャットストリートの花壇で使っています。堆肥の地産地消ですね。地域で生み出した価値を地域で消費するという循環を生み出している活動の一つです。実はキャットストリートの花壇ではりんごの木を育てています。長野県飯田市座光寺地域との地域交流をきっかけに原宿・表参道地域が苗を譲り受け、この地で育てることになりました。地域でできたりんご同士を混ぜ合わせ「表参道座光寺シードル」を作るまでになりました。

このシードルの完成を祝って毎年秋に開催しているのが「穏田アップルロードマーケット」です。近くの商店会も巻き込んで楽しく開催しています。商店会員が出店の中心ですが、CATsからも複数店舗を出店していたり、ゴミステーションの分別を手伝ったりしてました。普段土日の日中にはあまり地域のおじいちゃんおばあちゃんを見かけないのですが、この日ばかりはたくさんの地域の方が遊びに来た方と混ざり合いながら歩く姿をたくさん見ることができてほっこりしましたね。

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Photography: おんでんアップルロードマーケット

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Photography: おんでんアップルロードマーケット

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Photography: おんでんアップルロードマーケット

地域の未来に参加する

地域の未来というのはやはり直接民主制のような顔の見える関係の中で運営されるところにあると思います。近い距離ならば、地域に自分たちの意思を反映しやすいという大きな魅力があると思うからです。

でも今、地域を見渡すとどうでしょう?地域にいるみんなが地域に関わっているでしょうか?国政と同じで地域の不便に文句ばかり言ってはいないでしょうか?そんなことを言っている人を否定してばかりいませんか?地域をもっと近くてあったかい存在としてみんなに参加してもらう場を作っていくことが、地域をより良い場所に変えていく方法だと思っています。

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CATsはキャットストリートで立ち上げた活動で、拠点も変わらずキャットストリートです。実は今やっている活動の範囲を大きくしていこうという気は全くありません。いいなと思って真似てくれる人がいたらどんどんやってほしいとは思っています。信頼して日々の活動を共にできる人というのはどのくらいの距離にいる人なのでしょうか。キャットストリートくらいの距離感にいればすぐに会えるし、ふらっと話をしに行くこともできる気がしています。車や電車を使うような距離感ではなく、徒歩か自転車で移動できるくらいの範囲の人たちを日々活動でつないでいくことが大事だと考えています。CATsというのは信頼し合いながら日々の何気ない地域活動を共に行い続けることができる最大公約的な範囲を証明する実験なんです。

もう一つ重要なのは、地域というのは、最初からコミュニティであったということです。CATsって活動によってコミュニティを作ったというより、そこにあったコミュニティを可視化したということなんだと思っています。地域という単位で考えるということは、当たり前に多様性を内包しているってことなんです。環境問題に詳しい人がいて、詳しくない人がいて、ロックが好きなのか、ポップが好きなのか、性別や職種もいろいろ。もう様々な要素を持った人の集合体が地域というわけですよね。だからこそお互いに優しい気持ちや感謝の気持ちで接することができたらいいなと思います。

CATsというのは組織ではなくコミュニティです。どんな人も同じ地域に関わる人としてポジティブに接することで、どんなカルチャーでも受け入れて、ミックスする器でありたいですね。場所があることが懐であり、みんなをつなぐキーワードとしての地域があると思ってますので、みんながそれぞれの意思や考えを活動にして表現することで、地域の色が少し変わっていく様子を今後も見続けたいです。

大坪昌広(おおつぼ まさひろ)
穏田・キャットストリート商店会長

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中村元気(なかむら げんき)

Instagram

1992年、埼玉県行田市生まれ。 原宿のキャットストリートという通り沿いで地域活動 CATsを始める。地域に関わる様々なレイヤーの人達と居心地のいい街を作るために日々活動中。消費の中心地だからこそ、クリーンアップなどお金では手に入らない人間関係を作る活動や、表参道の落ち葉を使ったコンポストなど生産側になりゼロから価値を生み出すアクションを実験的に行う。それ以外の活動には都市型屋上農業や、地域のみんなで行うキャンプや山登りなどがある。また、2018年には地域のゴミ問題の根本解決を目指すために「0 waste=ゴミ・無駄のない」ライフスタイルの提案を行う530weekという活動を立ち上げ、5/30にイベントを開催した。

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CATs

Facebook

東京の中心で昔ながらの商店街のような空気感を持つ、CAT street で働く人たちがメインのコミュニティ。商いをする人たちが、商い以外の活動を通して繋がっている。”ACT DIFFERENT” というコンセプトを掲げていて、消費の中心地、原宿で日常的に消費について考え、行動できる仕組みを作ったりもしている。

目的:
*都市の真ん中で、地域に関わる個人や店舗が有機的につながること
*地域に関わる人が、当たり前の日常に少し変化を起こすこと
*地域に関わる人が、生活に必要な物だけを選ぶライフスタイルが浸透すること

活動:
*Cleanup
*Compost
*CAFE SHIBUYAGAWA
*CAMP CLUB
*Meetup

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