「このぐらいの傷でダメなんだ」大手繊維商社の“現実と葛藤”をバネに生まれた、アップサイクルブランド【Sponsored】

Text: YUUKI HONDA

Photography: Daiki Tateyama unless otherwise stated.

2021.5.31

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 2021年3月、三井物産の子会社でファッション・繊維事業を担う三井物産アイ・ファッション(株)から、新たなブランド「Annaut(アンノウト)」が発表された。コンセプトは、「一度役目を終えたモノ、価値を失いかけたモノを再び価値あるものに生まれ変わらせます」。ものづくりの過程で発生する“ムダ”や“ロス”、一度役目を終えた“モノ”を活用し、再び価値あるものに生まれ変わらせることだ。
 立ち上げたのは、三井物産アイファッション(株)に入社8年目で抜擢された金子祐助(かねこ ゆうすけ)。OEM*1営業や新規事業立ち上げを担当し、国内外の工場も回ってきた彼が、その経験を元に社内からメンバーを指名。ブランドのコンセプトを考案、コレクションを作り、最初の企画会議から1年も経たずにリリースまで手がけた。

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金子祐助

 日本屈指の繊維商社だからこそ、ロスが生まれる現場には日夜立ち会ってきたはずで、だからこそ、ロスを価値あるものに変えるというコンセプトに覚悟がにじむ。服が作られる背景にはどのような課題や葛藤があって、なぜAnnautは生まれたのか。個人が企業組織のなかで“我”を通すためには何が必要なのか。まだ発売されたばかりの2021年春夏コレクションから、爽快なパステルカラーのデニムセットアップをまとった金子に、自身のバックグラウンドも含めて聞いた。

(*1)「Original Equipment Manufacturing」の略称。メーカーが他社ブランドの製品を製造すること。

コンプレックスを隠すための服から自分を解放するための服へ

 服に興味を持ったのは中学生のとき。親戚からもらったファッション雑誌がきっかけだった。誌面を飾るモデルや色とりどりの服を目にして、漠然と楽しそうだな、かっこいいなと思った。ただ当時は野球に打ち込む毎日で、友達と遊びに行く時間すら惜しんで白球を追いかけていた頃。何よりも野球が上手くなりたくて、服は二の次。中高の思い出はグラウンドでの日々だ。そんな高校時代から一転したのが大学時代。興味の針がファッションに傾き、よく服を買うようになった。

「最初はコンプレックスを隠すためのツールとして服を買っていたんです。肩幅があるから、少しでもゴツく見えない服にしようとか。でも、ある古着屋の店員に『着ていくうちに似合っていくし、着られるんじゃなくて着こなせるようになるから、深いこと考えずに自分が好きなものを買っていけば?』って言われて、そこからファッションに対する意識が変わって、のめり込んでいきました」

 大学では服飾サークルに入ってメンバーたちとファッションショーを開催し、バイトでは販売員としてファッション業界の前線を経験。そんな大学生活のなか、服への興味がより強くなっていったのは自然な流れで、特に関心を持ったのが、服が生産されて消費者に届くまでの“過程”だった。

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 「生産者が写ってるパッケージの野菜はあるけど、なんで服にはそれがないだろう」「アパレル店舗に服が届くまでにはどれだけの人が関わっているんだろう」この疑問を解消するために、就職先は繊維商社を志望。アパレルと生産者、流通の両極に位置する双方とコミュニケーションが取れる点で商社は魅力的だった。両者を繋ぐ商社の視点から、ファッション業界の全体を把握しようと就職したのが現職の三井物産アイ・ファッション(株)だった。

「このぐらいの傷でダメなんだ」働くなかで知った現実と葛藤

 2021年で入社8年目を迎えた金子。この8年で、彼はファッション業界が抱える葛藤も体験してきた。

「少ない経験しかありませんが、シンプルにもったいないなと感じることがあります。裁断くずもB品*2もそう。このぐらいの傷でダメなんだ、と思うことがありました」

 縫製業界は人の手に頼る部分も多いため、1工程1工程人がミシンを踏んでいることがほとんどで、全ての製品を均質にするのは難しいそうだ。生地に汚れやキズが混ざっていることもあれば、二次加工を行う際に意図せず品質が損なわれる場合もあるという。こうしたさまざまな要因でB品が生まれるわけだが、これを納期に間に合わせるべく修正する人々の努力はあまり知られていないと金子は話す。

「こちら側の都合で段取りが悪かったり、遅れたりしても納期は変えられないときでも協力してくれる現場の人たちの努力は、日本でモノを見ているだけの人には伝わらないんです。それに値段交渉だって日常茶飯事。お客様のために少しでもリーズナブルに作ることは我々企業の使命でもありますから当然なんですけど、限界はありますよね。我々だけの意思では決められないこともたくさんありますから、もどかしい。そうした現状を自分たちで変えていきたいと思う気持ちが芽生えたのが入社3年目ぐらいでした」

 であれば、自分たちで企画から販売まで責任をもって手がけるのはどうだろうか。この発想が、後のAnnaut立ち上げに繋がっていく。

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 Annautが目指すのは、購買する理由に「安いから買う」「かっこいいから買う」「かわいいから買う」などプロダクトの良さと、「ブランドのコンセプトに共感したから買う」が並ぶ未来。金子はそれを「投票に近い感覚」と例える。
 何となく買う消費から、意思のある消費へ。Annautもその一翼を担うことができれば嬉しいと彼は言い、何かを作ることを通して何かを伝えるなら、果たすべき責任があり、そもそもの意義を考え続けなければならないと話す。

「作るのをやめちゃえばいいじゃんって意見にも一理あります。でもそれで食べている人もいれば、人生を懸けている人もいますから。それに、何も新しいものが生まれない世界なんて楽しいのかなと僕は思っちゃうんです。ただし作るなら、そこに存在する意味がちゃんとある服が作りたいです。そのために、何で作るのか?と自問自答し続けて、出した答えを固定化させないで、その後も考え続けて、柔軟に変化させていくことが重要です。一番大切なことは、自分が関わっている環境で何を感じて何を実行するか、だと思います。自分なりのAttitudeを常に模索し続けなきゃいけないんだと思います」

(*2)いわゆるワケあり商品。定められた品質に達していないと判断された商品を指す。

合理化を突き詰めた結果のジェンダーレス

 Annautのアイテムには、衣料品を再資源化する「CLOTHLOOP(クロスループ)」の導入、クラボウ(倉敷紡績株式会社)が開発したデニムの再利用技術を元に作られるデニム生地の利用など、いくつかの特色があるが、展開アイテムを最小限に抑え、全アイテムのカラーとサイズを絞っている点もそれに当たる。“ムダ”や“ロス”を価値あるものに変えていくというコンセプトの前に、“ムダ”や“ロス”そのものを生み出さないための試みであり、同時に生産ラインの負荷を減らすための試みでもある。

「例えば10万着の服と100着の服を作るとき、縫製に取り掛かるまでの労力はほぼ同じなんです。縫製をお願いするところまでの過程は同じで、作る数が違うだけなので。ただ展開するアイテムやサイズ、カラーを欲張ると、サンプルチェック、デザイン会議、縫製の手間などがその数だけかかるので、めちゃくちゃ大変です。なのでデザインの数を絞るだけで、僕らも工場の方々も労力が減ります。あと個人的には男女に分ける必要性も感じないので、すべてジェンダーレスにしています」

 そうして生まれたのが、さまざまなシーンに対応できるベーシックかつゆったりとしたシルエットとサイズ、そして長い間着用しても疲れない着心地の良さ。便利なサイドポケットや袖のまくりやすさなど、利便性を追求した、かゆいところに手が届く設計のアイテムたちだ。
 興味深いのが、労力的にも物質的にも無駄のないものづくりを目指して合理化を突き詰めた結果ジェンダーレスになったこと。「今日は私で明日は俺ね、みたいな感じで、誰かと服をシェアできたら楽しいじゃないですか?」と彼は屈託がない。

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企業のなかで“我”を通すために必要なこと

 近年SDGs*3やESG*4といった標語が広まるにつれて、企業責任を問われやすい大企業は、外的圧力も理由に対応を迫られてきた。環境負荷が高いとされるファッション業界も強く変化を求められているが、その点、三井物産アイ・ファッション(株)からはAnnautの他にも「WA.CLOTH(ワクロス)」「ANNUAL(アニュアル)」「MALIBU SHIRTS(マリブシャツ)」といった、環境負荷の軽減を前提にしたブランドが生まれている。金子はこの点について「若手に裁量を与えようとする社の方針を感じます。僕に新ブランド立ち上げの話が回って来たのもその一環だと思いますし」と話し、こう続ける。

「特にここ数年はSDGsやESGに向けて、三井物産グループ全体で考えられています。ただどうアウトプットしていくかはバラバラで、僕らは僕らなりのアウトプットをしていきます。正直ちゃんとやらないと意味がないと思ってるし、とりあえずやっとけば良いみたいなノリだと何にもならないし、そういうのって分かっちゃうと思うので。だから本気でやりますと伝えています。せっかく与えてもらったチャンスでもあるので、最大限に活かしたいです」

 これは当然、報告や承認など、社内で踏まなければならない雑多な手順を踏んだからこそできる主張で、そこに至るまでには時間をかけたそうだ。それが本質的にブランドのためになる時間かと問われれば別だが、企業内で“我”を通すためには必要なことだ。

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 そうして生まれたAnnautだが、改めて、最初の企画会議から1年以内でリリースされたスピード感に驚かされる。大企業はその規模ゆえに舵を切るのがどうしても遅くなってしまうものだが、何がそこまで歩みを早めたのか。笑いながら「頑張りましたから!」と言う金子にもう一つ踏み込んで聞いてみる。どこからそのモチベーションが来るのかと。

「う〜ん…まあ正直に言えば一番のモチベーションは自分のためなんです。一個人がどこまでできるか挑戦し続けたい気持ちは常にあって。70歳になったときに、自分はこういうことをやってきたと胸を張れるように生きていきたいんです。それに世界中の現場で働く人たちの葛藤を見てきたので、やらなければって使命感も大きいです」

 Annautはメンバーの実体験から始まっているブランドだ。だから常に等身大で、正直で、関わっている人を思いやるブランドでいられる。その嘘のなさは、彼らの服が雄弁に語ってくれるだろう。

(*3)持続可能な開発目標。「Sustainable Development Goals」の略称。2030年までに持続可能でよりよい社会を目指すために、2015年の国連サミットで採択された17のゴールと169のターゲットから構成される国際目標。

(*4)企業が果たすべき責任として挙げられる項目を集約した「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の頭文字をとった標語。

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Annaut(アンノウト)

Rewrite
再び価値あるものに
モノづくりに関わっている我々だからこそ見える
生産の過程で生まれる”ムダ”や”ロス”
一度役目を終えた”モノ”
そんな「価値を失いかけたモノ」を、本来の良さを活かし
再び幸せを生み出す「価値あるモノ」として提供します
Website / Instagram / Webstore

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金子祐助

91年生まれ 早稲田大学出身。学生時代に服飾活動や古着屋の販売員、DJ活動などを経験して2014年に繊維商社である今の三井物産アイ・ファッション(株)に入社。国内アパレルのOEM/ODM営業海外の縫製工場で縫製ラインの立上げなどを経験してAnnautの立上げに参画。好きな言葉は「GRIT」。▷Instagram

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